5次元スキル
いよいよ、今日はレオンのスキルがわかる日だ。
闘技場の中央にはレオンが1人。
四方には結界師が立ち、レオンの周りには結界が張り巡らせてある。
観客席には、学園長と教官達が、レアスキルの研究者の偉い人と何か難しそうな話をしている。
私はレオンのお母さんと一緒に親族席として、観客席の最前列に座っている。クロは家にお留守。
「バーバラちゃん。一緒に来てくれてありがとうね〜。私1人だったら、何かあったと思うと怖くて……」
レオンのお母さんは人族なので、卒業する時にスキル取得の儀式とかないので、レオンが今回こういう事態になって、不安でいっぱいだったんだって。
「おばちゃん。レオンはきっと大丈夫だよ。だってレオンだもん。」
「そ、そうよね……レオンだもの、きっと大丈夫よね」
胸の前でギュっと両手を組んで握りしめ、祈るようにレオンを見つめている。
「ほら〜。おばちゃん。私たちが不安がってると、レオンが緊張しちゃうから、笑顔!笑顔〜!」
そう言うと大きく手を振りながら
「レオーン。ファイトー!!」
中央にいるレオンに聴こえるように声をかけると、レオンも、はにかみながらも手を上げて応えてくれた。
「ね!」
ニコッとおばちゃんに笑いかければ、おばちゃんも「バーバラちゃんたら〜」と笑顔になってくれた。うん。やっぱり笑顔で応援するって大事なことだ。
お!いよいよ始まるらしい。研究者の人が、合図を送ると、会場がシーーーンとなり、張り詰めた雰囲気に変わった。
中央をみると、レオンが目を瞑り『スキル発動』と唱えた。
ほんの数秒だったと思うけど、時間がゆっくりと感じ、焦れったく思える時間が過ぎたあと、しばらくすると、ゆっくりと目を開けたレオン。
『マイセカンド』
心地良いレオンの低音が闘技場に響いた。
するとレオンの存在がブレ始め、姿が2重になり、いつしかレオンが2人になっていた。
「「「 !!!!! 」」」
(どういうこと!!?レオンが増えた!!)
そして何やらレオン同士で話を2人でしている。
どっちが本物……??どっちも本物??
全然区別がつかない……分裂したってこと??
一人のレオンがこっちを向くと、私を見つけたみたいで
「おーい!!バーバラちゃ~~ん」
満面の笑顔で手を降り出した。
それを見ていたもう一人のレオンが迷惑そうな顔に変わり、「やめろ」と止めに入った。
それでもニヤニヤして手を降っているレオンに、バーバラは戸惑いながらも、手を振りかえした。
すると今度は、投げキッスされてっ!!!ボコっともう一人のレオンが殴りにかかっている……。
(あぁ……いつものレオンは止めに入ってるほうね)
だって、いつものレオンは、ちゃん付けで呼ばないし、満面の笑顔も投げキッスなんて……想像出来ないし!
じゃれ合っているのか、一人は楽しそうに、いつものレオンの方は迷惑そうに、私闘を繰り広げていると、レオンの姿がまたぶれ始め、一人に戻った。
一人残されたレオンは、精神的に凄く疲れた表情をしていて、………大丈夫かな〜〜??
呆気に取られていた研究者の人達が、危険がないことが分かったのか、結界が消されて、大人達がレオンの所まで降りて行った。
スキルが特別危険がないって分かったし、長くなりそうなので、おばちゃんと一緒に先に家に帰ることにした。
帰り道、おばちゃんがさっきの2人のレオンを思い出しては、「ふふふ」っと何度も笑いだすもんだから、私も普段ならありえないもう一人のレオンの姿に、おばちゃんと一緒に笑いながら、話の花を咲かせた。
「あのレオン……凄かったわね?笑顔で手をフッていたわ。バーバラちゃんに投げキッスまでして……ふふふふ。姿はレオンなのに…………あははは。ねぇ〜。信じられる??レオンが………ふふふ……レオンが〜」
「ええ。普段のレオンが絶対しないことですよね~~。ビックリしちゃいました~~。クックック。後でからかったら面白そう〜」
「ねぇ〜。まさか、レオンが2人なんて。別のレオン……面白かったわね〜〜。ふふふ」
◇
あとからレオンから聞いた話だと、『5次元スキル』の『マイセカンド』は、別の世界線の自分を召喚できるスキルらしい。
別の世界って……なに?って思ったけど……。
偉い人曰く、パラレルワールドといって、色んな選択と可能性が分岐して、それぞれ別の世界として存在する……らしい。世界は無限に広がっているとか、なんとか……。
難しいことはよく分からないけど、あの時みたもう一人のレオンは、別世界のレオンらしい。
性格や特性が違うレオンがいるって、なんか不思議な感じ。
それに……滅多に見れないレオンの笑顔が見れて役得だった気もする。
そんな話をレオンにしたら、「アイツのことは思い出すな、忘れろ」と本気で打ちひしがれていた。
「凄いじゃん。もう一人の自分に会えるなんて〜。」
「……とんでもないヤツだったがな。」
「え~~!!面白かったよぉーーー。」
「……もう勘弁してくれ」
レオンはガクッと項垂れたので、少し可哀想になり、からかうのは、この位で、許してあげよう〜。
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