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デスタウン  作者: 天園風太郎
第1章 自由の夜明け
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第12話 リリディアおじさん

お待ちかねの魔王様の登場です。

ここから、大きく動きます。

 トゥルーデはお遊戯会の劇に向けて真剣に練習に取り組んでいた。

 幼稚園の大人達が見ていない所でいじめに遭って妨害されることもあったが、くじけることはなかった。

 そして休日であるこの日も、屋敷で自主練をしていた。


 「それはね・・・・・・、お前を食べるためだぁあああーーっ!!」


 リビングの鏡の前で両手を広げ、威嚇して見せる彼女。

 しかし、映っていたのは狼ではなく、「子犬」。明らかに迫力が欠けていた。

 トゥルーデは首をかしげた。


 「何がダメなんだろう・・・・・・?」


 その時、玄関からヨハンナの叫び声が聞こえた。


 「何ですって!?」


 トゥルーデは驚き、一旦自主練をやめて玄関へ向かった。

 壁から玄関を覗くと、そこにはボブから報告を受けているヨハンナがいた。


 「確かなの?ボブ」

 「ああ。マスコミにはまだ知らされていないが、中国の傭兵仲間がしっかり確認している。あの人は今、この国へ送還されているところだ」

 「うわぁ。大変なことになりそう」


 ヨハンナは不安そうに言った。

 トゥルーデは何の話をしているのか気になり、そのまま聞き耳を立てていたが、すぐにボブに気づかれてしまった。


 「ん?トゥルーデか。何をしている?」

 「トゥルーデ!?」

 「あ、やば」


 トゥルーデは一瞬頭を引っ込めた。

 しかし、その後すぐに2人の前に出てきた。


 「ごめんなさい。気になっちゃって。何のお話?」


 トゥルーデにそうきかれ、ヨハンナとボブは顔を見合わせた。

 そして、気まずそうにボブがトゥルーデの方へ視線を戻す。


 「実は・・・・・・」

 「ボブ。私から話すよ」


 ヨハンナは、何かを話そうとしたボブを手で制止すると、しゃがんでトゥルーデと目を合わせた。

 その後、彼女は先程話していたことを簡単に説明した。

 リリディアが中国の上海(シャンハイ)市で捕まり、現在、アメリカへ強制送還されているところだということを。

 

 「・・・・・・という訳なの。まあ、無事で良かったよ」


 ヨハンナからの説明を聞き終えると、トゥルーデは胸をなで下ろした。


 「うん。無事で良かった・・・・・・!」


 トゥルーデはリリディアと面識はないが、両親からの話とアルバムの写真で知っていた。

 その点はある意味ルシファーと出会う前と似ているが、本当は優しい人物であると聞いていること、そして、葬儀の時に両親へ花束を捧げてくれたことから、彼に対して「こいつもルシファーと同類では?」という疑問は持たなかった。

 リリディアのことは、家族として心配していたのだ。

 そんなトゥルーデの様子を見て、ボブはきいた。


 「トゥルーデはあの男が怖くないのか?5年前の事件を起こしたのは、リリディア・キルスだろ?」


 ボブが言う「事件」とは、5年前にソドム区で起きた「血の海事件」のことだ。

 1989年7月某日、リリディアは自らの特殊能力を使ってゾンビに犯罪者グループを襲わせ、それによって13人もの犠牲者が出た。

 その際、地面が血で真っ赤に染まったことから、この事件は「血の海事件」と呼ばれている。

 それ以来リリディアは「殺人鬼」として恐れられている。

 ボブは、ルシファーによる殺人を目撃したトゥルーデが、その「殺人鬼」を怖がらないはずがないと思っているのだ。

 しかし、トゥルーデは首を振った。


 「全然!優しくて強い良い人なんでしょ?」


 「血の海事件」のことはトゥルーデも知っていた。

 正直人の命を奪ったことについてはリリディアに対して思うところがあったが、一方で、事件当時に被害者側のはずの犯罪者グループが罪のない人々を襲っていたという事情も聞いていた。

 リリディアはルシファーのように逆恨みで動いた訳ではなかったのだ。

 トゥルーデの両親の言っていたことは間違っていなかった。


 「そ、そうかもしれないが――」

 「ボブ、もうやめなさい。リリディアがやったのはあくまで正当防衛。広場に集まってた人達を急に襲ってきたならず者共の方が悪いでしょ」


 ヨハンナはボブを注意した。

 ボブはうつむく。


 「わかっている。だが、こんなに幼い子だぞ?俺の娘と同じ位の。心配するだろ」


 ヨハンナはため息をついた。


 「それはそうだけど、リリディアもトゥルーデにとっては家族なんだよ。それに、少なくとも、ルシファーとかいうクズよりはまとも寄りだし。それ以上言う必要はないでしょ?」

 「あ、ああ。悪かった、トゥルーデ」

 「良いよ!」


 トゥルーデは笑顔で言った。

 ヨハンナはトゥルーデに視線を向けたままきいた。


 「ところで、トゥルーデ。リリディアが戻ってきたら、面会に行く?」

 「行く!」


 トゥルーデは即答した。

 リリディアのことを元気づけたかったのだ。

 ヨハンナはそれを予想していたようで、大きくうなずいた。


 「やっぱり、そうだよね。さあ、リビングで話そうか。何を差し入れするか決めないと」

 「うん!」


 ボブは顔を上げてそれを見ると、ゆっくりドアの鍵を閉めた。





 リリディアが強制送還されてから2週間後。

 リリディアはデスタウンの取引により、脱獄したはずのピースゲート刑務所に再び収監されていた。

 1度は逃げ出したため、より厳しい対応が待っているだろうと思われたが、意外なことに刑務所はリリディアに対して寛大だった。

 まず、他の囚人は湿った暗い独房に入れられたが、リリディアだけは日当たりの良い清潔な独房に入れられた。

 そして、家宝の1つである『デスナイフ』というナイフの持ち込みも許可され、更に、毎日3食デザート付きである。

 これでは、王様扱いされているようなものだ。

 リリディアを哀れんでこのようなことをするのだろうか?

 いや、それはない。


 (リリディアの奴を孤立させてやるためさ!)


 小太りの看守がにんまりと笑ってリリディアの牢屋へ向かう。

 彼の名はネルソン。

 看守達の中では有力な人物であり、事実上のリーダーとして振る舞っている。

 スピード出世を狙う野心家の彼にとって、何度も暴動を起こしたり、脱獄したりするリリディアは悩みの種だが、同時にチャンスを運ぶ存在でもあった。


 (フフフ。何故あんなクズを甘やかしてやるのかきかれたら、そう答えてやる。あいつは人望があるが、どんなに人気でもキルス家の害虫。あいつだけ特別扱いを受け続けていれば、他の囚人共の心の奥にある感情が一気にあふれ出す。害虫野郎のくせに良い暮らししやがってとな!)


 あえて特別扱いすることによって、リリディアと他の囚人との関係にヒビを入れる。

 それが、ネルソンの狙いだ。

 リリディアが他の囚人と協力したり、賭けをしたりすることができない程孤立すれば、暴動も脱獄もできなくなるのである。

 そうなれば、リリディアを大人しくさせた手柄を自分のものにできる。

 そのために、リリディアを特別扱いするように根回しをしてきた。

 そして、この日はリリディアが会うのを楽しみにしていた女の子との面会がある。

 そんな日に他の囚人達の独房の前を通ったリリディアがどんな罵倒をされるのかを想像するだけで笑いが止まらなかった。

 一番近くでその無様な姿を見物してやる。

 ネルソンは舌舐めずりした。



 リリディアの独房の前に到着すると、ネルソンは咳払いをした。


 「ウオッホン。リリディア、面会の時間だ」


 その時、リリディアはデスナイフを手入れしているところだった。

 リリディアはネルソンの方を一瞬見ると視線を戻し、デスナイフを青いシース(鞘)に入れた。

 彼の顔には小さな笑みが浮かんでいる。


 「やっと会えるな」


 リリディアは一言そう言うと、手入れに使っていた布と一緒にデスナイフを机に置き、ゆっくりと立った。

 ネルソンは作り笑いをしながら、その様子を眺めている。


 (またナイフなんかいじりやがって。気持ち悪い!)


 何故かそんな声が聞こえた気がして、リリディアは再びネルソンの方を向いた。


 「何だ?羨ましいのか?ネルソン」

 「な!?よ、呼び捨てにするな!早くしろ!」


 ネルソンは動揺しながら喚いた。

 一方、リリディアはネルソンのわかりやすい態度にため息をつく。


 「わかっている。今行く」


 リリディアは手錠をかけられて独房を出ると、ネルソンに連れられて面会室へ向かった。

 向かう途中、リリディアは他の囚人に声をかけられた。


 「おい、リリディア!」


 その瞬間、ネルソンが笑いを堪えているのをリリディアは見逃さなかった。

 本当にわかりやすくて、浅い男だ。

 その期待がすぐに裏切られるとも知らずに。

 囚人は続けて言った。


 「お嬢ちゃんとの面会、頑張れよ!」


 予想外の言葉。

 少なくとも、ネルソンにとってはそうだ。


 「は?・・・・・・はあああぁあーーーっ!??」


 思わず叫ぶネルソン。

 だが、声をかけてくる囚人はまだまだたくさんいる。


 「よう、リリディア!」

 「リリディアか!今日もイケてる髭だな!」

 「今度また賭けようぜ!リリディア!」

 「リリディア、また手合わせしてくれるよな?」

 「リリディアァアッ!!またバトルしろよ!?勝ち逃げは許さねぇ!!!!」


 聞き取れない変な挨拶も混じっていたが、リリディアは笑顔で応えた。


 「おう」


 すると、皆、「おおーっ!!」と喜びの声を上げた。

 策は失敗しているようだ。


 「何故だ・・・・・・!?何故だぁ!??」


 ネルソンは本性を現して、狂ったように喚いた。

 リリディアはそれを見て、またため息をついた。


 「こんなゴミ捨て場でちょっと良い思いをしたからって、羨ましいと思う奴なんかいないだろ」


 ネルソンは舌打ちした。


 「偉そうに・・・・・・!害虫野郎の分際で!」

 「やっぱり、それが本音か」


 慕ってくれる囚人のほとんどがドゥールー教徒なので、忘れそうになる。

 ネルソンの反応が、この街の「普通」なのだ。


 「舌打ちしたいのは、こっちだってのに」


 リリディアはボソッとつぶやいた。

 面会室の前に着くと、3人の看守が横に整列して待っていた。

 ネルソンは先程とは違い、冷静を装った。

 看守トリオがネルソンに敬礼して異常がないことを報告した後、その内の1人が心配そうにきいた。


 「ネルソンさん、その・・・・・・、大丈夫でしたか?リリディアは先週もコーディーの腕を折ってしまっていますし」

 「問題ない。クズの扱いには慣れているからな!」


 ネルソンは胸を張って答えた。

 リリディアは冷めた目でそのやり取りを眺めていたが、ふと自分に向けられている殺気に気がついた。

 殺気は看守トリオの方から向けられていたので、その方向を注意して見てみると、3人の真ん中の看守が殺意に満ちた目をリリディアに向けていた。


 (またかよ。最近は来てなかったのに。このままじゃ、やばいことになるぞ?)


 リリディアは一応忠告しておこうと思い、ネルソンに話しかけようとした。


 「おい、ネルソン。その真ん中の奴――」

 「黙れ、クズッ!!穢れた邪教徒の罪人が、口を挟むなっ!!」


 やはり、冷静を装っていても、限界があるのだろう。

 ネルソンは耳を貸さない。


 「どうなっても知らねーからな?」


 あいつを警戒するのは、自分しかいないようだ。

 リリディアは、4人の看守と一緒に面会室へ入った。

ついに出会う2人。

一体、面会では何を話すのでしょう?

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