クロとの出会い
すると、ホーンラビットの周りに透明な膜が出来ていた。中では5匹目のホーンラビットが食い破ろうと、何度も牙と爪を立てている。
「ガルル!!ギャウ!!」
いくら攻撃してもびくともしない膜に苛立っているのか、咆哮をあげながら攻撃をしかけている。
バーバラは膜を見ながらボー然となっていた。
(……もうダメかと思った……。シャ・ボンがなければ大怪我だった。………ヤバかった……)
ホゥと息を吐き出すと、一気に冷静な思考に戻った。膜は3分間だ。それまでに呼吸と体勢を整えて、いつでも対戦できるようにダガーを構える。
あっと言う間に3分間たつが、戦闘中は1秒単位で戦況が左右されるので、1回仕切り直せるのは非常に有り難いスキルだ。今回はかなり助かった。
(……くるっ!!)
パチンと膜が弾けて、それと同時に勢いよくバーバラに向かってホーンラビットは牙を向ける。それでもバーバラにとったら遅い。冷静な判断で攻撃を躱すと、ヒラリと後ろに回り込み、ダガーで確実に仕留めた。
(ふぅ………。今回、初討伐っていうことで気が乱れて、普段ならしないミスをしたわ。実戦では少しの油断が生命にかかわるのに……私もまだまだね。)
成功証明の宝石を集め、討伐したホーンラビットを処理したあと、あとは帰るだけっていう時に、近くから「クゥ~クゥ~」と、か弱く鳴き声が聴こえてきた。
ザザっと一気にバーバラは戦闘体制に入ったが……特に脅威はなさそうだ。慎重に鳴き声がする方に行ってみると、そこには怪我をして血塗れの黒い仔犬がいた。
「クゥ~……」
このまま見捨てれば直ぐに命が儚くなるだろうことが分かる。5匹目のホーンラビットにやられたのだろう。仔犬を仕留めていたホーンラビットは、仲間とバーバラの事を認識して、仔犬を後回しにしたのだろう。
バーバラはどうするか悩んだ。自然の摂理だと割り切るか、助けるかである。今のバーバラには『洗濯スキル︙ア・タック』がある。
「…………ハァ、ハァ」
段々と呼吸が弱くなっていく様子の仔犬を見ていられなくて、バーバラは戦闘で汚れてる自分に『ア・タック』をかけるついでにという名目で、仔犬に『ア・タック』を使った。
自分と仔犬が光に包まれる。
「キャウ、キャウ〜」
痛みと怪我が治ったとたん、仔犬は元気にバーバラの周りを走りまわりだした。これで良かったのだと、バーバラは仔犬に向かって
「元気になって良かったね。これからは気を付けるんだぞー」
そう言って、立ち去ろうとしたが……どういうことだ。仔犬がずっと後をついてくる。
「おまえ。ついてきちゃダメなんだって。元気になったんだから家に戻りな」
「キャウ」
元気に返事をするものの、それでもバーバラの後をついてくるので、バーバラは仔犬を持ち上げて、元いた所に置いてくる。それでもずっとバーバラの後をついてくる。
何回目かそんなやりとりを繰り返した後、今度はクルっと後ろを向いて急いで走り出した。
後ろから仔犬の鳴き声が聞こえるが、ここは心を鬼にして、バーバラは草原を駆け抜ける。10分程走った後、チラっと振り返ると仔犬は見当たらなかった。
ホッとしたような、少し寂しいような気持ちになったが、連れて帰る訳にはいかない。
バーバラは走るのを止め、ゆっくりと歩きながら、脳内で今回の討伐について1人反省会を始めた。
(さっきはスキルがあったから良かったものの、ホーンラビット程度で苦戦してるようじゃ、今後が心配だ。もっと鍛錬を積まなきゃ。それに探知能力をレベルアップしたいなぁ。獣人ならではの嗅覚と聴覚を使うと、人間より早く獲物に気付ける特性はあるものの、長時間ずっと探知に集中しているのは、疲労感が凄いからなぁ。……あと『シャ・ボン』は、ホーンラビットが抜け出せないくらい丈夫だった。実戦で使える強度があるって分かったのは良かった……。この『シャ・ボン』は研究の余地がまだまだありそうだ。本当だったら、サクッと討伐した後にスキル練習しようかと思ってたけど、今日は何だか疲れた……早くギルドに行こう。)
ウーンと頭を捻って、能力について考察していると、
微かに『キャウ』という鳴き声が聴こえた。
(えっ??嘘でしょ?ついてきてるってこと?)
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