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9)異世界転移で料理を広めたい

------人物紹介--------------------------------------


〇俺:桐森きりもり りょう

18歳/料理人見習い

割と考えなしに行動しがち。親父の怒声にはよく皮肉を言って対応している。

〔好きなもの〕母の手料理の煮物(味が良くしみ込んでいて鶏肉の甘みがたまらない)




◇ジュエリア国

・クオーツ村

木の実や果物を主食としており、商人が多く滞在する。

村人は茶色の髪を持っていることが多い。


〇ジャスパー

肌が白く鼻筋の高い顔立ち。茶色い短髪で俺より10㎝は身長が上だ。

親切で優しい男で、俺の料理にゾッコンだ。

門番の仕事を辞めてまで、俺の旅についてきてくれた。


・ガネット村 

クオーツ村から100キロ程離れており、村人は赤色の髪を持つ事が多い。


〇アルマン(野菜農家の男性)

豪快で小さな事を気にしない性格。

鮮やかな明るい赤色の髪をしていて、農家とは思えない筋肉をお持ちだ。

昔は王宮の兵士だったそうだ。


〇バロバ(アルマンの妻)

笑い上戸じょうごで明るい性格。

アルマンと同じく、昔は王宮の兵士だったそう。



〇ティンガー(農家の息子)

無鉄砲でよく怪我をする。

自分は農家の息子ではなく、兵士の息子なのだというプライドを強く持っている。



〇シュラー(レタス農家の娘)

勝ち気で生意気な性格。オレンジ色の髪を二つに束ねているので、

ツインテールと呼んでいる。



〇アンドラ(キュウリ農家の息子)

内気で気弱な性格。ティンガーとシュラーとに振り回されてつつも、

二人と過ごす時間をなにより大切に思っている。



〇ガネット

巨大な竜。鋭く尖った長い爪、燃えるような紅色べにいろの鱗うろこに巨大な翼。

目の前にすると恐ろしさのあまり硬直してしまうだろう。

子供の食事に俺を選び、連れ去った。



〇ルビィ

ガネットの娘の小竜こりゅう

体調が悪い様子だったが、俺の〔ゆで卵〕を食べて元気になったようだ。

美しい声をしていて、可愛らしい竜だ。



「ウッ!ゲホゲホ!」


ジャスパーが酷く咳き込む。栄養補給えいようほきゅうに飲ませたトマトジュースがかなり酸っぱかったようだ。


本来ならおかゆなどを食べさせたいが米は高級品らしく手に入らない。



「あ…。ありがとう。トマトを飲むなんてとても新鮮な気持ちだよ。」

まだジャスパーの顔色は悪い。


さらわれた俺を探すために無理をして倒れ熱を出してしまったのだ。


ルビィのように俺の料理で回復できないかと思ったが、人間の体ではあまり効果がなかったようだ。

俺はジャスパーにそっと布団をかぶせて休ませた。


----------------------------------------------------------------------



村に滞在するしばらくの間、俺は村人に料理を教える事になった。



竜は俺を専属料理人せんぞくりょうりにんとして置いておきたいようだが、

なんとか説得をしてみた。



「俺の寿命が尽きたとき、またお困りになるはずです。竜は定期的に魔力を摂取しなければならないんですよね、料理が必要なんですよね。ですから、長期的に考え俺以外の人間にも作れる者がいた方がいいのではないかと…。」


「そうよ、お父様。また昔の様にこの村の人たちと交流してもいいのではないかしら。」


昔、竜のガネットは村の人たちと仲良くしていた。その言葉はガネットに届いたようだ。


「…うむ…悪くない。」


そうして俺の大規模な料理教室が始まったのだ。




----------------------------------------------------------------------


村の大きな広間にいくつものテーブルが並んでいる。

アルマンさんや村の男性陣だんせいじんが用意してくれた。


バロバさん達、女性陣じょせいじんが食材を運んで来てくれる。


今回作るのはなるべく多くの素材を使った料理だ。

ガネットいわく、多くの素材を使う事や時間がかかるものは魔力が蓄積されやすいのだという。



手に入りやすいもので考えたのは…ミネストローネだった。


イタリヤ発祥はっしょうの野菜スープは、トマトをベースにしている。

今の状況でトマトは一番手に入りやすい。また、幸いにもガネット村は野菜栽培の種類が多い。


とは言っても、生で食べることができないジャガイモや玉ねぎは手に入らなかった。

ニンジンやセロリ、また鶏を譲っていただいた。


(肉を食う文化がないから、かなり不審ふしんがられたのだけど…。)


俺は野菜を食べやすいサイズに切っていく。

俺の調理するテーブルの周りに沢山の村人が集まっている。


そして鶏をさばき終わる頃には、俺への罵倒ばとうの声が止まらなかった。

「な…。なんて恐ろしい男だ。」

「鶏を食うなんてとんでもない。」

人道じんどうを外れている。」

などだ。困った…。俺の料理…食べてもらえるだろうか…。


アルマン達が村の人たちを説得してくれているが、かなり場の雰囲気が悪い。


鍋に油を熱し、ニンジンを炒めていく。

そのあと、鶏肉も加えさらに炒める。


俺の調理音ちょうりおん以外、何も聞こえず静かだ。


そしてトマトや水を加え、沸騰してきた。

アクを取ったあと。キャベツを加えてさらに煮込む。


この辺りで美味しそうな匂いがしてきたようだ。

ゴクリと唾を呑む音や、お腹が鳴る音も聞こえる。

何人かは恥ずかしそうにしていた…。


塩やコショウで味を調ととのえ、皿に盛り付けていく。

立ち上る湯気は、野菜の煮込まれた香りを運び、食欲をそそる。


村人は少しこちらに近づいてはみても、中々食べようとしない。

そこで、アルマン達やガネット、ルビィが先に食べて見せる。


「うおおおお!俺のトマトがこうも旨くなるとは…。この村にトマト以外は必要ないように思っていたが、とんでもない!これは他に野菜があるからこそ、トマトの酸味がうまく調和されているのだなぁ。」アルマンさんが美味しそうにスープをすする。


「ほほう。お主がこれらのトマトを作っておるのか。ワシが知る限り、かなり美味なるトマトである。しかし…素材が最高級であることは間違いないが、このスープ…野菜の甘みが凝縮ぎょうしゅくされ、トマトが主役の様で、それでいて他の野菜を引き立ててもおる。グオオオオオオオオオオ!たまらんわ。」

「なんと、ガネット様!分かりますか、ウチのトマトは一つ一つ愛情を込めていまして…。」



何故だろう、先ほどまで竜を恐れていたアルマンさんは、

自分のトマトを褒めてもらって、ガネットと楽しく笑い合っている。



また、セドニーさんはスープを味わい、笑ってこう言った。


「こんな美味しいものを教えてくれるなんて…。リョウは本当にいい人だねえ。

ガネット様に料理を献上けんじょうするのは、私たちに任せておくれよ。

私たちは本当に幸運だねえ。」


あまりにアルマンさん達が美味しそうに、食べているので村人たちもソワソワしている。

俺は集まっている人たちに微笑み、声をかけた。


めても美味しいですが、アツアツが一番です。どうそ、遠慮えんりょなさらずに。」



村の人たちは料理の皿を受け取り、そして恐る恐る口に運んだ。




「お、おおお!な、なんだこれ!なんだこれ!」


「体の中が変な感じだ。温かい感じがする。」


「う…。旨い…。これは本当に野菜なのか。」


「鶏がこんなに旨いとは…。」


静かだった村が、急に騒がしくなった。

暖かいものを初めて食べる事や、初めて肉を食べる事、色んな気持ちが混ざり合い、話が止まらないようだ。先ほどまでの暗い雰囲気ふんいきは明るく、暖かいものに変わった。



美味しいものを食べた時、人は幸福感こうふくかんに包まれる。


温かいものを食べた時、心も温かくしてくれる。


そして…。



料理を食べた人の美味しそうな顔や、嬉しそうな顔を見れるのが、

料理人である俺の一番の特権とっけんなのだ。



「ふむ。さすがにこれほどまでに魔力のこもった料理だと、村人が料理の魔法を習得しゅうとくするのも早かろう。もうすでにかなりの魔力を蓄積ちくせきしておる。」

ガネットが少し嬉しそうに話しかける。



「これからの活躍かつやく期待きたいしておるぞ。」


「ええ、ガネット様。俺が、もっと料理で得られる幸せを広めていきます!」




(さて、ジャスパーにもこのスープを食べさせよう。)



ジャスパーが元気になったら、この状況に驚くだろうか…。


まさか俺が、村人全員を料理人にしようとしているなんて…。



そして自分も料理を作れる魔力を持てる事に、きっとジャスパーは喜んでくれるだろう。


また、父のカルさんの夢を叶えられる事に、必ず喜んでくれるに違いない。



俺はミネストローネの入った皿を両手で持ち、ジャスパーが休んでいるアルマンさんの家に、

少し軽やかな足取りで向かうのだった…。




---------------------------------------------------------------------



ある日、アルマンさんの家ではたくさんの人が列をなしていた。


先日ミネストローネを提供して以来、ガネット村の人たちは料理を

教えてもらおうと、俺を訪ねて来てくれるようになったのだ。


俺はレシピを書いたり、魔力の力をつけてもらう為に

料理を食べてもらったりしていた。


料理にはレベルがあり、素材を多く使うものや調理時間の長いものは

レベルが高くなるという。


そして、十分な魔力を持っていない者がレベルの高い料理を作ると

味が消えてしまうのだ。



前回、ミネストローネを食べてくれた村の人たちは、

少し魔力が蓄積されたようだった。


以前まで、料理を作っても魔力なんて何も感じなかったのだが、竜のガネットに

魔力探知の加護かごさずけてもらった。


「お主が料理を作って食べさせた者の魔力量が見えれば、今後の料理指導りょうりしどう

適切におこなっていけるだろう。それに…貴族や王族の判断ができることも、お主にとっては大きかろう。」


そうだ、今の俺にとって貴族や王族は脅威きょういなのだ。人々の記憶や魔力を奪ってまで、料理を無くしたような人たちだ。見つかれば親父のように連れ去られたり、最悪さいあく命の保証はないだろう。


俺は魔力探知の力で周りを見回す。

村の人たちはうっすらと白いもやのようなものが、体からただよっていた。


「よっ。な~にしてんだ。」

後ろから俺の方をポンとたたく。ジャスパーだ。


「いや、みんなにどれくらい魔力が蓄積されたか見ていたんだ。」


ガネットいわく、白色は魔力蓄積の初期段階しょきだんかいなのだという。

もう、ゆで卵くらいなら村の人は作れそうだ。


「そうか。俺はどうなのかな?一番俺がリョウの料理を食べていると思うんだけど。」

俺はジャスパーの方に向き直り、色を確認してみた。



白…ただ、村の人たちより濃い白だ。




「卵焼きは作れそうだ。カルさんが喜ぶね。」

「ほ、本当か。ちょっと、さっそく試させてくれ!」


魔力量の色の違いは、

白が初期段階、そして黄色・赤・青・紫の順なのだという。


そして、同じ色でも濃い方が魔力量が多い。


「おーい。リョウー!!」

ティンガーが遠くからってきた。


嬉しそうな表情で、俺に小瓶を渡す。


「ほら!前教えてくれた、けちゃっぷ?作ってみたぜ!」

ケチャップはトマトをベースに砂糖や塩、お酢などを加えた調味料だ。


「ティンガー!すごいじゃないか!お前は天才だよ。」

「へへ。そうかな。」

俺は、嬉しそうに笑うティンガーの頭を、ゴシゴシでた。


弟がいたらこんな感じなのか…可愛い。






----------------------------------------------------------------------


アルマンさんの家の前で、調理を始める事にした。


カルさんに頂いたカセットコンロにフライパンをのせ、俺はジャスパーに油の入った小瓶を渡す。

この世界ではコンロや油などの調味料は高級品である。


「さあ、これをフライパンに。」

「あ…。ああ。」


ジャスパーが不安げに油を受け取り、フライパンにらす。

ティンガーがウキウキした表情で、フライパンを見つめていた。


「次は卵を割って入れてみて。」

「う…うん。」


テーブルのはしで卵を割ろうとするが、なかなかうまく割れない。

慎重しんちょうになり過ぎて、手に力が入らないようだ。


しばらく見守っていると、パキッと音がする。

ジャスパーは卵割り、フライパンに落とす。


「お、おおお。」

ジャスパーは少し感動しているようだ。


気が付けば周囲にはまた村の人が集まりだした。

静かにジャスパーの様子を眺めていた。



「いいね。じゃあ、ゆっくりとかき混ぜてみて。」

「わ……分かった。」


フライパンの上でぷるぷると動く卵は、白身と黄身が混ざり合い、固まってくる。

ぎこちない手つきではしを使うジャスパー。


村の人たちはハラハラした様子だ。ティンガーだけが楽しそうにしていた。


「よしっ。火を止めて大丈夫だよ。」

「う、うん!」



ジャスパーが火を止め、料理を皿にのせる。


そして、ティンガーが作ってくれたケチャップをかけて完成だ。


「スクランブルエッグの完成だ。さあ、食べよう。」




俺とジャスパーとティンガーが、スクランブルエッグをそっと口に運ぶ。


ジャスパーの顔がぱっと明るくなった。



「こ…これを俺が…?」

「そうだよ、ジャスパー。君の初めての料理、とっても美味しいよ。」



ジャスパーはとても嬉しそうにスクランブルエッグを食べ終え、調理工程ちょうりこうていをノートにメモし始めた。まるでカルさんのようだ。


ティンガーもはしゃいで、

「これ、けちゃっぷっていうんだ。俺が作ったんだよ。」

とジャスパーの作ったスクランブルエッグを村の人たちに試食させていた。




美味しい、美味しいと村の人たちの声に、ジャスパーの顔がほころぶ。

「なんだろう…気恥ずかしいような、誇らしいような。」

ジャスパーは料理を提供ていきょうする側の喜びを知ったようだった。


----------------------------------------------------------------------


その夜は俺の元に、ゆで卵やら、スクランブルエッグやらを持った村人たちが

「師匠!俺らも作ってみたんだ!」と大勢訪れた。


少し試食をしてアドバイスをする…というのを繰り返していたが、あまりに多く食べてしまってお腹が苦しい。それでも嬉しそうにして料理を作ったり食べたりしている村の人たちを見ていると、とても嬉しい気持ちでいっぱいだった。





俺は安心したのか、気もちに余裕が出てきたのか…

その日の夜の美しい星空をしばらく眺めていた…









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