9ーRiddle
それと同じ頃。
バイトの休憩時間に、公園のベンチで、ハンバーガーにかぶりつきながら、絵を描いていた俺に、声をかけてきた人がいた。
「絵がうまいな。他の絵も見せてくれ。
お前、俺の弟子にならないか」
と言ってきた。
話を聞くと、近所で小さなタトゥースタジオをやっている人だった。
昔気質の人で、最近のブームに乗れず、苦戦しているという。
「俺、大学生でバイトもしていて、忙しいんで」
と断ろうとしたが、部屋を提供してくれるという一言に、心が揺れる。
『ブラン』という名の小さなタトゥースタジオで、その人は、ジャック・ブランという名だ。
小さな部屋で汚れていたが、俺のアパートからマットレスを車で運んだり、引っ越しを手伝ってもくれた。
俺は、タトゥーが掘れるようになるまで、最近の流行りのタトゥーを調べて、それっぽい原画を描く。
昔気質の人なので、手彫りを教えてくれた。
タトゥーの練習は、自分の体だ。
汚れた自分の体をタトゥーで埋め尽くすことに、抵抗は感じなかった。
俺は、体を求められることもなく、まるで息子のように接してくれるジャックが好きで、ここの仕事も無理してやっていた。
しかし、それも長くは続かなかった。
2年もしないうちに、彼は、胃癌がみつかり、その治療費の為ということで、家族がそのタトゥースタジオを売りに出した。
それを知ったジョンが、友達とシェアしている一軒家の地下室が空いているから来いと言ってくれた。
同じく、それを知った同業者のタトゥースタジオからスカウトされた。
バイトをやめて、タトゥーだけでやっていける金額を提示された。