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09 男爵令嬢メルティとして

 私を取り巻いている人々はある人は涙ぐみ、ある人は私を呆然と眺め取り縋ろうとしていた。

「いや、だから、メルティって誰のことだ?」

「メルティアお嬢様っ」

「メルティが……」

「お医者様。きっと倒れたときに打ちどころが良くなかったのですわ。二週間も目覚めなかったのですもの」

 貴婦人が涙ぐみながら白衣のローブの男性に話しかけていた。

「ふむ。頭を打って記憶をなくす話は時々ありますね。メルティアお嬢様もそうなのかもしれません」

 お医者様と呼ばれた男性が深刻そうな表情でそう話した。

「倒れた? 私がいつ……」

 私は茫然として尋ねると、貴婦人の横にいた男性が心配そうな表情で答えてくれた。

「マルナート子爵家の馬車泊りで、もみ合いになったと聞いている。ああ! メルティだけで行かすのではなかった! 子爵家には厳重抗議する!」

「ええ。あなた。でも、大事になったらメルティに傷がつきますわ。冷静に対応しかないと」

「う、うむ」

 どうやら二人は夫婦のようだった。それにメルティと言うのはその娘。つまりこの今の体の私のようだった。全く頭がついていかない。

「それに医師の私からもお嬢様は記憶に混乱が見られるようですから、暫く静かに養生することをお勧めします。それにこういった状態では無理に思い出さない方が良いでしょう」

 お医者様に言われてメルティとやらの両親が肯いていた。どうやらこの体の持ち主はメルティと呼ばれて、この善良そうな男女の娘のようだ。それに使用人達も周囲で心配そうに見てくれている。貴族の中でも感じが良さそうな家庭だと思われた。

 そう判断して私は医者に言われるがまま寝台で横になった。私が目を閉じて眠ったふりをすると静かに彼らは出て行ってくれた。

 私は横になったまま頬を抓ってみた。

「痛いっ。ということは夢ではなさそうだ。どれ」

 私は寝台から下りると足元がふらついた。とても立っていることができないほどの倦怠感だ。

「いかんな。鍛えないと。何だ。この貧相な足腰は……」

 筋肉どころか肉も碌に無い華奢な身体だった。ただ胸はそれなり、いやかなりの膨らみがある。

 私は草原だったのに。うらや……。う、うむ。こほん。

 それに確か私は二十六のはずが、どうもこの体は十代のようだった。

「お肌がプリプリのつやつやだな。何かないのか? この体の持ち主の分かる物は……」

 机の引き出しをあら捜しする。小さい鍵付きの引き出しが開かないので、そこらにあった髪留めのピンでちょちょいと開けると宝石箱らしきものと日記帳があった。

「そうそう。貴族令嬢はこういうのを書きそうだな。言ってみれば業務報告のようなものだ。どれどれ……」

 私はページをめくった。どうやら毎日ではなく大きな出来事を数行書き留めているらしくお陰で彼女の置かれている状況を理解していくことができた。パラパラとページをめくり、最初の方と最近のところの気になるところを読み進む。

「ふむ。メルティア・ソードラーン男爵家の一人娘ね。歳は十六歳。デビュー前と……」

 ソードラーン男爵家は聞いたことがあった。

 男爵家といいつつ古くからの名門貴族で裕福さで言えばそこいらの伯爵家と遜色ないほどと言われていた。現当主も穏やかな人柄で人望も厚い。

 夜会や宮廷の晩餐会の警備の手伝いで噂を聞いたりお見掛けしたりしたこともあった。それに彼女はどこかで……、そう考えようとすると頭がズキンと痛んだ。

「それで私はどうしてメルティア嬢の身体になっているのか」

 日記帳を開いて唸っているとマギーとやらが戻ってきた。マギーは日記によるとメルティアの三つ上でメルティア付きの侍女だった。

「メルティアお嬢様! 休んでないと駄目じゃないですか!」

 心配そうに怒ると私を休ませようとした。メルティアのことを本気で心配しているようだった。

 自分と違って、貴族令嬢で穏やかな両親と使用人に愛されているようなメルティアは一体どうしてこうなったのだ? 

 日記にはいくつか気になることが書かれていた。

 それから私は横になっていろいろと考えてみた。

 男爵達が言っていたメルティアが馬車泊りで怪我をする羽目になった子爵令息のこと。

 少し前にメルティアは下町を訪れて占い師から不思議なネックレスを手に入れている。これはどうやらあの机に置かれているものだろう。何故か宝石部分が砕けてしまっている。倒れた時にでも割れたのだろうか?

 そして、アニー、私は今どうしているのか。

お読みいただきありがとうございました。

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