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彩食園グルメエクスプローラーズ!  作者: 鳥路
序章:天使と猟師
6/6

5:遠いからこそ

「…家は、凄いよ」

「うん。知ってる。天使は普通だよな」

「…へ?」


「俺さ、転移前に「天使様」って呼ばれている天使を見かけたって言ったろ?」

「う、うん」

「廊下でみた天使はなんかさ、周囲から一定の距離を取られていて…表情も暗かったな。何というか、楽しくなさそうって感じ」

「…」

「けど、こっちで関わった君は普通の男子高校生らしくてさ。こっちが本当の君なんだろうなって思わされたよ。普段もこっちでいたらいいのに」

「…」

「うぇ!?天使!?どうした!?なんで泣く!?なんか泣かせることしたか!?」

「ううん。そうじゃなくてさ。僕、普段を受け入れてくれる人がいるとは思っていなくて。外向けの性格じゃないといけない、家が出してくる条件をこなしてとか色々と耐えきれないことが多くてさ。それを相談する相手もいなくって…」


正確には「いなくなった」

不満を吐露しただけで、周囲は僕の行動を金持ち自慢だとか、贅沢な悩みだとか言ってくる

悩みに贅沢も何もないと思うのに

皆、そういう風に捉えて距離を置いた


「ごめんね。出会ったばかりの君にこんなこと」

「いや、一応伊吹の話だと、俺と君、一年の頃はクラス一緒らしいし。お互い眼中になかっただけで、出会ったばかりではないぞ?」

「それでもだよ。こんなこと急に言われてさ…迷惑じゃん」


砂糖水を吸ったスライムはグズグズになった

なんだかその形状が自分の心を写しているように見えて、むかついて

思いっきり両手で潰してしまう


「ん〜。別にいいけどな。俺は気にしないし。てか、吐き出せる内に吐き出しておけよ」

「…なんか、君と一緒だと調子が狂うな」

「そうか?」

「そうだよ。なんか、普通聞く?みたいなこと深堀してくるし」

「君こそ、特に接点もない相手に滅茶苦茶重いこと吐いてるよな…まあ、その方が吐き出しやすいのかもな」


何の接点もないからこそ、その場だけの間柄だからこそ

話せることもあるのかもしれない


「お金持ちの家って、なんか色々口出しが酷いのか?」

「お金持ちの家って…まあ、そうだね。結構色々言われる。成績も、交友関係も、それから趣味のことも」

「趣味まで?漫画読むなとか?」

「そんな感じ。影でこそこそ読んだりしてたけどね」


成績は上位十番以内。友達は同格の家しか認めない

趣味に使う時間はほとんどなく「子供らしい趣味」は親や周囲に見つかれば禁止される

こっそり大衆向けの趣味を一人で楽しみ、自由に思いを馳せる


「正直、この転移にわくわくしちゃったんだ。あんな危険なことがあったばかりだし、現在進行形で食事に困っている中、不謹慎だけどさ」

「それはどうして?」

「物語の世界に憧れがあったんだ。自由で、楽しそうで…今とは大違いの生き方が、できそうだなって」

「…」

「でも、現実はそんなに甘くなかったや」

「そうだなぁ。化物…あー、魔物だっけ?案外強いのゴロゴロしてるしな」

「本当に君に会えて良かったよ…」


「でもさ、例えば天使が俺のジョブを手に入れていたとしたら…どうしたんだ?」

「君の?」

「ああ。狩人。食事の心配はあるが、街にさえ到着できれば一人でも十分やっていける代物だと思う」

「…」

「もしも、そうだったら天使は「帰りたい」と思ったか?」

「ううん。絶対に思わないだろうね。この世界で、やっていこうと考えたかも」

「そっか。そこまで現実が嫌だったんだな」

「まあね。君からしたら些細で、そんなことって言えちゃうような悩みかもしれないけれど…僕には重すぎて、解決できない悩みだから」


この悩みは、環境を変えて初めて解消できると考えた

容姿のことで揶揄われたりした中学時代

それよりマシになると…事実マシになった高校時代

けれど代わりに周囲はそんな僕を幼い容姿と併せて、苗字を読み間違うことで揶揄いはじめた

それが「天使様」

まともに名前を呼ぶ気すらない存在は個人的にも必要がないと思っていたから遠巻きにされるのも受け入れていた

けれど…やっぱりどこか寂しいままだった


「悩みに大小はない。悩みは悩みだ。なんというか、話してくれてありがとうな」

「迷惑じゃない?」

「困惑こそするが…迷惑ではないな」

「懐広いね…」

「伊吹からよく言われる」

「言われるんだ…それに、伊吹君?仲いいんだね」


そういう友達に、憧れる

そういうのを口にしたらきっと、それこそ迷惑だろうから口にしないけれど


「伊吹とは小学校の頃からずっと一緒なんだ」

「そうなんだ」

「ああ。両親がいない俺をずっと気遣ってくれていて、伊吹のお母さんも姉ちゃんが仕事から戻るまで快く預かってくれたり。食事の面倒まで見てくれてさ」


「ご両親、いないの?」

「ああ。俺が六歳の頃に事故で死んじゃったらしくてさ。そこからずっと姉ちゃんが面倒を見てくれて。こうして高校まで入れて貰ったんだ」

「そう、なんだ…大変だね」

「そうだな。姉ちゃんには滅茶苦茶苦労をかけているし、結婚だって俺が中学卒業するまでは待とうとか言い出して…流石に大地さんに悪いから彩燭の合否判定が出てからまでにして貰ったけどさ…」


いや、僕の大変だねって言葉はお姉さんにもだけど、目の前にいる君に言ったのだけど

どうして、お姉さん中心の苦労になっているのだろうか


「姉ちゃんの人生って俺がいなきゃもう少しいいものになっていたはずなんだろうなって考えさせられることは度々あったさ。だからこうして離れて、一人立ちするきっかけができて…好都合とも言える。通常であればの話だけどな」

「…」

「「通常」であれば、喜んで受け入れていたと思う。けれど、俺は、ちゃんと帰らないとって考えている。姉ちゃんにちゃんと恩返しをしたいから」

「恩返し?」

「…時間のズレがあるかわからないからどうなっているかわからないけれど、少なくともあの転移が起きた時期、もうすぐ姉ちゃんに子供が産まれる時期だったんだ」

「!」

「だからさ。苦労かけた分、色々手伝いたいんだ。大地さんと経営している花屋のこともある。だから早く、帰ることができるのなら帰りたいし、出口があるのなら探したい」

「そっか。土神君は帰りたいんだね」

「ああ。帰りたくなさそうな天使に言うのもなんだけど」

「僕は君のやりたいようにしたらいいと思うし、今の僕も「一度帰りたい」と思う。ここで彷徨うよりは、間違いなくマシだからね。例え、向こうでの日々が窮屈だとしてもさ」

「それは言えてる」


「挑むなら、もう少し万全な準備を整えたい。包丁だけじゃどうにもならないよ」

「確かにな。せめて鍋は欲しいよな」

「わかる!野草を炒めたりもできるし、それに煮沸消毒ぐらいさせてほしい!通用するかわからないけれど!」

「それから野営設備とか普通に欲しいよな。テントとか。通用するかわからないけれど」

「だね。でも、なんだろう。まるでキャンプの計画を立てているみたいな感じだね」

「あ、わかるわそれ」


スライムをこねくり回しながら、僕らは雑談を再開する

まさかこんなところで心の内を吐くことになるとは

それに、彼にも色々あるらしい。教えて貰えるとは思っていなかった

こういうのは普通なのだろうか。いや、普通じゃないな

距離感が遠いからこそ、話せたこととしておこう


でも、結構引っかかることがあったな

…そういう事情には、踏み込んでいいものなのだろうか。わからないな


しばらくするとスライムは丸く形成されていく

それは思ったよりも柔らかく仕上がり、実食できる程度に完成してくれた

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