1〜Lue
俺は、カーリーに苦戦している。
初日は酔っ払って中座され、
その翌日は、下を向いたまま目も合わせない。
さらにその翌日は、レコーディングで忙しいと、ブースから出てこない。
カーリーに会う前に、イラストレーターのジェームズ・モランから聞いていたが、ここまで難しい奴だとは思わなかった。
さらに悪化させる展開にもなり、俺は会ってももらえない。
当時暮らしていた大阪のまた従兄弟の家で、3年経ってもやりたい事が見つからない俺は、あるバンドのMVを観て、脳天を打ち砕かれ、全身鳥肌が立ち、言葉を失った。
それが、Scream of No Nameの『Run』だった。
機関銃のような乾いたスネアの音、地鳴りのようなベース、悲鳴のようなギター。
一人の少年が走っているイラスト。
その背景には、燃え上がる炎、瓦礫の山、津波、武器を持つ大人達。
瓦礫からアフリカ系の男の子を助け出し、座り込んでいるアジア系の女の子の手を取り、3人でひたすら走るイラスト。
そして、目の前に菜の花畑とひまわり畑ととうもろこし畑。
そこで音はなくなる。
ひまわり畑から、数人の子ども達が出てくる。
そんなMVだ。
楽曲の迫力、テーマの重さもそうだが、イラストが時々微妙に動くという斬新なアニメーションや、その背後に映し出される恐ろしい光景、音のない黄色い画面で終わるエンディング。
この全てが、俺の胸に突き刺さった。
この世界観が知りたい。
俺は、これを映画にしたい。
そう思ったら、居ても立っても居られなくなり、また従兄弟の家を後にした。