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ある日、ヒロインと成り代わりまして~鬼隊長と呼ばれた私が可憐な男爵令嬢に成り代わり、イケメンの元部下に絆される~  作者: えとう蜜夏


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12/22

12 令嬢アニー

 そして、翌日早々に男爵夫妻から私は起こされることになった。ある程度予想はしていたけれど。

「め、メルティア! お前は昨日騎士団にお礼に行っただけじゃないのか?」

 着替えをしてティールームに来るように言われて急いで身支度を整えると部屋に向かった。

 椅子に座ると薫り高いお茶が冷めていくのに飲ませてもらえなかった。

 男爵が私に次々と質問してくる。夫人はそんな夫にどうしてよいのやら分からず黙ってお茶を飲んでいた。

 マギーも壁際で控えていたが私の一挙手一投足に注意しているのが分かる。

「お礼をしたかったのですが、アニー隊長は亡くなられているとのことでしたので……」

 私がしゅんとすると父親は言葉に詰まっていた。

「……そうだ。確かメルティが倒れたのと同じ日だったな」

 ……同じ日と言われ私は気にかかった。それでもまだ足りない。

 どうして私がメルティア嬢の体に入ることになったのか。

 メルティア嬢の意識はどこに行ったのか。

 私と入れ替わったのなら、アニーの方にメルティア嬢がいるはずだが、その体は既にないことになる。

 ぞくりと私は身震いしていた。

「ああ、メルティア。怒っているのではない。ただ……私もどうしてよいのやら」

 そういうと男爵は戸惑った様子で大きくため息をついていた。

「一体、どうしたというの。あなた」

 男爵夫人が怪訝そうに尋ねた。

「これから、コートナー侯爵家のエイベル様が家にいらっしゃるそうだ」

「え?」

 ……早いな。エイベル。さすがだ。

「まあ、それは大急ぎで準備をしないと」

 夫人は迎えの準備のために立ちあがった。

「いや、待ちなさい。その、お前にも聞いて欲しいのだ。かの方がお見えになる前に」

 男爵の言葉に夫人は再び座り直した。

「あなた。一体どうしたというのです」

「その、コートナー卿は、メルティアに会いたいと、そして……」

 男爵は言葉を切ると私を見た。

「メルティアに求婚したいと……」

「んまあぁ!」

 男爵夫人は驚きの声を上げたが嬉しそうな様子が混じっていた。

「まだデビュー前だと説明しようと思っているのだが、メルティアはどうだい? 倒れて調子も良くないようだし、お前がお会いしなくて断れるように話そうか?」

 男爵は心配そうに気遣ってくれていた。夫人はそれに不服そうだった。

「いえ、お父様。お会いしたいと思います」

 そう、どうしてエイベルが会いに来るのか。その目的によって私の行く末が決まる。エイベルを引っ張り出す餌として別れ際に伝えたことが彼にとってどう捉えられたのだろう。

 寝台のある部屋の床板を外して出てきたものを返したいと。

 家令からエイベルの到着を告げられると男爵が緊張したが出迎えるため玄関へと出て行った。そしてやってきたエイベルはまるで王子様のような装束だった。銀髪の服に映える黒い軍服は騎士団総副団長のものだった。見慣れた隊服姿ではないのが少し寂しい。男爵はしどろもどろになりながらエイベルを迎え入れた。

「ようこそコートナー侯爵令息様、たいしたおもてなしはできるかどうか、なにせ急なことですから」

 すると彼は急くように男爵へ申し立てた。

「ソードラーン男爵。初めまして、私はコートナー侯爵家のエイベルと申します。初対面の上、このように押しかけ大変驚かせてしまったことは申し訳ないことですが、急務なことがあって、メルティア嬢に確認したいことがあるのです。そしてそのために二人きりにさせて欲しいのです」

 エイベルの申し出に最初何を言われたのか男爵は理解できず、ぽかんとしていたが、我に返るとエイベルの申し出を断った。

「そ、そんなことはできません。エイベル様のことを信頼してないとかいうのではなく、メルティアはまだデビューもしてないような子どもですから」

「責任はとります」

「は? 責任。え、いえ、それは……」

 エイベルに責任はとると叫ばれた男爵はしどろもどろになっていた。夫人が、

「分かりました。では扉は開けておいてくださいませ。メルティアの嫌がるようなことをなさるようでしたらあなたを許しませんわ。男爵家の全てをもってしてもあなたに報復いたします」

 物静かながら棘を含んだ夫人の言葉にエイベルも我に返ったのか先ほどの勢いも少し薄れたようだった。それに納得して皆は退室し、部屋には私とエイベルだけになった。

「では君に問いたい。何故君はこれの在りかを知っていた? 君は一体……、何を知っている」

 そしてあの尋問の時に見慣れたエイベルの表情に私は微笑みを浮かべて応えた。

「あなたにお返しするためです。あの指輪がどうなったのかは分からないので」

 エイベルからもらった指輪を普段はネックレスに通して胸元に隠していた。仕事しているときは無くしそうだったのでそうして身に着けていた。

「指輪のことまで知っているのか? だが、君とアニーには全く接点はなかったはずだ。それにこれを返すという意味も分からない」

 そうして彼が私の前に差し出したのは彼がプロポーズした際の指輪の箱だった。時々それを眺めていた。部屋に置いておくとエイベルが来た時に冷やかされて困るので床板を外して隠しておいたのだ。エイベルに言ったことはない。指輪の方は指にははめず、ネックレスに通して胸元に隠していた。これはエイベルも知っていることだ。

 私が死んで部屋の物は処分されただろうけど隠してあったものは多分見つからないだろうと思ったら幸いなことに処分を免れていたようだった。

 私は黙って彼を見つめ返した。

 エイベルは記憶の中のよりかなりやつれていた。

 私が死んだからか? 少しは悲しんでくれたのだろうか? そんな馬鹿なことを聞いてみたい衝動に駆られる。

 見つめ合っているとエイベルの表情が変わってきた。そして、彼は立ち上がると私の隣に座った。

「ひっぱたいてくれても構わない……」

 そう言うと私に顔を寄せた。懐かしいエイベルの温もりと匂いがする。そっと唇が合わされたが、私は拒まなかった。二人の時、何度も交わして覚えていたある感覚に――。

「まさか、本当に、君がアニー?」

 唇が漸く離されると再度確かめるように名を呼ばれた。

 頷いていいのか、一瞬躊躇したが頷いた。私の名であったものに。

「どうして、いや。本当に君がアニーなのか?」

 エイベルが困惑しつつ私を眺めていた。

「ああ、というかメルティア嬢の体に私がいるという状態なんだ。私にもよく分からない。だからエイベルの助けが欲しい。私は頭脳派ではないからな」

 私はなるべく滑稽に見えるように肩をすくめて見せた。私をただ見つめるエイベル。

「本当に君はアニーなのか?」

「本当だ。なんならエイベルが脱童貞した日やその時の様子も話せるぞ。あのときは大変だった。いい年をした大人の二人が初めてだったからな。それなのにお前は初めて味わった快楽に溺れて私をなかなか離してくれなくて……」

「あー! わああぁ! アニー、分かった。分かった。もういい。確かにあなただ。間違いない」

 それ以上言わせないようにエイベルが私の肩を抑えてこつんと額を合わせてきた。

「エイベル……」

「アニー……」

 そうして暫く彼は私を強く抱き締めていた。もう離さないというほどに。

お読みいただきありがとうございました。

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