催眠術… ❐理玖
「…玖! ねぇ!理〜玖!」
ハッ
名前を呼ばれて 自分がリビングにいた事に気がつく。
目の前には身を乗り出して俺の顔をまじまじと覗く実紅がいた。
「ひどく患ってるわね…。」
「…は?」 何に?
実紅が溜息をついた。
「どうせ怜那の事を考えていたんでしょ…。」
「は… はぁ~?!/// 何言ってんの…!」
実紅に言い当てられて慌てた。
さっきから美織ちゃんに言われた事を反芻しながら佐々木さんの事をぐるぐる考えていた。
「わっかり易っ!」
実紅が俺の狼狽を指摘する。
「…別に 美織ちゃんに言われた事を考えていただけで…」
「何て言われたの?」
「…佐々木さんは心配になるよね、困るよね、みたいな…」
実紅はすっごい呆れた様な顔をして、それからうんざりした目で俺を見る。
「…あんな鈍感そうな美織ちゃんにまで、怜那が気になってる事バレてるんだ…。」
「バレるって何…?別にそんなんじゃないし…!」
俺は毅然と実紅の期待を否定する。
が、
「怜那の名前が出るたびに赤くなったり慌てたりしてたらわかるわ!」
バンッとテーブルを叩いて実紅が動かぬ証拠とばかりに訴える。
自覚していなかった。
もし本当にそうなら 恥ずかしい…
「…俺、そんなになってる…?///」
思わず手で顔を押さえる。
「なってる! なってる! コミィにも苛ついてたじゃん!理玖にポーカーフェイスは無理です!」
う…っ! 次に反論する言葉が出てこない !
「いい?理玖… 恋は気づいたら堕ちてるモノなの…♡それはもう理屈なんかじゃなくってどうしようもないモノなのよ?」
うっとりとした口調で実紅が語り始める。
堕ちてる…
俺は佐々木さんに恋してるのか…
実紅の語り口調に誘導され、催眠術にでもかかった様に俺は自分の心をさらけ出す。
「で?いつから気になってたの?」
「…わからない /// 最初は危なっかしくて放っておけない感じだったんだけど…」
俺は両手で顔を覆って俯く。
「ふーん。いーじゃん、怜那!
美織ちゃんより賛成よ♪」
「 … /// 」
はっきりと実紅に佐々木さんの事がバレてしまって、俺は何も言えなくなった。
顔を真っ赤にして俯くしかない…
「い〜ね〜♪ そういう理玖、久しぶりよぉ♪」
実紅は頬を赤らめて嬉しそうに俺を見る。
嫌な予感がして釘を差す。
「…余計な事、しないでよ?」
「余計な事? する訳ないじゃない♪」
「いや、する訳あるだろ…。」
即座に突っ込む。
過去それで、大事だった美織ちゃんを怖い目にあわせたんだから…
「嫌ぁねぇ、昔の話よぉ♪私だって成長してるんだから、無理矢理な事はしないわよ~♪ソレに、半分以上は自分のせいでしょ?」
ぐうっ…! 正論…!
言い返せない。
「で? 怜那と次に会う約束は?どうせしてないんでしょう?」
「… そりゃ、特に会う様な事は…」
「ふっ ふふふふふ…♡ 仕方ないなぁ♡ お姉ちゃんがセッティングしてあげましょう♪」
「いーや、いいから!!!
余計な事するな~!!!!!」
俺は声を荒らげて実紅を阻止しようとしたが、それは逆効果だった。
「理玖… そんなにっ! そんなに 怜那が大事なんだね♡ なんかちょっと寂しいケド、お姉ちゃん、怜那なら理玖譲ってあげても良いよ…!
わかった!余計な事しないわ♡
ただ ただ うまくいく様にセッティングしてあげるね…!」
全っ然 わかってねぇ…
俺はテーブルに屍となって伏せた。
「とりあえず、今日体育祭見に来てくれたんだから お礼しておきなさいよ。」
実紅が俺の頭の上にケータイを乗せる。
それもそうだ…
俺はむくっと起き上がりケータイを開いた。
待ち受けが 佐々木さんになってる…
「は、 はぁ~?!!/// 何してんの 実紅!!」
「い〜でしょう?今日撮った怜那♪」
「勝手にケータイ触るな!」
「そっか♪ 勝手に返信しちゃえば良かったのか☆」
よいよ俺が睨むと実紅は肩を竦めた。
「もぉ、冗談も通じないの? メール考えたら見せなさいよ?お姉ちゃんがチェックします!」
実紅はそう言ってケータイを寄越せと手を差し出す。
「はぁ?!俺より自分の心配しろよ!先輩とはどうした!散々泣いて喚いてただろ…!」
「…っ!」
実紅が突然ぼろぼろと涙をこぼし始めたので俺は慌てる。
「な… 何…? ふられたの…?」
「フッてやったのよ! ねぇ理玖!こんな魅力的なお姉ちゃんの魅力がわからないなんてどうかしてるわよねぇ?!」
「…そ、そうだね…」
実紅の迫力に負ける…。
そして俺は涙が苦手…。
母親がすぐ泣くせいだと思う…。
実紅の頭にポンッと手を置き、慰める。
「次、頑張れば…?」
「…うん。 …だから 理玖の事、頑張る。」
「…ソレは違うっ!!」