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初スキル発動

「ただいまー」


 バーバラは両親が待つ家に帰ってきた。卒業して新生活が落ち着くまで、実家にお世話になる予定だ。両親は1人娘のバーバラをとても可愛がっていて、いつまでも家にいて良いと言ってくれているが、そういうわけにはいかない。両親に冒険者になることも最初は反対されたが、学園でも実技でトップクラスの成績を取り続けたら認めてくれた。なるべく早めに生活の基盤を整えて、両親を安心させてあげたいと思っている。


「おかえりなさい。バーバラ卒業おめでとう。今夜は大好物のチキンのトマト煮よ」


「はーーーい」

 自分の部屋にそそくさと向かう背中から、母親の声が響く。バタンと扉を閉めて、ボスンとベッドに倒れ込んだ。


(はぁ~…。どうしよ。全然期待してたスキルじゃなかったよー。冒険者になるのに不利じゃん。………それでも私は夢だった冒険者を諦めたくない。うーん……帽子めー。洗濯ってなんだよーー。)


 ベッドの上でウンウン唸っていると「ご飯よー。」部屋の外から母が呼ぶ声が聞こえてきて、思考は一時中断だ。


「はーーい。今行く」


 ガチャリと扉を開けて、ダイニングに向かうとニンニクがきいている大好物のトマトのいい匂いがしてきた。お腹が空いてると思考も止まるって言うし、まずは腹ごしらえだっと気分を切り替えた。


 テーブルには既に両親が揃っていた。私が席に着くと、皆でグラスを掲げ乾杯をし、食事が始まった。


「バーバラ。卒業おめでとう。」


「卒業おめでとう。学園よく頑張ったわね」


「ありがとう。」


「それで、貴方は何のスキルだったの?」


 母親が目をキラキラさせ期待を込めて聞いてきた。そんな姿に応えるスキルではないので、若干バーバラは悲しい気持ちになる。


「…………洗濯」


「「 …… 」」


 ピシッと空気が止まった。


 カラン…と母が手に持っていたフォークを皿の上に落とした音が静かな部屋に響いた。落とした拍子にトマトソースが跳ねて、母の白いワンピースに赤いシミが模様のように点々とついてしまってた。


「あ、あら、た、大変だわっ!すぐに落とさないとシミになっちゃうっ!!」


 母がガタっと椅子から勢いよく立ち上がり、アワアワと慌てだした。張り詰めていた空気がまた動き出して、バーバラは1人こっそりホゥと息を吐き出した。

 母はどちらかと言うと天然キャラで、困ったようにしおしおと垂れた耳と、ナイスバディなアンバランスが女性の私から見ても庇護欲にかられる。そんな母に父も惚れたのだろう。

 たまに繰り出される天然キャラで、家族の雰囲気を明るくする母は愛されキャラである。


 チラと母が汚したワンピースをみる。この服は母のお気に入りで、今日の卒業祝いの晩餐に着てくれたのだろう。

 これも初スキルを使うチャンスなのかもしれない。バーバラはスキルを授かってから、気分が落ち込んでいて、まだスキルがどんなものなのか使用していなかった。洗濯スキルっていっても、洗濯するものがないとどうしようもないが、今目の前にある格好の試すチャンスである。


「かーさん。落ち着いて。私のスキル使ってみるからじっとしててね」


(たしか…初めてスキル使う時って、心のなかで『スキル発動』と唱えると使える呪文が分かるのよね。スキルレベルが増えると呪文も進化するんだよね。よしっ!!)


(………『スキル発動』…………)


 意識を自分の内側に向けて、スキルを発動させると頭の中に呪文が浮かび上がってきた。


(うあっ!!……なになに?………えっとーー。)


◎ア・タック︙穢れや不純物を取り除く。

◎シャ・ボン︙物体を泡膜で取り囲む。


 今使えるのはこの2つみたいだ。今回は……トマトの染みを取るんだから、こっちよね。私は母のワンピースに向かって呪文を唱えてみた。


『ア・タック』


 すると母の全身がキラキラと輝きだし、一瞬光に包まれたと思ったら、そこには真っ白なワンピース姿の母がボー然と立っていた。


(良かったっ!!成功したみたい!!……これって、冒険していて装備が汚れても大丈夫ってことよね。それはそれで手間が省けて使えるスキルかもっ!)


 バーバラは自分のスキルが、使えないスキルだと落胆していたが、これはこれで役立つ見通しが少し立って安心した。


「……!!バーバラちゃん、いまスキル使ったんだよね??……」


「……??そうだよ?ちゃんと染みも取れて良かったーー。成功したよっ!!」


 バーバラがワンピースを指差し、ニコニコと応えるも、母はまだボー然としたままだった。


「…バーバラちゃんのスキルって洗濯よね……。どうしてかしら、……ここ数年悩みの種の頭痛が……ピタリと止まったの……」


「「 えっ!! 」」


 母は数年前からずっと酷い頭痛で悩んでいたらしい。じつは病院で検査すると脳にデキモノが出来ていて、手術が難しい位置なので、大きくならないように薬を毎日飲んでいたというのだ。私に心配かけないように黙っていたのだとか……。


「かーさん!!そんな大事なこと!!」

 バーバラは思わず尻尾も耳も毛を逆立て、大きな声をあげてしまった。


「……ごめんなさい。でも今……もうスッキリしてなんともないのよ………痛みがないのなんて、本当にいつぶりかしらっ!!!!」


 母はピョンピョンと飛び跳ねだし、目は獰猛にギラリと輝き、今にも走り出して何処かに行っちゃいそうな元気な様子だ。


「かーさんっ!!良かったっ!!」

 そんな母に父が抱き着いた。薄っすらと瞳に涙を浮かべている。父はずっと母の体のことを心配していて、父も不安だったみたいだ。



(……ア・タックって洋服の染みをとる洗濯だけじゃないってこと??…………穢れや不純物を取り除くって、…………そういつことっ!!???)


もしかして…洗濯スキル、とんでもないかもしれないと、つばをゴクリと飲み込むバーバラであった。

お読み頂きありがとうございます。

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