3〜Kerly
リドルに知られたくなかった過去のことを暴かれ、私は、複雑な心境だ。
常に、リドルへの思慕と気まずさが天秤にかかっている。
私は、普通じゃないのは、あの頃からわかっていた。
話せば楽になるとか言うけれど、当の本人は、何よりも知られたくないことなのに。
私は、心を閉ざしている時間が長かったせいか、今でも、生き方がわからない。
数十センチ先しか見えない暗い道を、前を歩いている人の裾を掴んで進んでいる気分だ。
まともに生きられない自分を隠しながら。
その日その日を生きていく為に、封じ込めないといけない感情もあるんだよ。
明日はライブだ。
その練習に全力で集中するしかない。
感情を封じ込める為に、スイッチを入れていかないと。
練習後、近くのパブで、スタジオの仲間達とお酒を飲む。
リドルに来いって言われたけれど、気が向かない。
パブから帰ってくると、私たちのスタジオの前でリドルが待っていた。
レイちゃんとショウくんは、気を利かせてか、挨拶だけして先に部屋に戻った。
「どうして来なかった?」
黙り込む私。
「背中みせてみろ」
そう言われて、私はリドルを部屋に招いた。
私は、自分のベッドにうつ伏せになり、リドルは、私の背中のガーゼなどを剥がし、タトゥーを確認する。
「大丈夫そうだな!
一応また消毒はしておく」
持参した消毒液を、私の体に優しく塗る。
「俺に会いたくないか?」
「わからない」
「俺は、君を嫌いになったりしない」
そして、頭にキスして帰って行った。
私は、まだ背中を見せる事に抵抗がある。
でも、たしかに今に始まった事ではない。
それを思い出した時、
『背中の記憶を塗り替えたい』
心のどこかに、そんな気持ちがあったのかもしれない。
リドルは、どうしてわかったの?
自分ですら気付かなかったのに。