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1)異世界転移で知らない世界

「おい、りょう!早くテーブルを片付けないか!」

大きな怒声どせいが店内に響く。


町の外れにある小さな飲食店で、右にも左にも料理皿を持った俺に親父が怒鳴る。

どうやら、店のドアの向こうで行列を作っているお客をみて焦っているようだ。


「はいよ。」


1番テーブルと3番テーブルに料理を運び終えた俺は、すぐさま別のテーブルを片付け、お客を通す。


「大変お待たせ致しました。こちらのテーブルへどうぞ」


「ありがとう。今日は唐揚げ定食でお願いできるかな」


俺は軽く頷き、

「かしこまりました。唐揚げ定食ですね。」とにっこり微笑んでから、

「うちのせっかちがすぐにお作りしますので。」とにやりと笑った。



----------------------------------------------------------------------



あたりがすっかり暗くなり、最後のお客を見送ったあと、俺はゆっくり暖簾のれんを片付けた。

そして店の中に入るとすぐにお腹が鳴った。

「腹減ったー」そう言うと店の奥から母が出てきて微笑んだ。

「今日もお疲れ様。ご飯にしましょう。」




家族経営のウチ桐森きりもり家は、親父の岩鉄がんてつと母の桃子ももこと俺の三人で切り盛りしている。

親父は調理、母はホール、俺は厨房とホール兼任だ。

有難いことに常に行列ができる程に繁盛しており、自分の飯を食う時間があまりない。


母が作ってくれた煮物やお味噌汁を堪能していると、親父がテーブルの正面に座って一緒に食べ始める。


親父は「うまい。」と一言だけつぶやくと、俺に目を向けた。


「それで、お前はいくつになった?」


物忘れが多いのか、親父は最近毎日年齢を聞いてくる。


「17だよ。明日で18歳」と呆れながら俺は答える。


「そうか...。もう18か。」

親父は何故か少し顔が暗い。


俺が不思議に思っていると、母が横に座って親父に話しかける。


「あなた、寂しいでしょうけど、この子なら大丈夫ですよ。」



(な、、なんなんだ?何かあるのか?)



変なことを言い出す両親に何か聞こうとしたが、急に部屋が光を放った。



シュッッ




あまりにまぶしくて目が眩む。


何か分からないが、両親の元に駆け寄ろうとし、叫んだ。


「母さん!親父!」

「「りょう!」」


返事がない。体が動かず、意識が遠のく…

意識が薄れゆく中、両親の声が聞こえるような気がする‥


眩しかった部屋は暗闇へと変わった。



-------------------------------------------------------------------------------------------------



チュン



チュンチュン


(鳥の鳴き声がする。。)


ザザー ザザー


(波の…音。)


ザザー ザザー


波が浜辺に打ち寄せる音が心地よい。



(波……?波だって?!)






俺は目を開け周りを見渡すと辺り一面、白い浜辺と海が広がっている。


(そんな…はずは…)


俺が驚いているのは、ウチの店がある町は山に囲まれ、

海へはずっと遠くの町まで行かなければあるはずがないからだ。


海を見たおれは、自分がいる場所が店の近くではないことを確信した。


(どうして…ここに?)


少しずつ記憶を思い返してみてもわからない。ちょっと前まで、母と親父と晩御飯を食べていたのだ。

夜だった景色は太陽が昇り、青い空が広がっている。


(……分からんが、分かるまでなんとかなるだろう)

いつまで考えても仕方がないので、立ち上がることにした。

幸いなことにあまり恐怖はしていない。


考えることが苦手な俺は、この状況が《異世界転移》であるとは思いつかなかった。


----------------------------------------------------------------------



海から川をつたって歩いていた。


川の上流へ行けば山がある、山の方へ行けば帰れるかもしれない。

そう思って歩いていたが、どこも見覚えのない風景だ。

生えている木も杉や檜などの日本の木ではないような太くて大きな木が多いように感じる。



(まさか海外なんてことないよなぁ。俺パスポート持ってないぞ…)

そんなことを考えていると遠くに山が見え、町を見つけた。


不安ながらも町の入り口へ歩いていく。


背の高い20代くらいの男性が門の前に立っている。

どうやら向こうもこちらに気がついた様で、俺の方に目線をやる。


近づくとロシア人の様な肌の白くて鼻筋の高い男性は、俺に声をかけた。


「こんにちは。」


よかった。日本語を話せるらしい。


「こ、、こんにちは。」

おれはぎこちなく挨拶をして話しかけた。


「あのう、、ここは何県でしょうか?」


すると男性は不思議そうに頭を傾げ、「ナニケン?聞いたことのない村だね。ここは、クオーツ村だよ。無論、ジュエリア国の統治下の村さ。」


「ジュエリア国のクオーツ村?」


はて、俺は地理の授業が苦手なので分からないな、、やはりここは海外なのか、、?


男性は俺の反応になおも不思議そうにこちらを見つめていたが、愛想よく自己紹介をしてくれた。

「ともかく、村に入りなよ。俺はジャスパー。良ければ俺んちに泊まるといいよ。宿屋なんだ。」



ジャスパーに案内され、宿屋につくと建物の作りに驚いた。

2階は宿屋のようだが1階は居酒屋になっており、まるで西部劇のバーのようだ。


扉を開くとギギギと音がして、ふくよかな女性とカウンターの厳めしい男性がこちらを見る。


「失礼します、、あのう、ジャスパーさんの紹介で伺ったのですが。」


「あら、いらっしゃい。どうぞどうぞお入りなさいな。」

ふくよかな女性はにこやかに俺を中へ案内してくれる。


「あたしはセドニー、旦那はカルよ。」

セドニーという女性はジャスパーさんと同じくクリーム色の髪が肩まであり、とても温厚そうな顔立ちだ。


「また、ジャスパーが連れてきたか、、あいつめ。」

迷惑そうに考え込むカルはなんだか俺の親父に似ている気がする。

セドニーさんより濃い茶髪の髪で、無愛想だ。


「あなた!そんなこといっちゃあ、お客さんが困るでしょうか!」

セドニーさんが言う。


「あ、いえ、当然ですよ。急にお邪魔してしまったので。」俺がそういうとカルさんが、

「…使いたきゃ使えばいい。二階の奥だ。」と言ってそっぽを向いてしまった。


「まあ、ごめんなさいねえ。息子のジャスパーと喧嘩してるだけなのよ。気にしないでね。

どうぞ上がってゆっくりしていってちょうだい。」

セドニーさんはこちらに微笑みながら、二階の部屋へ案内してくれた。



俺は部屋でゆっくりさせてもらいながら、ふと思い出した。


(お金をもっていない…!宿賃がはらえないじゃないか。)


自宅から急に別の場所にいたので、服と靴以外に何もなかったのだ。

慌ててセドニーさんにお金がないことを説明し、お店で働かせてくれるという話になった。


小さな村だが、王都まで1000キロの場所にあり旅人や行商人がよく泊まるそうで、

意外にも繁盛しているそうだ。息子のジャスパーさんは本来店の手伝いをしているそうだが、

父のカルさんと喧嘩してしまうので、今は門番の職についたそうだ。


「だからお手伝いしてくれることはとても有難いの。助かるわ。」セドニーさんは笑う。


「うちの人って口数はすくないし、ぶっきらぼうだからジャスパーも店を手伝ってくれなくなってね。」


気持ちは分かる。俺も親父と何度も喧嘩し、店を手伝わない時があった。

結局、料理をすることやお客さんと話すのが楽しいので、今は自分の意志で働いている。


「セドニーさん、俺も飲食店の息子なんで何でもやりますよ。」


「あらまあ、そうなの!じゃあリョウ君は、お客さんの案内と食事の提供を手伝ってもらえるかしら。」


「分かりました!任せてください。」


日が暮れて夜が近づくとお客さんが3組入ってきた。

カウンターとテーブルが5つある店内はすぐに埋まりそうだ。


案内を終えてお水を置いた俺は、カウンターへ注文を伺う。


「注文はお決まりですか?」


そういえば、この店ではどんな料理を提供しているのだろう。

メニューに目を通していなかったのでその時はまだ知らなかった。



男性は旅人の様で薄い羽織を着ていた。


そして、メニューを見ながらこちらに言った。


「じゃあ、ぶどうとりんごとバナナで」


「はーい。かしこまりました。ぶどうとりんごとバナナですね~。」





……ぶどうとりんごとバナナ?


料理名でなくて変な注文だと思ったが、この人はフルーツが好きなのだろう。


メニューを預かって引き下がり、中身を確認してみるとメニュー表には確かにぶどうやりんごやバナナとある。



(え…どういうことだ。料理名が一つもない!)


そのメニュー表にはお酒の他、フルーツや野菜などの名前しかないのだ。


そのあと他の注文や、食事の提供をしたが、料理は一度もなかった。

本当にぶどうとりんごとバナナだ。

この店は料理を提供しない店なのか…?


夜が更け辺りはすっかり暗い。

閉店後、セドニーさんに聞いてみた。


「あの、セドニーさん。ここでは料理って提供しないんですか?」

セドニーさんはびっくりして言う。

「料理?料理なんて、あるわけないさ。貴族じゃないんだから。」


聞いてみると、この国では〈料理をする〉のは王や貴族だけで、一般人は食物をそのまま食べる習慣なのだそう。大きなスイカなどは包丁を使い、食べやすいように切ったりすることはあっても、〈煮る〉〈焼く〉〈蒸す〉〈揚げる〉といった事をしない。


この国の料理人は全て王宮にしかおらず、どんな家庭にも飲食店にも料理ができるものがいない。

だから、料理の道具も知識も市民が得ることがなく、料理の必要性のないものしか食べられないのだ。

そもそも料理をする習慣がない為、料理をしようとも思わないらしい。


また、お酒などは国の指定された商人しか仕入・販売ができず、かなり高額。

ほとんどのお客さんはお酒を呑むことはないのだという。


そんな国があるのか…?どんな大昔の人だって肉を焼いたり、魚を煮たりしていたのに。



俺が大分混乱していると、カルさんが話しかけてきた。


「あんた、、この国の奴じゃないな。〈料理〉を食った事があるのか。」


「え、ええ。俺の国じゃ〈料理〉は毎日食える環境にありますから。」




俺はカルさんとセドニーさんさんに自分の国のことや、気が付いたらこの国にいたことを説明した。

セドニーさんは驚きの表情を浮かべ、カルさんは少し考えこんでいた。


「俺、、どうしたら自分家に帰れるか分からなくて、、、。」

「まあ、それって、、、。」

「ふむ、、。転移という魔法かもしれんな。」

「てんい、、?」


カルさんの言葉に俺は驚く。

転移ってたしか別の世界に飛ばされる、、っていう?


「実は俺は一度だけ〈料理〉を食った事があるんだ。」


「王都に住んでいたころ、旅の男に作ってもらってね。出会った時に『料理をつくれる』と言うものだから、デタラメだと言ったらホントに料理を作っていた。〈卵焼き〉という卵の料理だった。作り方を教えてくれるといっていたんだ。ただ、料理人が町にいると王に知れ王宮に連れて行かれてからは会っていないが。」


カルさんはすこし悲しい顔をして、

「いいやつだった。奴は転移者だった。岩鉄と名乗っていた。」


そうか、、俺以外にもきた人が、、、、岩鉄がんてつ

急に親父と同じ名前が出てきて驚いた。詳しく聞けば聞くほど親父である。


「そ、それ俺の親父かもしれません。」

「なんだって?!」




いきなりの異世界転移で〔料理〕のない世界へ、

それに加えてまさか親父が居たという情報に俺は混乱するばかりであった。




挿絵(By みてみん)






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