大人の階段
私は相変わらず平和な女子校生活を送る。
隣を歩く美織が休日に起きた話を一生懸命に話す。
「でね、秀くんってば私がお弁当用に作っておいたおかずを詰める前にその場で食べちゃってね、ピクニックのつもりがただの家でのランチとお散歩になっちゃったんだよ!」
私はその平和な内容を聞いて微笑む。
「美織の手料理だもん。廣澤くんがお預け出来る訳ないよ〜。」
想像が容易くて私は涙目になって笑う。
「お腹が空いてただけだよ!(怒)朝ご飯抜いてきたとか言うんだもん!せっかくいいお天気だったからお外で食べようと思ってたのにぃ~!朝から一生懸命準備してたんだよ?」
私はくっくと笑ってしまう。
廣澤くん…美織の手料理が楽しみ過ぎて、朝ご飯抜いちゃったのね…(笑)
そして耐えきれずに…
私は肩が震える。
怒る美織も可愛いもんね…(笑)
で、美織は大好きな彼の為に朝から…
いや、もっと数日前からだな…
楽しみに準備していたに違いない…!
廣澤くんは美織が可愛くて仕方がないだろうな…(笑)
私は本当に2人が大好き。
特に美織は最高に可愛い!
恋をしている女の子は… とっても可愛い。
そして私はその気がないのに
相変わらず見知らぬ男性に声をかけられる。
そして 悩む。
そんなに軽そうに見えるのかな…?
そして 落ち込む (笑)
私の見た目は 目を引き易いらしい から…
「佐々木さん!」
声をかけられて振り返ると理玖くんがいた。
「久しぶり! 今、帰り? … 遅くない?」
耳にはワイヤレスイヤホン
ジョギング中らしい。
それに、
理玖くんは背がすごく伸びていた。
以前は私より低かったのに…
「あ〜!久しぶり! 背、伸びたね!
一瞬誰かと思っちゃったよ!」
背は伸びたけど、相変わらず天使の様に可愛い笑顔。
部活の疲れを感じていたけど、理玖くんの笑顔に癒やされた。
「ジョギング?」
「うん。陸上の大会が近いから…。中学最後だし、記録狙ってる!」
「そっか!長距離? だと毎日走ってるの?」
「うん。 …佐々木さんは部活帰り?随分遅いね。」
「私もダンス部の選手権が近いから。」
「そっか!お互いに頑張らないとね!あ、そうそう!小宮山…って6年の時、同じクラスだったよね?高校生になったら同窓会やりたいとか言ってたよ?」
私は懐かしい名前に喜んだ。
小宮山大翔 最後の小学校生活を共に楽しんだ、大のお祭り好き男! 確かに彼なら同窓会をウキウキとセッティングしそう…。
「あ〜!小宮山くん?!元気?…だろうね。聞かなくても(笑)同窓会!いいね!」
「ウチの実紅とハル(春花)ちゃんが巻き込まれてね、やるみたい。みんな受験から逃げたいだけなんだけど。」
「そっか〜!これからがみんな受験なんだもんね!
実紅ちゃんと春花も相変わらずそうだね!」
実紅ちゃんは理玖くんの双子のお姉ちゃんで、春花は今でも連絡を取り合う仲良し。
ふたりも6年時は同じクラスだった。
「美織にも伝えておこう♪ 喜びそう♪」
そう 口に出してからハッとした。
「うん。是非そうしてあげて?」
理玖くんは何でもない事の様に相槌をうった。
…あ!
美織の事、ちゃんと 思い出に出来たんだ…。
私は理玖くんの表情から
美織への気持ちが卒業したことを感じた。
1つ 超えたんだね…。
それは少し残念な様にも感じる…。
もうあの、一喜一憂する可愛い理玖くんは見れないのね…。
私は自分のワガママな気持ちを笑った。
「? どうしたの?」
理玖くんが不思議そうに私を見る。
「ううん。何でもないよ! みんな、大人になっていくんだな~って思っただけ…(笑)」
ちょっと しんみり…(笑)
「もう帰るんでしょ? 遅いから送って行くよ!」
私のしんみりした表情を心配したのか、理玖くんはそんな事を言い出した。
「え? あ、ありがとう。でもウチ、アレだから。」
駅のロータリーを抜けた、立橋先のマンションを指す。
「じゃあ、入口まで送るよ。この前みたいに絡まれたら怖いし。」
「過保護だな…!(笑)近いし大丈夫だよ!
この前も痴漢を撃退したし!
ジョギングの…」「え…っ!?」
話の途中で理玖くんが驚きの声をあげた。
「痴漢にあったの?!」
理玖くんはなんだかすごく心配そうな顔をしている。
「いや、違う!私じゃなくて、学校の子!何とか追い払ったから、って話!」
「…いや、余計に心配なんだけど…」
私の話を聞いて、理玖くんはどんどん顔が曇っていく。
逆効果だった…。 と、私は反省する。
「ジョギングの途中なのに…」
「ジョギングより 佐々木さんの方が心配なんだけど…」
「そ、っか…。うん、ごめん なさい。」
項垂れる。
「佐々木さん、ムリしちゃダメだよ? 力で敵わない様な怖いヤツ、いっぱいいるんだからね?!」
私は縮こまる。
理玖くんにまで怒られるなんて…
「…ハイ。 反省してます。」
「うん。さ、帰ろう?」
しゅん〜
私はすっかり気落ちする。
「でも、どうやって撃退したの? 興味ある。」
理玖くんは前を歩きながら私を肩越しに確認する。
「…あ〜… 傘で…手首を払って…」
説明しながら、 どんだけ勇ましいんだ… と
ちょっと悲しくなってきた。
武勇伝でも何でもない…
「あぁ! 剣道やっていたもんね…!」
理玖くんが微笑む。
「その子も無事だったんでしょう?
佐々木さんは本当に騎士だね。」
「…中途半端な過信は身を滅ぼす。反省してるよ。でも、あの時はあの子を助ける事に必死で…。」
突然 理玖くんがピタリと足を止め、振り返った。
「?」
「佐々木さんが正義感が強くて、女の子達を守りたい気持ちはよくわかったけど…
俺らからしたら、佐々木さんだってその子と変わらない女の子だよ。」
「?! /// 」
ドキッ! とした。
理玖くんが急に男の人に見えた。