それは唐突に
「もう嫌だ。」
深夜に寂しさが漂う部屋に響く声。
そこにはひとりの男がいる。
仕事から帰宅したままなのか、スーツ姿のまま首元を緩めただけでリビングに置いてあるソファに腰をかけて天井を見上げている。
ソファの前にあるローテーブルには帰りがけに買ってきた水とコンビニ弁当が入った袋とポケットから取り出したままのスマートフォンが置かれている。
ひとり暮らしで誰に文句を言われる訳でもない男はボーっとしたまま少し広めの部屋で天を仰いだままだ。
時計の時刻は既に日を跨いでおり、家の周囲には虫の声が響いている。
都会の喧騒から離れた立地の家に住む男は悲しい声を発している。
「もう疲れた。動きたくない。働きたくない。」
そう思うことは誰しもあるだろう。
現実逃避だってしたくなる。
だが何かが変わる訳ではない。
「はぁ…風呂すらめんどい。このままソファと同化したい」
馬鹿馬鹿しい事を呟きながらしぶしぶ動き出す男。
寝室にあるクローゼットへ向かいスーツをハンガーに掛け、バスタオルを取り出し下着姿のまま浴室へ向かう。
「(面倒だからシャワーでいいや)」
そんな事を考えつつ脱いだ下着を洗濯機へ放り込み浴室へ入る男。
そしていつも通り上から順に洗い浴室を後にする。
身体をバスタオルで拭き上げ、少し火照った身体を冷ます為に腰にバスタオルを巻き、ソファへ腰をかける。
「ふぅ…」
ようやく一息つけた男は買ってきた水を袋から取り出し蓋を開け、一気に飲み干した。
そして、マナーモードのまま置いてあるスマートフォンの画面が光っているのに気づき、手に取る。
「(こんな時間にどこのどいつだよ)」
男はそう思いつつ画面を確認する。
『貴方の人生を変えませんか?』
どこのクソ広告だ。
こんな詐欺紛いの広告に引っかかる奴の気が知れん。
男はそう思いスマートフォンを閉じる。
そうすると間髪入れずにスマートフォンに通知がくる。
『貴方の人生を変えませんか?』
また同じ広告か。
男はそう思い、また閉じる。
するとまた通知がくる。
『貴方ノ人生を変えませンか?』
…なんだこれは。
男は怖くなりスマートフォンを手から落とす。
広告が間髪入れずにくるのも怖いが何故か微妙に違いがある。
するとまた落としたスマートフォンが震える。
『貴方ノ人生ヲ買えませンか?』
もう訳がわからない。
男は本当に怖くなり落としたスマートフォンをそのままに、着の身着のまま寝室にあるベットへ駆け込み布団を被る。
するとまたリビングからスマートフォンが震える音が聞こえてくる。
「(聞こえない聞こえない聞こえない知らない知らない知らない)」
恐怖を打ち消す為に刷り込む様に繰り返す。
音が聞こえなくなるまでそのままの姿で居た。
しばらく経つと音もしなくなり恐怖心も薄れてきた。
さっきの通知はなんだったんだろう。
恐る恐るリビングへ向かう。
スマートフォンは床に落ちたままで、テーブルには飲み干した水のペットボトルと買ってきたコンビニの弁当が置かれたままだ。
何一つ変わっていない。
画面が点灯しているスマートフォンもそのままだ。
「(さっきのはなんだった)」
少しの勇気を出しスマートフォンを拾いあげる。
画面を目にしたその瞬間、男の意識はフッと消え去った…。
処女作になります。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。




