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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
14/17

第14話 似た者同士

お久しぶりです。

暑さに負けず、執筆していきます。

 トゥルーデがリリディアと面会してから4日後、驚きのニュースが入った。


 『本日早朝、ピースゲート刑務所からリリディア・キルス受刑者が脱獄しました。刑務所の発表によると、キルス受刑者は仲間達に暴動を起こさせ、注意を逸らした隙に一部の汚職看守との取引で手に入れた斧を使用して外へ逃げたとのことです。現在、デスタウン市警はキルス受刑者の脱獄に加担した看守達の取り調べと、キルス受刑者の捜索を急いでいます。市民の安全を守るため、デスタウン市は――』


 何と、リリディアが脱獄したというニュースだ。

 これで2度目である。


 「あらら、予想はしてたけど、やっぱりまた脱獄しちゃったか。刑期伸びちゃうからやめておいた方が良いって言ったんだけどな」

 「うん・・・・・・。リリディアおじさん、本当に大丈夫かな?」


 トゥルーデはリュックを背負いながらヨハンナにきいた。

 ヨハンナは綺麗なメイクをして、ピシッとスーツを着ていた。


 「うーん。多分、大丈夫じゃないかな?リリディアだし」

 「そ、そうなの?」

 「うん。有罪になった時、本当なら死、じゃなくて、もっと重い刑になってもおかしくなかったからね。街の偉い人も、リリディアをいじめる以上のことはできないんだと思う。だから、刑期が伸びること以上に悪いことは起きないよ。私にとっては、刑期が伸びるのも最悪だけど」

 「そうなんだ・・・・・・」

 「それより、私が心配なのはリリディアが中国マフィアに絡まれることだよ」

 「中国マフィア?」

 「うん。アメリカのマフィアと同じ位やばい奴ら。面会で本人から聞いたけど、上海で便利屋してたら、いきなり因縁をつけられて大喧嘩する羽目になったんだって。逃げた先でまた絡まれないよう、祈るしかないね」

 「リリディアおじさん・・・・・・」


 トゥルーデはヨハンナの話を聞いて、少し不安になってしまった。

 ルシファーだけではなく、中国マフィアにまで狙われているなんて。

 ヨハンナはふと黒い腕時計を見た瞬間、青ざめた。


 「やばい。もうこんな時間!トゥルーデ、行くよ」

 「うん」


 トゥルーデは気持ちを切り替えてうなずいた。


 『続いてのニュースです。先日、中国マフィア・倭寇会が日本の首都東京に進出したことがわかりました。倭寇会は近年急速に勢力を拡大しており、東アジアに更なる混乱が――』


 ポチッとテレビを消してリモコンをテーブルに置くと、トゥルーデはヨハンナと一緒に外へ出た。



 いつものようにヨハンナに幼稚園まで送ってもらった後、トゥルーデは園庭にいるシャーロットの元へ走った。


 「シャーロット、おはよう!」

 「あ、トゥルーデ!おはよう!」


 シャーロットは笑顔で挨拶した。


 「それじゃあ、シャーロット。今日も、よろしく!」

 「任せて!」

 「ヨハンナねえさん、お仕事頑張ってね!」

 「うん。トゥルーデも、良い子でね」


 トゥルーデとシャーロットはいつも通り園庭の外に出るヨハンナに手を振った。

 ヨハンナが車に乗って走り去ると、2人は顔を見合わせた。


 「シャーロット、またお願い!」

 「仕方ないなぁ。後でまた積み木手伝ってよね!」


 トゥルーデとシャーロットは準備運動をした後、早速じゃんけんで鬼を決めて、鬼ごっこを始めた。

 今回の鬼は、トゥルーデだ。


 「逃げろーーーっ♪」

 「待てーー!!」


 園庭を走るシャーロットを、トゥルーデは追いかける。

 シャーロットも、トゥルーデに負けない位のすばしっこさで、足元の石も、砂場も素早く避けていく。

 トゥルーデはシャーロットの背中から目を離さず、距離が縮まったタイミングで手を伸ばした。

 しかし、シャーロットは振り返りもせずにそれも避ける。


 「いつも言ってるでしょ?視線を感じられるのはトゥルーデだけじゃない!」

 「やっぱり、手強い!」


 トゥルーデは笑った。

 シャーロットはトゥルーデが空手を習おうとしていることを聞いて、「鬼ごっこで体力作りしよう!」と言ってくれた。

 実は彼女もトゥルーデが習いに行こうとしている道場に入門しており、一緒に頑張れることができて喜んでいる様子だった。

 まずは体力作りからやっていこうということになったが、何日経っても、シャーロットには追いつけない。

 何故だろう?





 チリリリリリッ!!


 幼稚園のチャイムが鳴った。そろそろ園舎に入る時間だ。

 結局トゥルーデはずっと鬼のままだった。


 「またシャーロットの勝ちかぁ」

 「トゥルーデが手加減してるからね。本気でやらないとダメだよ!」

 「私、これでも本気なのに・・・・・・」


 トゥルーデは最初から全力でシャーロットを追いかけていた。手加減などしているつもりはない。

 もちろん、シャーロットもそれはわかっている。


 「わかってるよ。トゥルーデは真面目だもんね。それにこの鬼ごっこでは、勝ち負けよりも、体力作りの方が大事だしね。前よりも長く走れるようになったじゃん」

 「ほ、本当?エヘヘ。シャーロットに言われると、照れちゃうな」

 「あ、そろそろ行こう。先生達が変な目で見てきてる」

 「うん!」


 トゥルーデとシャーロットは走って園舎へ入った。

 すると、大勢の園児達の視線が集まる。

 変な目で見てくるのは大人だけではない。


 「おい、害虫女!」


 突然、園児達の中から汚い声が。

 叫んだのは、トゥルーデを目の敵にしている男の子だった。

 彼は小柄で、他の子よりも小さく見える。


 「ドロスス・・・・・・。そんな名前で呼ばないでってお願いしたでしょ?」

 「うるさい!毎日毎日シャーロットとイチャイチャしやがって!悪者の血を引くクズのくせに!身の程をわきまえろよ!!」


 その男の子――ドロススはトゥルーデをギロリと睨みつけた。

 酷い態度である。

 大半の園児達はドゥールー教徒である上にドロススの取り巻きなので、彼が注意されることはない。


 「そ、それはない!トゥルーデさんに謝れ!」


 少数の園児、キルス教徒の子供が声を上げることもあるが、


 「うるさい。お父様に言いつけてやるぞ?」

 「う・・・・・・!」


 結局黙らされてしまう。

 ドロススは、デスタウンで力を持っている二大企業の1社・ルクレール株式会社の幹部の息子であり、幼稚園ではまるで小さな貴族のように扱われているのだ。

 逆らえる者など、ほとんどいない。


 「全く、これだからジャキョート共は!それよりも、おい、シャーロット!」

 「・・・・・・何?」

 「今度から俺と、いや、俺達と遊べ。そんな奴と遊ぶよりもずっと楽しいし、新しいおもちゃもあるぞ!」

 「嫌だ」

 「そうかそうか。それで良・・・・・・、は?」

 「嫌だって言ったの。トゥルーデをいじめるクズとは遊んであげないもん!」

 「クズ?俺が?・・・・・・ふざけるなっ!!」


 ドロススは予想していなかった答えに顔を真っ赤にして怒ったが、シャーロットは気にしていない様子でトゥルーデの手を握った。


 「トゥルーデ、行こう。次、劇の練習でしょ?遅れたら大変」

 「う、うん」


 トゥルーデはシャーロットに手を引かれて、前へ歩き出した。

 ドロススはその後も何か喚いていたが、トゥルーデとシャーロットは彼を無視したまま劇の練習をしに向かった。



 しばらくして、幼稚園のホールで劇の練習が始まった。


 「おばあちゃん、待っててね!今、お見舞いに行くから!」


 赤い頭巾を被ったシャーロットがクルクル回りながらセリフを言う。

 そこへ、トゥルーデが段ボールから現れた。


 「うわ、狼さん!」

 「可愛いお嬢さん。どこへ行くんだい?」

 「おばあちゃんちにお見舞いに行くの!」


 赤ずきんは、狼にペラペラと話してしまう。自分のことも、おばあさんの家の場所も。

 シャーロットはそんな天然な面も、元気に演じた。

 トゥルーデはぎこちなく悪そうな笑みを浮かべた。


 「そうなのかい?それなら、向こうの場所にお花が咲いてるから、持って行ってあげなさい」

 「でも、寄り道したらダメだって・・・・・・」

 「おばあちゃん、喜ぶだろうなぁ?」

 「そ、そうだね。ありがとう!」


 赤ずきんが寄り道をしている間に狼はおばあさんの家へ行き、おばあさんを食べてしまう。

 そして狼はおばあさんに変装すると、赤ずきんの到着を待つ。

 ここまでは順調だ。問題のあのセリフは、これからだ。

 トゥルーデはボロボロの毛布を被りながら、静かに待ち続けた。

 赤ずきんがおばあさんの家に到着すると、おかしな点に気づいたのか、「おばあさん」に質問をしてくる。


 「おばあちゃんのお耳は、どうしてそんなに大きいの?」

 「お前の声をよく聞くためだよ」

 「おばあちゃんのおめめは、どうしてそんなに大きいの?」

 「それは、お前のお顔をよく見るためだよ」

 「どうして、おばあちゃんのお口はそんなに大きいの?」


 来た。

 トゥルーデは、毛布をつかんだ。


 「それはね・・・・・・、お前を食べるためだぁあああーーっ!!」


 トゥルーデが勢いよく飛び出し、シャーロットの悲鳴が響く。

 それと同時にホールは真っ暗になった。

 すぐに電気がつくと、既にシャーロットはその場におらず、大きくなったお腹をさするトゥルーデだけが残されていた。

 その後、狼が居眠りを始めると、通りかかった猟師が気づき、狼のお腹から赤ずきんとおばあさんを助け出す。

 そのタイミングでトゥルーデは転がされ、雑に退場させられるが、それでも居眠りしている演技を続け、静かにいなくなった。

 酷い目に遭った赤ずきんは、もう道草をしないと誓う。

 そこで劇の練習は、一旦休憩になった。



 「トゥルーデ、前よりも良くなってるよ!」


 休憩時間になった途端、シャーロットが駆け寄ってきた。


 「シャーロットも、本物の赤ずきんみたいだったよ。本当に食べたくなっちゃう」

 「ふぇ!?ジョ、ジョークだよね?」

 「・・・・・・どうだろう?」

 「ええっ?もうっ!!トゥルーデはぁ!!」


 トゥルーデの天然な言葉を聞いて、シャーロットは笑った。

 しかし、トゥルーデの表情は暗い。

 シャーロットは心配になり、きいた。


 「ど、どうしたの?」

 「あのね、シャーロット。練習を何度もやったおかげで、前よりも大きな声であのセリフを言えるようになったんだけど、まだ迫力がない気がするの」

 「え、そうかな?」

 「うん。何かアドバイスしてくれない?」

 「うーん。わからないけど、トゥルーデは狼役になって、ちょっとでも狼に近づいてみたいんだよね?じゃあ、お勉強はどう?」

 「お、お勉強??」

 「うん。狼のドキュメンタリーを観て、お勉強してみるの!それで真似してみれば、何か変わるかも!」


 シャーロットの提案を聞いて、トゥルーデは目を輝かせた。


 「・・・・・・シャーロット、それ良いね!」

 「でしょ?今度ビデオ借りて、一緒に観ようね!」


 2人は楽しそうに話し合い始めた。

 ホールの外から誰かが視線を向けていることにも気づかない程に。

次回は、リリディアの視点です。

お楽しみに。

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