07・事件は現場では起こらない
果たしてジャンルはコメディで良いのかと非常に迷っております。ご意見募集中。
冒険者登録から六日経ちました。まだ冒険に出ていないタマモです。
そりゃそうだよ。私達は『見習い』とか言う最低ランクだし。
受けられる依頼が雑用限定なのよね。
え? 薬草採取はどうしたって?
ありゃ専門家の仕事ですよ。素人が手を出しちゃいけない。
薬草って一口に言ってるけど、何種類あると思ってるのよ。
世界常識で見たけど、地球の歴史で有名な『本草綱目』みたいな書物があって、全薬師垂涎の的だそうな。
原本は全百二十巻。収録されている数は約千五百種類。その掲載されてる草木全種類に薬効とか含めて詳細な解説と色付きの詳細な見本絵が載っている。内容の正誤は怪しいとこあるけど権威ある植物図鑑だぁね。
色付き絵図あるからねー。印刷技術がまだ無いこの惑星だと全巻写本なんて、どんだけ手間がかかるのかと。
一部でも写本を持ってるなら自慢出来るレベル、と言うか一財産。
あれ? 世界常識からダッキさんにデータ化してもらえば船内で複製作り放題じゃん。それよりも、より詳細で写真付きの図鑑が作れちゃう。ふむ、何セットか作って、いざという時に好事家に売り飛ばすとかしても良いかも。要検討、と。
なんの話だったっけ。あ、薬草の事だったわ。すまぬ。
大体、薬って毒にもなるじゃない。その逆もまたあるし。
モノによっては成長度合いによって薬効成分が毒に変わるものとか、部位によっては毒と薬効両方持つのとかもあるみたいだし。採取後の処理がきちんとされてないと、薬効が見る見るうちに毒に変わるやつとか、素人はすっ込んでろ案件。
大手薬種問屋みたいなところなんか信用の置ける子飼いの子弟に『異世界版本草綱目』を憶えさせてプラントハンターに育ててるとかなんとか。
故に冒険者ギルドに薬草採取が依頼に出る事は無い。
先に言ったプラントハンターとか薬師達から依頼されるのは彼らが採取に出掛ける時の護衛になるの。
そんな護衛依頼はランク高くて信用度も高い人達が受けさせて貰えるんだけどね。
そう、ランクの他に信用度なんてものがあるんですよ、この地域の冒険者ギルドって。
護衛依頼とかは、この信用度が一定に達してないと、いくらランクが高くても拒否られる。
で、この信用度、町中の雑用依頼をコツコツ受けて実績を積まないと上がらないし、雑用依頼を一定期間受けなかったり、受けても未達成だったりすると下がってしまう。ランク上がっても一緒。
意外としっかりしてたわ、冒険者ギルド。
ポーションとかはどうしたって? あれは錬金術の分野だよ。
怪しくて妖しい材料を錬金術師が秘伝のレシピと秘術(笑)を使って混ぜ混ぜして作るもんだから、『あやしいおくすり』扱い。材料レシピが秘伝だからね、これも依頼に出る事は無いのよ。
んで、そのポーションなんだけど、怪我が治るとかファンタジーで良くある物じゃなくて、所謂栄養ドリンク。しかも効き目は微妙と。それでも求める奴が居るんだから、男ってヤツは……。
錬金術師の小遣い稼ぎのネタだわね。
まー、そんな訳で私とダッキさんが何をしているのかと言うと、工事現場での荷運びとか地固めです。思いっくそ力仕事ですよ。
私達が行くと最初は驚かれたけどねー。今じゃ「おう、待ってたぜ」とか言われる始末。
そりゃね、大の大人でもヒーヒー言うような重量物を、見た目が美女と美少女が軽々と持ち上げたり運ぶからね。
誰だ「美の少ない女」って言った奴、出てこいやー! 自分で自分を美少女って、言ってる本人も恥ずかしいの分かってるわよ……。
なお、現場の効率は上がったらしい。
今日の分でランクが『初級一』に上がるらしいからねー。そうなると狩り系で小型の得物に関するやつが受けられるようになるらしいけど、私はどうでも良いのよ。ダッキさんはやる気満々だけど。
そうそう、ダッキさんの冒険者装備だけど、基本、ぴったりフィットして身体の線が出る革製っぽい長袖の上着とズボンになりました。
そこに適宜、巻きスカート纏ったり、マント羽織ったり、ローブ着たりする感じで。素材はもちろん星間文明由来のモノを使用してます。
うん、男性にも女性にもウケは良いわね。エロいし格好いいし、エロいし。
「おーい! 今日の分は終わったから皆、上がって良いぞー!」
現場監督(人足頭とか言ってたな)のおっちゃんから声がかかる。
「嬢ちゃん達は今日で終わりか。ほれ、これ証明書な。いや、助かったわ。良けりゃまた受けくれよな」
監督のおっちゃん、証明書渡して言うだけ言って手を振って笑いながら引き上げて行ったわ。
「終わりかー。それじゃギルドに証明書出してランク上げて貰うかねー」
「ランクが上がると狩りが出来るようになるんですよね。魔法ばんばん使って狩れますね。期待してしまいます」
「あー、狩りね。あのさダッキさん。登録してる魔法ってさ『火』だよね」
「そうですよ」
「狩りってさ、狩ったときに、なるべく得物に傷とか痛みの少ない状態じゃないと引き取ってもらえないのよねー」
「はい、存じてますよ?」
「火魔法、使えると思う? 初級一の相手は野ウサギとか、そんなんだよ。オーバーキル必至じゃないかなー」
「あ……」
おいこら、仕事の出来る超高性能人工知性体さんよ。気付いてないとか、人化してポンコツ化したんかね。
「地道に杖っぽい棍で殴り倒すしかないねー」
ダッキさん、しょんぼり。そんなに魔法でバンバン狩りたかったのね。
「気落ちしないでよ。ランク上がればゴブリンとかオークとか相手にバンバン使えるって」
「はい……」
んー、やはり人化出来るようになってから短期間で感情豊かになってるなー。
どれどれ、タマモさんに見せてごらん。
skill
・人化
・言語理解(惑星上全言語)
・世界常識(惑星全域)
・生活魔法
・身体基本動作
・身体応用動作(Ⅱ)←level up
・全属性魔法
・喜怒哀楽他 ←new!
・感情表現 ←new!
ふぁっ!? なんか増えてるし!
いや、なんで喜怒哀楽がスキル化されるの? あれか、元々人工知性体だから情動とか備わって無かったからスキルとして生えたのかね。そんで喜怒哀楽以外を『他』って大雑把すぎんか?
不思議だなー。機会があったらイスカリアお姉さんに聞いてみたいわ。
さて、冒険者ギルドに来てみれば、何やら騒がしい。
揉め事っぽいから、こんな時は関わらないのが一番だからねー。
「ダッキさん、何か揉めてるみたいだから帰るよー、って、何でスタスタと入って行くのよ!?」
「え? 証明書の提出ですよ。タマモも早く来て下さい」
こういう融通の利かないとこは変わんないのね。仕方ないなぁ……。
「んだからよ! なんで中級二の俺達がこの依頼受けられねーんだって聞いてんだよ!」
「いや、ですから信用度五以上無いと無理だと何度も申し上げております」
あー、余所から来た冒険者っぽいな。この地域の冒険者ギルドって信用度を重視するからねー。地域の統括責任者みたいな人が居て、その人の方針なのかね。
「お前じゃ話になんねえ! もっと上のヤツ呼んで来いや!」
乱暴に受付の筆記台(?)を叩いて恫喝する柄の悪い余所からの冒険者。なんか、その仲間もニヤニヤ笑ってるし、感じ悪いなぁ。
受付のお兄さん、災難だねー。受付嬢は居ないのかって? 居るには居るよ。ただねー、どう見ても「元」お嬢さんなのよ。美人さんだけど。
ここのギルドってそんなに大きくないから受付は事務職の人が兼務してて、手が空いてる人が受付に出るみたいな。
『ダッキさん、一つしか無い窓口が取り込み中で塞がってるから、今日は帰ろ、ね?』
『待ちましょう。あのよう興奮は長続きしないと工事現場の人々の観察で学習しました』
あー、工事現場の人達を仕事しながら観察したのかー。
町に来てから情緒面が急成長してるのって、何気に人間観察もしてるからなんだね。
それじゃ、騒ぎが収まるまで、私らはギルドの休憩スペースに大人しく座ってますか。暇だし世界常識でも眺めてようかね。
なんて事をしてたら絡まれました。
ダッキさんが。
まぁね、ダッキさん目立つもんね。スタイル良くて美人で格好良くて妖艶だし。あとね、やっぱり人化して間もないせいかも知れないけど、隙だらけに見えるのよ。見えるだけで隙は全く無いんだけど。
現場のおっさん達もダッキさんにお触りチャレンジしてたけど、華麗に回避されてたっけ。そして私が後でおっさん達を締めたけど。
さて、そんなダッキさんが、現在進行形で窓口で文句言ってるチンピラ冒険者のお仲間達に、これまた現在進行形で絡まれてます。
横に座って居る私はガン無視されてますよ、ええ。
「なあ、姉ちゃん暇そうだし、この後、俺達に付き合えよ」
「そうだな。色々と楽しい事しようぜ」
それってお前らが楽しいだけじゃないのかなー? 被害者多そうだから締めようかなー。
「うざっ……」
んな事を考えてたら思わず口に出ちゃいました。てへっ。
「んだとコラァ、このガキ! ナメてんじゃねえぞ!」
「なんだよ、ちっこいけど良く見りゃこっちも可愛い顔してるじゃねえか」
「こりゃ俺達で二人を楽しませてやらねぇとなぁ。もちろん俺達も目一杯楽しませてもらうけどよ。げはははは」
あー、下品な鳴き声を発てながら言いたい放題言いやがって。窓口で揉めるヤツを含めて五人か。まぁ楽しませてくれるって言ったから、楽しませて貰いましょ。
※(工事)現場では事件は起こりませんでした。
※タマモさん本人は否定してますが、所謂「平均顔」の美少女です。