3)異世界転移で旨いが聞きたい
------人物紹介--------------------------------------
〇俺:桐森 りょう
18歳/料理修行中の身
〔好きなもの〕母の手料理の煮物(味が良くしみ込んでいて鶏肉の甘みがたまらない)
◇ジュエリア国
・クオーツ村
〇門番の男性:ジャスパー
肌が白く鼻筋の高い顔立ち。茶色い短髪で俺より10㎝は身長が上だ。
親切で優しい男だが、父と喧嘩し、飲食店の手伝いを辞め、門番をしているそう。
〇飲食店兼宿屋の男性(ジャスパー父):カル
親父(岩鉄)と同じで愛想がない。
焦げ茶色の髪でかなり筋肉がありそうだ。
昔親父から卵焼きを作ってもらったそうだ。
〇飲食店兼宿屋の女性(ジャスパー母):セドニー
ふくよかで愛想がよく、少し母に似ている。
どうやら彼女も一目惚れでカルと結婚
-----あらすじ------------------------------------
料理人の息子である俺は、今日も店の手伝いをしていた。
そんな時、突然異世界へ転生?!
しかもそこには〔料理〕が無いのだという。
俺はお世話になっている宿屋の息子、ジャスパーと語り合い、
カルの為に何かできないか考えるのであった。
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ジュジュー ジュジュー
フライパンに卵が四つ乗っている。
きつね色の焼き色は食欲をそそり、白身はふっくらと仕上がっている。
俺は昨日ジャスパーと夜通し語り合い、とても眠かった。
だが、朝食を作らせてほしいとお願いして目玉焼きを作っているところだ。
セドニーさんは目を輝かせ、カルさんは隣でメモを取って「ふむふむ。」と頷いている。
ジャスパーは料理を食べたことが無いらしく、不安げな表情だ。
「俺の世界では一日の始まりはこれを食べるんだ。シンプルだけど、何度食べても飽きない味だよ。」
俺は三人に目玉焼きを提供する。
セドニーさんとカルさんはすぐさま目玉焼きを口に運び、
「卵のとろけるような感触、、本当に美味しいわ。」
「旨い!ゆで卵とはまた違った形状で、黄身が太陽のようだ。なんと美しい、、。」と喜んで食べてくれていた。
二人の様子をみながら、恐る恐るジャスパーも目玉焼きを口にする。
「!?!?」
ガタッと椅子から立ち上がった。驚きの表情をしている。
「信じられない、、こんなにも旨いものを食べたことがないよ。」
ジャスパーはそう言って、顔に手を当てる。気のせいか泣いているように見えた。
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朝食を済ませて、店の手伝いをしていると門番の仕事に向かったジャスパーが、
まだ昼過ぎだというのに戻ってきた。
「門番の仕事は今日限りで辞めてきた。」のだという。
驚く俺の後ろでカルさんが
「ふんっ。どうせ師匠の料理に感動し、俺の仕事を手伝う気になったんだろう?」
とやや嬉しそうな表情を浮かべている。
「いや、違う。」とジャスパーが否定した。
「俺はリョウと一緒に王宮に向かう。」
「え?」
俺もカルさんも、そしてセドニーさんも、急なジャスパーの変化に驚くばかりであった、、、。
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事情を聞くと、今朝俺の料理を食べたジャスパーは、今まで〈料理〉にこだわってきた父を理解できないでいたが、料理を知った今、王宮に抗議するべきだと考えた。
とは言え、やはり俺の親父(岩鉄)のように連行される危険性も考え、味方が必要だという。
「料理は素晴らしいものだ。ただ、料理を食わないことにはその素晴らしさは分からない。現に、王や貴族が料理を独占していても、俺たちは今まで何の文句も抱かなかった。」
ジャスパーは決意の込められた表情で続ける。
「だから、リョウに料理を作ってもらい、民衆に料理の素晴らしさを伝えるんだ。
そして、みんなで抗議し、〈料理ができない〉という魔法を解いてもらおう!」
「素晴らしい、素晴らしいぞジャスパー!!!師匠の料理の力をもってすれば、この世界を変えられる!!」
カルさんがジャスパーの言葉に拍手喝采する。
(な、、なんだか話が大きくなってきたような、、。)
不安げな俺にセドニーさんが、
「何はともあれ、親子喧嘩が終わったみたい。リョウ君のおかげね。ありがとう。」と微笑む。
確かにジャスパーとカルさんは二人で熱く語っていて、喧嘩していたようには見えない。
(よかった、、のか?)
わりと大雑把な計画に不安を感じながらも、二人の様子を見守っていた。
夜になり、店を閉める時刻になるとカルさんとジャスパーがテーブルに座って、また話をしている。
「ともかく、王や貴族にバレないように、色んなひとに料理を食べてもらわないといけない。」
「うむ。そうだな、、。俺が初めて〈卵焼き〉を食べて岩鉄が連れていかれた時は、料理ができる人間が町にいると話題になって、兵士に包囲され捕まったんだ。」
「と、すると料理を広めなければならないが、誰が作ったのかは隠す必要があるな。」
二人が頭を抱えている。
俺と一緒に店の片付けをしていたセドニーさんが、「顔を隠したいならバンダナがあるよ。」といって引き出しからバンダナを取り出す。
色んな色のバンダナが何枚もある。
(なんだかバンダナで顔を覆うなんて、まるで盗賊みたいに見えるんじゃ…。)
ただ、「名案だ!」「さすが母さん!」と和やかな家族の雰囲気に水を差せず、
俺は口をつぐんだ。