帰り道
次の日の部活帰り
「また会った!(笑)」
改札を出た所でジョギング中の理玖くんに遭遇した。
「いつもこの時間なの? 遅いじゃん…。しかもKM女子の制服だから、狙われそう…。」
理玖くんはまたまた心配してくれている。
「迷惑じゃなかったら送らせて?何か…俺が心配になる…。」
理玖くんは眉毛を下げて本気で心配している。
迷惑ではない。
断る理由は…特別ない。
「… ありがとう。」
私は理玖くんの好意に甘える事にする。
こうして私は、理玖くんとの奇妙な下校をする事が日課になった。
日常の他愛もない話から、学校、部活、家族の話とか将来の話とか…
色々な話を重ねていく。
「じゃあ、その陸上の大会が終わったら、引退なんだね…。」
「そう。突破出来ればもう1つあるけど、ちょっと厳しそう。でも自己ベスト出して引退したいなって思ってて…。2年の冬に出した記録が最高で、抜きたいんだよね!」
最初は申し訳無さのあった、ただの夜道の送迎。
でも、4、5日目には「楽しみ」な時間に変わっていた。
部活練習の疲れを忘れて、理玖くんの笑顔に癒やされる。
「… 怜那ちゃん、最近楽しそうだね。」
昼休み 美織と一緒に図書室へ向かう途中に言われた。
「え? …そお?」
「うん! 何かキラキラしてる。」
「はい? 何よ、それ…(笑)」
私は美織の話を笑い飛ばした。
「… 好きなひと 出来たでしょ…?」
美織がマジマジと私を見て言うので、私はよいよ可笑しくなった。
「あはははは!何言ってんの!」
「え〜? 違うの?」
「違う、違う♪」
美織が残念そうな顔をするので可笑しくて仕方ない。
「なぁに?別に好きな人が居なきゃいけない訳じゃないでしょう?」
「そりゃ、そうだけど… でも、何か今までとは違う…」
美織は探偵になりきって顔を覗き込んでくる。
「ハイハイ!すぐ恋愛にしたがる!女子の悪いクセ!」
私は美織の眉間を軽く人差し指で突いて、話を終わりにする。
何か… コレじゃあ…
理玖くんに夜、送迎して貰ってる
なんて、言いにくくなっちゃったな…。
理玖くんとは全然、そんなんじゃない。
理玖くんだってそんな感じじゃない。
私達は 最近になって仲良くなった お友達同士だから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ❏理玖
いつもの時間。
いつもの様に俺はトレーニングに向かう。
玄関で靴の紐を結んでいると、背後に気配を感じた。
「理玖、また走りに行くの? 毎日大変だね!」
双子の姉、実紅が話かけてくる。
「最後、悔いなく結果を出して終わりたいから…」
「ふーん。 …熱心な理由はソレだけ?」
肩越しに実紅を見る。
腕組みをし、壁に寄りかかっている。
「…何が言いたいの?」
「さぁ? お姉ちゃんは何でもお見通し、って言いたいのかも…。」
「…何もないよ。 行ってきます。」
そうしていつも通り、まず隣駅に向かって走っていく。それから隣駅を折り返して、最寄り駅を目指す。
そうしていつもの20時32分の電車から降りてくる彼女を待ち構える。
「ただいま! 今日も悪いね!」
そう言って彼女、佐々木さんは俺の隣に並ぶ。
他愛もない話をしながら佐々木さんをマンションの入口まで送り届ける。 毎日…。
佐々木さんは…
小学校の時から正義感が強く、しっかりした、クールなお姉さんの様だった。
チャキチャキ動いてみんなを取りまとめていた。
もともと目鼻立ちのきれいな子だとは思っていたけど、中学生になって更にきれいになった。
芸能界にでもいそうな整った顔立ちと、スラリとした体型。歩く姿も背筋が伸びていてキレイだと思う…。
そんな彼女が私立のお嬢様学校、KM女子中学校の可愛らしい制服を着ていたら、目立って仕方がない。
今まで何人もの男に声をかけられている様だが、納得する。
お近づきになれるのであればラッキーくらいに思って声をかけるのだろう。
なのに彼女はそんな相手に丁寧に対応する。
1人1人と真摯に向き合おうとする所は、美織ちゃんにそっくり…。
しかも、彼女は持ち前の正義感からか、人の為に無茶もするらしい…。
…心配しかない。
しかもこんな夜道にふらふらと。
親は何も思わないのだろうか…?と余計な心配までする。
コレは恋愛感情じゃない。
ただの心配。
毎日毎日 佐々木さんの無事を確認してホッとする。
ただ それだけの
トレーニングのついでの時間。
だから 実紅が期待するような事は 何も ない。