婚約破棄?勿論喜んで!!
至らない事も多々ありますが、それでもいいよと良い方は読んで頂けると嬉しいです。
「エマ・ウィルソン伯爵令嬢! 君との婚約を破棄させてもらう!」
「ん?」
婚約破棄をされた瞬間、前世を思い出した。
「何を惚けている!」
「えっと……」
え、まって……そんな事ある?
何やら目の前の男性に婚約破棄を突きつけられている。いや、彼は婚約者のダリル・アボット伯爵令息。
「話を聞いているのかエマ!」
「ちょっと黙ってて貰えます?」
「なっ」
うるさい令息を黙らせ混乱している頭で考える。
私はエマ・ウィルソン伯爵令嬢。前世は相澤恵麻という名前だ。
前世は料理が趣味だったので、そこから飲食店を経営する事になりやっと自分の店を開店させ軌道に乗って嬉しかったのは覚えている。
なのに、気がついたらよく分からない世界で意味不明な男に婚約破棄を突きつけられている。
えぇぇ!!最悪じゃん!どれだけ投資したと思っているのよ!
絶望に打ちひしがれる恵麻。
「エマ!」
「……なんでしょうか」
居たの忘れていたわ
「君のそんな態度が問題だと分からないのか!?」
「そう言われましても」
そもそも、ここ何処だと思っているのよ。
今日はこの国の1年に1回の星誕祭の日。空いっぱいに星が流れるこの日は国でお祭りをしているのだ。
王宮でもその星誕祭を祝う為に夜会が行われていた。
星誕祭の日は他の国からも来賓がやってくる為、国としても重要視しているのに、この男はその夜会でやらかしてくれたのだ。
「ダリル様今日は星誕祭の日です。 他国の方もいらっしゃる中でこの様な事をして問題なのは貴方なのでは?」
「っ……そんな事言って誤魔化しても無駄だ!」
誤魔化してるのではなく、当たり前の事を言っているのが分からないのかしら。
こんな大声で話すものだから、周りの貴族や来賓達も気付き遠巻きに見ていた。
中には私の顔を見て気づいた人も居た。
「君がそんな冷酷な女性だとは思わなかった。 だからアイシャにも酷い事が出来るんだな」
「アイシャ?」
「そうだ! ここにいるアイシャ・パレッド男爵令嬢だ!」
先程からダリル様の隣に寄り添って、豊満な胸を腕に押し付けているなとは思っていたけれど、分からないので何も感じていませんでした。
「そのアイシャ様と私にどのような関係が?」
「君はアイシャに対してありもしない噂をたてたり、お茶会で彼女の会話に難癖をつけ恥をかかせたりしたそうだな!」
はて?
お茶会?難癖?……あぁ!あの時の!
「確かに一度お茶会でご一緒した事がございましたね」
「やっぱりな君は……」
「ですが、あれは難癖と言うより訂正でございます」
「訂正だと?」
「はい。その日アイシャ様がお茶菓子を持って来て下さったのですが説明の際に、産地やお茶菓子の特徴が間違っていましたので訂正しただけですわ」
「だ、だが皆の前で言うことはないだろう!」
「間違ったまま他の令嬢達が覚えてしまっては、それこそアイシャ様や令嬢達が恥をかいてしまいますわ」
ぐぬっ……っと言葉にならない呻き声を出したダリル。
適正な対応だと理解しても、納得するのはプライドが許せないのだろう。
「それはっ、確かに私の勘違いでした。 でも、私その後にもエマ様から呼び出されて、その服は似合ってないや相応しくないと言われとても怖かったのです!」
目に涙を溜め、胸を更に押し付けながら上目遣いをする彼女に周りは眉を寄せる。それはそうだろう。婚約者であっても人前でそんなハレンチな事をしているなんて恥なのに、ましてや婚約者でもない女性がしているなんて非常識過ぎる。
だが、そんな彼女に鼻の下を伸ばしながら勝ち誇った顔をしたダリルは……
「ふん! 皆の前では隠していたようだが、本性を表していたな! 裏ではこそこそと呼び出し罵声を浴びせるなどと……」
その呼び出しも理由があって、まずお茶会に夜会で着るような煌びやかなドレスを着ている方がおかしいのでは?
しかも露出が高く胸やら背中やらが開きまくりで、女性でも何処を見れば良いのか困ってしまいます。
なのでこの場には似合ってない服装ですと言っただけなのだか……
彼女にはただ、意地悪を言われた様に思ったらしい。
なんだかこのやり取りも面倒くさくなってきましたし、いつまでも私たちの事で雰囲気を壊すのはよくないですわね。
どちらが悪かろうが私的にはどちらでもいいのですが、1つだけはっきりしときたいことが
「ダリル様」
「なんだ、謝罪するなら婚約者としては愛せないが、愛人としては傍にいさせてやってもいいぞ」
「あ、それは結構です」
「っ……!!」
「婚約破棄の件承りましたので、こちらで処理させて頂きます」
「エ、マ……正気かっ」
「最初に婚約破棄を申したのはそちらではないですか」
まさか、承諾されるとは思っていなかったのか驚きの顔をする。
だってこの婚約に、私はメリットなんかないし寧ろデメリットしかない。だったらさっさと婚約破棄して私の好きな事をしたい。
「……君は昔から可愛げのない女性だったな」
「はぁ、それは申し訳ありませんでした」
「男の顔を立てる事も知らず、自分の方が秀でていると見せつけていた」
そんなつもりはなかったが、ダリルの頭が良くなかったから私がフォローする事が多かっただけで、好きでしている訳じゃない。
「しかも。女の癖に商売なんかに手を出して」
そう、私は今世でも経営者となって商品を開発していた。
それも前世と同じ食に関することで、お菓子や飲食店など様々な事をしているのだが、彼は私が経営者ではなく立場を使って横から口を出しているのだと思っている。
「1つ訂正しますと、ウィルソン家がしている商売の責任者は私です。なので、私が全て商品を考えています」
「なにっ……」
私は各国に商品を輸出していてそこのトップなのだ。
この日の来賓も私と取り引きした事がある方々ばかりなので、顔を知られている分こんな場面を見られて恥ずかしい。
でも、前世を思い出したお陰で更に商品が開発出来そうなのでそこだけは感謝してもいいかも知れない。
「ダリル様、この婚約破棄について後程書類をお送りしますが、慰謝料を請求しますので」
「な、何故俺が慰謝料を払わなければっ!」
「それは勿論、婚約者がいながら他の令嬢と関係を持ち、正式なやり取りを行わず一方的な破棄を宣言したからです」
「しかしっ……」
慰謝料と聞いて動揺するのは、アボット家が伯爵でも貧乏伯爵だからだ。
今回エマと婚約する事で、ウィルソン家から援助してもらっていたのだ。なのに、婚約破棄したら関係が切れ援助を貰えなくなると思ったダリルは結婚はしたくないが、愛人として傍にいさせたらそのまま援助して貰えると思っていたのだろう。
なんて浅はかな考えなのかしら。
いくらお父様が私の事を思って相手を見つけてくれていたとしても、こんな人が旦那になったらすぐに破産してしまうわ。
まぁ、もう関係ないけど。
「良かったではないですか」
「な、何がだ」
「私と結婚しない事でアイシャ様と婚約する事が出来ますし、パレッド男爵家は確かお金で爵位を買われたのでアボット家の次の援助先が見つかったのと同じですわよ」
「え、」
暗に金だけはあるから、そこから援助して貰えと言っているのだが……
「それに、アボット家はダリル様の弟のライナー様が後継者なので、男爵家に婿入りしても問題がないのでは?」
ダリル様はアホだが次男のライナー様は頭が良くアボット家の現状を良く理解されているので、今後は持ち直すだろう。
だから、兄弟のいない私の所にダリル様を婿入りさせようとしていたのだ。
「ま、待ってよ!」
アイシャが焦った様に叫ぶ。
「どうされました?」
「ダリル様が後継者じゃないって聞いてないわ!」
「あら、これは皆様が既に知っている事でしてよ?」
アボット家の現状を知っていれば、私と婚約する時に自然と分かる事なのだ。だから誰も言わなかっただけで……
「もしかして、ご存知なかったのですか?」
「っ」
どうやら、知らなかったようだ。
「伯爵夫人になれると思ったから、ダリル様に近づいたのに!」
「アイシャ! 何を言って! 僕の事を愛していると言っていたではないか!」
「だから!貴方と結婚したら爵位も上がるし今後役に立つと思ったからよ!」
「そんな……」
あらあら、アイシャ様の野望に気づいてなかったみたいですね。
ぎゃーぎゃーと言い争う2人はほっといてさっさと書類でも作って送りますか。
「それでは私はこれで失礼致します」
綺麗な礼をしその場を退場しようとすると……。
「エマ嬢お待ち下さい」
「はい?」
「貴方がフリーになったという事は、私のこの気持ちを抑えなくて良いと言う事ですね」
「殿下、それは狡いですぞ。 私も立候補させて下さい」
「え?え?」
私が商品を卸している隣国の王太子やこの国の公爵の嫡男が出てきてまさかの事に驚く。
「え、あの?」
「貴方のその強い眼差しにずっと惹かれていました。 どうか私と結婚してください」
「エマ嬢の手腕や美しい姿に惹かれておりました。 私は一生貴方だけを愛すると誓います」
婚約破棄後にすぐ様、申し込みされると思ってもみなかったのと爵位が上すぎて戸惑う。
元々、エマは母親似の美しい容姿で栗色の髪にエメラルドの瞳で一目置かれていたのだ。それがフリーになったと分かると急いで求婚する令息達が後を絶たない。
「あ、あの……」
仕事ではすぐに決めてテキパキと動くエマだが恋愛事は苦手な為、まさかの現状に焦る。
「わ、私の事はお父様に言ってください!」
つい、そんな事を言ってしまい。後日ウィルソン家に大量の手紙が届く。
ごめんなさい。と心の中で謝るエマだった。
読んでいただきありがとうございます。