3〜Riddle
マテオがよく連れてくるミュージシャンの友達のひとりだ。
その佇まいから、最初男の子だと思っていたが、体の作りや柔軟さは女の子だ。
森が好きなのか、このスタジオの向かいの公園に続く森の話をボソボソと熱弁する。
でも、一度も目は合わない。
無表情で、下を向いたまま話し続ける。
見た目とは裏腹に、そのハスキーな声ゆえに拙く聞こえる英語が幼さを感じさせ、そのギャップは不気味さすら醸し出している。
儚さと激しさの両方を兼ね備えている。
「意外とメルヘンだな!」
と言うと、
「メルヘンにはしてほしくない。
森の持つ荘厳さを入れて欲しいの」
マテオは、お手上げという顔をしている。
「これだけは言っておく。
大きなタトゥーを入れると、それは、君の象徴になってしまう。
消すことも難しい。
特に、背中は自分では見えない。
だから、君がその象徴を人に晒すには、それなりの覚悟と風格が必要になる。
できるか?」
「わからないよ、そんなこと。
でも、私には、木のタトゥーが何より必要なの」
「必要?」
「自分自身の為に。
私、木みたいになりたいの」
不思議な娘だ。
興味が湧いた。
「よし!俺がやってやる」
「俺は、高いぞ。
次のライブに招待してくれたら、割引してやる」
1週間後に予約を入れた。