クロの命名
し~んと静まりかえったなかで、視線だけで説明しろとばかりに睨むギルマスに、バーバラは仔犬と会った時のことを語りだした。
「ホーンラビットの討伐にダリ草原に行ってきたんですが、討伐後に近くから鳴き声が聴こえて、そしたらこの子が弱っていたのを見つけたんです。薄汚れてたし……洗濯スキルを使ったら……懐いてなかなか離れないので、ここまで連れてきたんです………」
みんなの頭の上にハテナマークが浮かんでいる。それもそうだろう。話だけ聞けば、なんてことない、そこら辺にある話だ。そこからどうして「洗濯」したら「眷属」ってなるのだと………。
(私だって、訳わかんないもん……。でも、なんとなくだけど、聖獣は『ア・タック』の穢れを取り除くってとこに当てはまるのかなぁ??………魔物の穢れを洗濯すると聖獣ってこと??)
皆が混乱しているなか、空気を読まないヤツが1人いた。
「グフフフ………グランドウルフが目の前にいるなんて…………ちょっと触らせてください」
いつの間にか魔物オタクがバーバラのすぐ近くにいて、手を伸ばして今にも触ろうとした瞬間!!
バチバチって音がギルド内に響いた。
「っっっーーーー!!!」声にならない声を発して、ドサっと彼は白目を剥いて真っ直ぐ後ろに倒れ込んだ。
「ギャウ!ギャウ!!」
バーバラの腕のなかで、まるで怒ったように激しく鳴きだした。
「おいっ!!大丈夫か??」
ギルマスが慌ててオタク男に駆け寄って、無事かどうか確認している。……どうやら気絶してるだけで、息はあるようだ。
「………グランドウルフの電撃魔法か?」
「キャウ」
えっへん、そのとおりだと言いたげに返事をするように元気に鳴いた。
「……触ろうとしたからか?」
ギルマスが、そ~っと手を近づけようとすると
「ギャウ!!」と鳴き、バチバチって音が聴こえてきた。
「おっと!」と、素早く身を引いて、両手を上げて降参の姿勢をとった。流石ギルマスだけあって、危険に対する素早い反応は凄いなぁ~と、バーバラは緊迫してる雰囲気のなか、そんなことを考えていた。
「……嬢ちゃんしか触れないのか。」
「クゥ~クゥ~」
まるで撫でて〜と、スリスリとバーバラに甘える様子は、キュンとバーバラの心を掴み、悶絶したくなるほど可愛いらしいもので………どこからみても、愛らしい仔犬にしか見えない。
「ふぅ……。嬢ちゃん以外には問答無用そうだな。ギルドで預かろうにも下手したら死人がでそうだ。」
うーーーんと顎に手をおき、悩みだしたギルマスだったが、しばらくして
「嬢ちゃん。申し訳ないが……ギルドとして、グランドウルフを見なかったことには出来ない。上には報告を入れるが、嬢ちゃんの眷属であり、嬢ちゃん以外は触るのも無理だと言っておく。上からの返事がどうなるか分からんが、それまで責任もって嬢ちゃんが保護していて欲しい。」
「それじゃぁ、連れて帰っていいってことですよね?」
「ああ。」
「やったーー!!良かったね〜〜。一緒に私のお家に帰れるってさ〜。」
よしよしと頭をなでると、トロンと気持ち良さそうにして、本当にかわいい~~。思わずバーバラもトロンとした顔になってしまう。
「今日のところは、すまんがこのまま帰宅してくれ。……討伐報告は、あらためて別日でもいいか?」
「はい。」
たしかに……ギルド内はグランドウルフの件で大混乱してる状態だ。また出直そう。
まさかの初日から、ギルド内で騒動の中心になるとは、思ってもいなかったバーバラである。
いつまでもグランドウルフがいると、騒ぎがもっと大きくなるから、すぐ家に帰るようにと、追い立てるようにギルドから帰された。
ギルドから連絡がいくまで活動は待機してくれとも言われてしまった。そこは残念だが、その間にスキルの検証とか、鍛錬とかに当てよう。
(うわぁ〜ビックリしたなぁ。初日から冷や汗もんだったよ〜。まさな仔犬じゃなかったなんて……。こんなに可愛いのにねぇ…………あっ!!そうだ!!名前つけなきゃ!!家に連れて帰るなら、名前がないと不便だよな〜……、う〜〜〜ん。何がいいかなぁ………)
バーバラは家に向かって考え事をしながら、ノロノロと歩きだした。
「名前……、何がいいかなぁ。もじゃもじゃのモジャ?」
「ギャウワゥ〜」そんなの嫌だと怒られた。
「えーーー。それなら〜………う〜〜ん………真っ黒、まっくろ……くろ…」
『クロ』
そう呼ぶと、クロはキラキラと光だした。
あれ?これって……!!!
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