グランドウルフ
「キャウ〜〜」
黒の塊がバーバラに突進してくる。
魔物独特の気配も、殺気もなく、むしろ大好きオーラ全開のため、考え事をしていたバーバラの危険察知能力に引っかからなかった。
「ワゥ、ワゥ〜、キャウ~~」
跳ねるように、嬉しそうにバーバラの足元に纏わりつく仔犬。
「……あ〜ぁ。おまえ、ここまで着いてきちゃったの?……どうするかなぁ〜……もう戻れないし」
バーバラは眉をへの字にして、困ったように仔犬をみた。すっかり頭を抱えて困ってるいるバーバラとは逆に、真っ黒い瞳をキラキラさせ、尻尾をこれでもかと嬉しそうに振る仔犬。
(どうしよ……連れて帰る?うちペット大丈夫かなぁ〜?)
このまま置いていっても、何故かバーバラに懐いていて離れそうにない。瀕死の怪我を治したからなのか……。すっかり懐かれてしまったなぁ〜。
(もぉ~~どうしてついてきちゃうのよ〜!!)
「……………おまえ、一緒にうちにくるか?」
バーバラは屈んで、真っ黒のずんぐりむっくりしている仔犬に、分かるかどうか分からないが聞いてみる。
「キャウ~~!!」
大きく返事をするように鳴いた後、グルグルと回転して喜んでいるようだ。まるで言葉が分かっているような反応だ。
(……しょうがない。親には怒られるかもしれないけど、ほっとけないよな〜。)
バーバラはそっと仔犬を抱き上げた。フワフワした毛並みで抱きしめると体温が高いのか、随分と温かくて気持ちがいい。
「ふふ。おまえ、あったかいなぁ〜」
「キャウ~~」
仔犬も目を細め安心したようにバーバラに身を任せ、大人しく抱かれている。
(大人しいし、このままギルドに寄っても大丈夫そうだね)
真っ黒なモフモフした仔犬はまだ全長30cmくらいで、すっぽりとバーバラの腕に収まり、しばらくすると腕の中で眠ってしまった。
(………か、かわいい~~!!)
なんだ!!このまるっこいフワフワは!!可愛いすぎないだろうか!!
庇護欲をしっかり刺激されて、バーバラは目を蕩けさせて、すっかり仔犬の魅力にやられてしまった。両親を説得して、うちの家族の一員として責任をもとうと、硬く決心した。
仔犬がいることで気持ちもスッカリ明るくなり、ホクホクとした気分で、あっという間にギルドまで帰ってきた。時刻は4時前である。
(やったっ!!初クエスト!!達成だ!!)
まずは達成報告しなくてはと、先程のカウンターを目指して歩き出したバーバラだったが、やけに視線をあちこちから感じる。
(…………ん?何だか、色んな人に見られてる気がするが……気のせいかな?)
案内係だったウサギ獣人の彼女は、目をこれでもかと見開き、ワナワナと震えながらこちらを見ている。
(何かな?……もしかして仔犬が嫌いだったり?)
もしそうなら悪いことしたかもと思うが、冒険者ではテイマーという職種の人もいて、使役した動物とか普通にいるだろうし……こんなに可愛いのになぁっと思いながら、カウンターまでやってきた。
「アースガルドへようこそ。ご要件は……!!?」
カウンターの色っぽい猫獣人の受付嬢も、言いながら私も見ながら固まってしまった。
「えっと……!ホーンラビットのクエストが達成したので、討伐報告をしたいのですが…………?」
「……………」
(えっ!!どうしよ?おね~~さ~~ん!!?)
受付嬢の目線はスヤスヤ眠っている仔犬にロックオンされたまま、微動だにしない。
「……あの〜??」
バーバラは控えめに問いかけると
「はっ!!すみません。………えっと、なんでしたっけ?…!っというか!!そのグランドウルフどーしたんですかぁぁぁああ?????」
(グランドウルフ??え??………もしかしてこの仔犬のこと??)
「えっと……討伐の時に助けたら、懐かれちゃって」
テヘへと笑うバーバラに、受付嬢のお姉さんが
「はぁぁぁぁぁぁああ?????」
お、お姉さん。声がでかいなぁ!!ビックリして腕の中の仔犬も目が覚めたらしく「キャウ」と鳴いた。
ガタっ!!っと受付嬢のお姉さんが後ろに飛び退き、ガタガタと震えるだしてしまった。
(えーーーー!!どうして??)
「どうした?」
カウンターの奥の方から、低いドスのきいた声が聞こえてきた。現れたのは、身長も2m程度あるだろう体格のいい年配の熊の獣人だった。
「ギ、ギルドマスター……グランドウルフが…」
受付嬢が震えながら仔犬を指差していう。あの人がこのアースガルドのギルドマスターなのかぁっと、バーバラもその迫力にビックリしたまま動けないでいた。
「グランドウルフだと!?そんな訳ないだろう!」
そう言ってバーバラの腕の中を覗き込むと
「おおぉ。驚きだな…!!コイツはグランドウルフの子供だな。………おい、嬢ちゃん。コイツどうした??」
「は、はい!!えっと……助けたら懐かれちゃって連れて帰って飼おうかと…………」
連れてきちゃいけなかったのだろうかと、段々と弱気になって語尾が小さくなってしまった。
「飼う!!??グランドウルフを???」
ギルドマスターも目を見開き、口をあんぐりと開けて驚いている。
「……………ダメでしょうか??」
すっかりバーバラは縮こまってしまっていたが、それでも責任もって飼うと決心したからには、グランドウルフが何だか知らないが、どうにかして認めて貰わないといけないと奮起した。
お読み頂きありがとうございます。




