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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
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第19話 心を1つに

頑張れ、トゥルーデ・・・・・・!

さあ、皆様もご一緒に!!

 「ふざけるなっ!!切り裂い、切り裂かれたはずの衣装が何故元通りになってる!?」


 ドロススは焦って口を滑らせそうになりながらきいた。

 トゥルーデはニコリと笑う。


 「完全には元通りにならなかったよ。見て」


 トゥルーデはゆっくりと回ってみせた。

 狼の衣装の切り裂かれた部分はしっかりと縫われているが、縫った跡が目立っている。


 「ね?」

 「てめえええ!!」

 「私の名前はトゥルーデ・キルス。そんな呼び方はやめて」


 トゥルーデはドロススを睨んだ。


 「ぐっ!!」

 「大変だったんだよ?糸は足りないし、ガムテープはベタベタするしで」


 彼女はそう言うと、息をついた。


 「でも、皆が助けてくれたから、頑張れた」

 「皆、だと?」


 ドロススがきくと、トゥルーデはうなずいた。

 それと同時にトゥルーデの後ろからシャーロットやピーター、そして同じクラスの園児達が歩いてきた。


 「せっかくだし、劇を成功させたいって」


 ピーターはトゥルーデの隣に立ち、肯定するようにうなずいた。

 信じられないことだが、これは現実だ。





 数時間前、トゥルーデはシャーロットやピーターに協力してもらって狼の衣装を壁から剥がすと、テーブルの上に置いた。

 裁縫セットの糸だけでは足りない可能性があるが、やるしかない。


 「よし、やるぞ!!」

 「「おーっ!!」」


 シャーロットとピーターは拳を突き上げた。

 2人は衣装が床に落ちないようにしっかり押さえ、トゥルーデは糸を針に通して玉結びをしてから切り裂かれた部分を縫い始めた。

 久しぶりに裁縫をしたので以前と同じように何度も間違えたが、諦めずにやり直し、頑丈に縫っていく。

 キルス教徒の園児達はそんなトゥルーデを静かに見守る。

 一方のドロススに置いて行かれたドゥールー教徒の園児達は戸惑いながらオロオロするしかなかった。

 奇妙な空気が、教室を支配していた。

 それでもどうにか切り裂かれた部分の半分まで縫うことができたが、やはり、ぬいぐるみとは違い、大きさが違うということもあって、あっという間に糸が切れてしまった。


 「・・・・・・仕方ない。別のクラスか、先生に予備の糸を借りてくる」

 「それなら僕が代わりに借りてきます」

 「ピーター!?でも・・・・・・」

 「行かせて下さい。時間がありません!」


 ピーターはトゥルーデをまっすぐ見つめた。

 そんなトゥルーデとピーターの会話を聞いて我慢できなくなったキルス教徒の園児達は声を上げた。


 「どうしてそこまで!?」

 「ピーター、トゥルーデ様と一緒にトイレとかに隠れた方が良い。こんなことしてる場合じゃないでしょ?」

 「マジでそれな!もう無理だ!!」


 しかし、ピーターは首を振った。


 「皆で頑張った劇をあんなクズに台無しにさせることが、僕達キルス教徒やトゥルーデさんのためになると本気で思ってる?」

 「そ、それは・・・・・・」

 「僕はそう思わない。あんな奴に、僕達の劇を台無しにさせてたまるか。それに、僕は・・・・・・、トゥルーデさんの友達だから。だから、頑張るんだ」


 数日前、ピーターはトゥルーデと友人になった。

 その後、雑用係をドゥールー教徒に押しつけられた彼は、荷物を舞台袖へ運んでいたが、言い争う声を聞き、急いで駆けつけた。

 途中でドロススとすれ違い、嫌な予感がしたが、それは当たった。

 そこで見たのは、ドロススに水筒もお茶も台無しにされ、その上、意味不明な暴言をぶつけられて唖然とするトゥルーデの姿だった。

 ピーターは心が痛んだ。

 それまでもトゥルーデのことを大切に思っていたが、酷い目に遭い続ける彼女のことを助けられる自信がなかった。

 だが、トゥルーデはそんな彼にお礼を言った上で「好き」だと言い、友人にしてくれた。

 そこまでしてくれて、トゥルーデのために何もしない訳にはいかない。

 ピーターは覚悟を決めた。

 彼はトゥルーデと一緒に水筒とお茶を片付けた後、トゥルーデの紹介でシャーロットとも友人となり、共にトゥルーデの力になることを誓った。

 しかし、今朝はドロススの蛮行を目撃しても、彼に植え付けられた恐怖のせいで動けなかった。

 そのため、ピーターはそのことを恥じ、今度こそトゥルーデのために走ると決めているのだ。


 「そ、それは立派だ。だけどな!」

 「そうだね。ピーターだけに任せておく訳にはいかない」


 トゥルーデが、ピーターと他のキルス教徒の園児達の会話に入ってきた。


 「私も行く。手分けして、糸を借りに行こう」

 「・・・・・・!?」

 「何ですって!?」


 トゥルーデの言葉に、ピーター達は驚き、止めようとした。

 行った先のクラスで何をされるかわからない。

 しかし、トゥルーデは既にやる気だった。


 「ピーターの言葉を聞いたでしょ?これは、私達の劇!キルス教徒もドゥールー教徒も異教徒も今は関係ないよ。ここまで頑張ったんだから、最後までやりたい!誰か、手伝ってくれる人いる?」


 教室は一瞬静まり返った。

 ・・・・・・やはり、この街では、そんな言葉は届かないのだろうか?

 いや、違う。

 ピーターがトゥルーデに言葉をかけようとしたその時、手が挙がった。

 キルス教徒ではなく、何とドゥールー教徒の園児の手が。


 「ボクも行くよ。ドゥールー教徒も一緒なら手が出せないでしょ?」


 この子は、ニナ・ホーク。劇では、赤ずきん達を助ける猟師を演じる女の子である。


 「ニナ。良いの・・・・・・?」

 「きいた本人がビックリしてどうするの?キミのそういうところがキルス家の人らしくて前から大嫌い。でも・・・・・・、劇の練習に本気で取り組んでるのは、近くで見ていて伝わったよ。キミの言葉に嘘はない。だから、ボクも今回だけ力を貸してあげるって言ってるの」

 「あ、ありがとう!」


 トゥルーデは戸惑いながらもお礼を言った。

 役を演じる者同士、伝わるものは確かにあったようだ。

 キルス教徒の園児達も、次々と声を上げた。


 「トゥルーデ様がそこまで言うなら・・・・・・!」

 「よし、やるか!!ドロススより、トゥルーデ様だ!!」

 「トゥルーデ様をピーター達だけに任せる訳にはいかないし、俺達もやります!!」


 ドロススは恐ろしいが、ここまでの覚悟を見せたトゥルーデを見捨てる人間になることの方がもっと恐ろしいと気づいたのだろう。

 トゥルーデは感激し、彼らにもお礼を言った。


 「皆・・・・・・!!ありがとう!!」


 一方、ニナ以外のドゥールー教徒はニナを必死に止めようとした。

 特にニナの親友のライリー・レイヴンは一番反対しており、ニナの肩をつかみ、激しく揺らしている。


 「何を考えてるの!?ドロススのやろうにバレたら、あんたも家族もハメツしちゃうんだよ!?」

 「わかってる。でも」

 「でも?」

 「せっかくだし、成功させたいじゃないか。ボク達の家族が劇を観に来るんだよ?あんなダメボンボンのご機嫌とりのために台無しにしちゃったら、一生後悔する気がする」

 「・・・・・・!」


 ライリーはピタッと手を止めた。


 「・・・・・・どうしてもやるの?」

 「うん。ボクはやる。絶対に」


 ニナは目の前の親友をまっすぐ見た。

 そしてしばらく見つめ合った後、ライリーは手を離した。


 「・・・・・・仕方ない子」


 彼女はそうつぶやくと、他のドゥールー教徒の園児達の方を向いた。


 「ニナだけにこんなことをさせる訳にはいかない。私らも、今回だけキルス教徒どもに力を貸してやろう?」

 「マジで言ってるのか!?」

 「正気じゃねえ!!何でキルス教徒なんかのためにドロススに逆らわなきゃなんねえんだ!?」


 ライリーの言葉に困惑する子がほとんどだったが、次の一言で空気が変わった。


 「あのボンボンは、ドゥールー教徒の『主』じゃないでしょ?」

 「「・・・・・・!!?」」


 ドロススの家の力は確かに強いが、ドゥールー教での地位はそこまで高くない。

 ドゥールー教徒が従うべき家は、「別」の家である。


 「そ、そうだけど・・・・・・」

 「なら、わかるでしょ。私らが力を合わせれば、怖いことはないよ。神に逆らうわけじゃない。ただ劇を成功させるために頑張るだけ。ドロススがパパに言いつけに行くなら、私らも『あのお方』に言いつけに行けば良い。皆で頑張ったことを台無しにするためにあのボンボンが暴れたって」

 「・・・・・・!!その手があったかっ!!それなら、大丈夫そう!!」


 ドロスス対策がまとまると、やっとドゥールー教徒の園児達も1つになった。

 ライリーはトゥルーデの方を向いた。


 「答えは出たわ。特別に今回だけきょーりょくしてあげる。せっかくだし、成功させましょう。ありがたく思いなさい。キルスお、いいえ、トゥルーデ・キルス」

 「うん。ありがとう。皆で成功させよう」


 トゥルーデはニコリと笑った。

 ピーターは複雑な思いを抱きながらも、劇の成功のためにドゥールー教徒の園児達との協力を受け入れた。

 その後、トゥルーデとピーターは、シャーロットやキルス教徒の園児達に狼の衣装を守るよう頼み、ニナやライリーら数名のドゥールー教徒の園児と手分けして様々なクラスを回った。

 すると、驚くことに予想していたよりもあっさりと糸を貸してもらえた。

 ドゥールー教徒のニナ達もいるからかと思ったが、理由は違った。

 トゥルーデが朝に別のクラスの園児を、宗教に関係なく助けていたことから、そのお返しとしてそれらのクラスから糸を借りることができたのである。

 ニナはもちろん、ライリーもこれにはトゥルーデを見直した。

 トゥルーデ達は糸の山を抱えてクラスに戻ると、狼の衣装を押さえて辺りを警戒していたシャーロットと合流し、再び縫い始めた。

 トゥルーデ達3人以外の園児達は、彼女達がその糸で狼の衣装を縫い直している間、各々の小道具や衣装の無事を確認していた。

 それから数時間後、ギリギリで縫い終わると、トゥルーデは他の園児達と衣装を着て、一緒にホールへ向かった。





 そうしたことがあったため、この不思議な状況につながったのである。


 (トゥルーデさん、格好良かったなぁ・・・・・・!)


 ピーターは腕組みをしながらうなずいた。

 一方、ピーターの回想と同時にトゥルーデから説明を受けていたドロススは青ざめた。


 「おい、待てよ。結局俺のやったことをバラしてるじゃねえか!??」


 ドロススが叫ぶと、ピーターは首をかしげた。


 「トゥルーデさん達にバラさないって約束した?僕は一言もそんなこと言ってない。今朝のことをドロススの親にバラすかもって意味で言ったんだよ?」

 「この野郎・・・・・・!!顔面とバイバイしやがれっ!!」


 ドロススは逆上してピーターへ殴りかかった。

 ピーターは静かに目をつぶる。ドロススと敵対すると決まった時から、こんなことは予想できていた。


 ドガッ!!


 殴られる音が響く。

 だが、痛みは感じない。

 ピーターが恐る恐る目を開けると、目の前には何とトゥルーデの背中が。

 トゥルーデがとっさに飛び出し、ピーターを庇ったのだ。


 「「トゥルーデ(様)!!」」


 シャーロットやキルス教徒の園児達の悲鳴が響いた。

 ピーターは目を丸くした。


 「トゥルーデさん・・・・・・」


 トゥルーデは殴られた左頬を押さえながら、ドロススの方を向いた。


 「私の友達をいじめるなっ!!」

やっとまとまったのも束の間、ドロススの暴力がトゥルーデを襲いましたね・・・・・・。

皆、無事だと良いのですが。

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