天使の笑顔
学校の帰り道
最寄り駅で電車を降りる。
改札を抜けた所で見知らぬ男性に声を掛けられた。
「こんにちは!君、すごく可愛いね!ちょっとお話したいんだけど…」
その男性は私服で、年は明らかに私よりは上だろう。
大学生…?かもしれない。
「ごめんなさい。急いでいますので…」
私は丁寧にお辞儀をしてその人から離れる。
「あー!ちょっとだけ!ね?」
男性は尚も食い下がってくる。
「本当にごめんなさい。困りますので…」
そう言って歩き始めたのにその人はついて来る。
困ったな… どうしよう。
走って逃げる? でも…
その男性の事を怖く感じ始めていると、
「あ!怜那〜!」
突然名前を呼ばれた。
振り返ると、学ランを着た男の子がぶんぶん手を振って近づいてくる。
うねうねと跳ねる毛先。大きな目。
「怜那!待たせてごめんね?」
はぁはぁと息を切らしてにっこり微笑む。
天使の様に愛らしい。
「すみません。僕の彼女に何か用ですか?」
彼は私に声をかけてきた男性に、にっこりと微笑む。
男性は顔を真っ赤にして、「いいえ///」と言って去って行った。
その男性が遠く離れた事を見送ると、彼は青ざめた顔をして心配してきた。
「…っ! 大丈夫だった?!」
私は思わずふふっと笑って彼の頭に手を置いた。
「可愛い彼氏役(笑)ありがとう。
助かったよ、理玖くん。」
理玖くんは地元の市立中学校に通っている、小学校の時の同級生。
クラスは一緒になった事はないし、2人きりで話したのは今が初めてかも…。
理玖くんは顔を真っ赤にした。
「ベタだと思ったけど咄嗟にどう言ったらいいのかわからなくて必死で…。呼び捨てにしちゃってごめんね、佐々木さん。」
「ううん。新鮮だった♪」
ハタから見たら姉と弟みたいだろうに…
可愛い彼氏役をしてくれた理玖くんを愛おしく思った。
「美織と待ち合わせ?」
「ううん。そこの本屋さんに行こうと思っていたの。
…美織ちゃん、まだ元気無い?」
美織は私の親友で、同じ私立の女子校に通っている。
美織は、幼馴染で隣の家に住む廣澤秀くんと付き合っているのだが、最近彼と会えないと落ち込んでいた。
理玖くんはそんな美織にずっと片想いをしていたが、失恋。今は読書友達みたいだけど、まだ未練があるんじゃないかな?と私は思っている。
特に、廣澤くんが原因で美織が落ち込んでいる事は許せないのだろう。
「ふふっ。心配?」
「…まぁ、僕が心配しても解決出来るのは秀しかいないみたいだから…。」
「S大のサッカー部は全国レベルだから、さすがの廣澤くんでも体力が保たないのよ…。でも家も隣なんだし、その内解決するでしょ…。」
「…うん。そうだね。」
理玖くんは声のトーンが低い。
「元気出しなよ~!何で理玖くんまで落ち込んでいるのよ!」
私は景気付けとばかりに理玖くんの背中を叩いた。
「わ…っ☆」
理玖くんがよろける。
「ゴメン!そんなに強かった?!」
「ううん。…何か元気出た。ありがとう!」
天使の様な可愛らしい笑顔…。
学ランを着ていなかったら女の子と間違えてしまいそう…。
「…理玖くんも、次の恋でもしたら?モテそうじゃん。」
「いや、モテないけど… そう… だね… 。
… 佐々木さんこそ、誰かとお付き合いしないの?
佐々木さん、キレイだし…。」
「私?!」
まさか理玖くんからそんな事を言われるなんて思っていなくて驚いた。
「私はいいんだよ。」
「何で?」
「私は… 好きな人が幸せなのを見ている方が嬉しいから。美織に廣澤くん、春花に実紅ちゃんに、理玖くん…。
みんなが笑顔な方が嬉しいよ。」
私が笑いかけると、理玖くんは驚いた顔をする。
「僕も…入るの?」
「もちろん!もし理玖くんが悲しんでいたら、私で力になれる事なら何でもするよ?だから、元気出してね?」
「…何か、佐々木さんってもっと、クールな人だと思ってた…。」
「それは私にとっては褒め言葉だよ(笑)」
私は笑った。
私の見た目は 目を引き易いらしい…。
だから、中身はいつもクールでいたい。
「助けたつもりだったんだけど、何か…救われた…。」
理玖くんが笑顔を向けてくれた。
「少し元気になってくれたみたいで良かった!こちらこそ、さっきは本当に助かったよ!理玖くん、ありがとう!」
私は改めてお礼を言って、理玖くんと別れた。
私は可愛いものが大好き。
見た目の可愛さだけじゃなくて、特に内面の可愛さ…
理玖くんのほんわかした雰囲気や、愛らしい笑顔は好きだけど、それ以上に、美織に向けていた一途さが大好き。
だから… 理玖くんには幸せになって貰いたい。
美織に向けていた一途さを 求めている子はきっといる…。
理玖くんの純粋な気持ちを受け止めて、彼を笑顔にする子が早く現れるといいな…。
そう、心から願った。