不思議なおじぃさん
走っていくと何やら怪しげなおじぃさんが立っているのが見えた(マスクで顔の半分を隠しているから余計そう見えたのかもしれない)。頭はすっかり白くなっていて、背も曲がってしまっている。まるで冬の寒空に立つ葉のないカエデのように頼りなさげであったが、目は河原で医師を探す子供のように澄んでいてひどく不釣り合いに見えた。
「おじぃさんがパソコン、ただで譲ってくれるっていう人かい?」
裕斗は挨拶もそこそこに尋ねる。
「そうだ。」
とおじぃさんは答える。意外なことに声はしわがれておらず、まだまだ元気であることをうかがわせ力強い声であった。
「君に譲ろう」
唐突にじぃさんが言うものだから驚いてしまった。面食らって僕は聞き返す。
「そんな簡単でいいのかい?何か質問やらをするって聞いていたんだが。」
するとじぃさんは僕の目をじっと見つめる。
「君の答えはもう知っておるから聞く必要はないのじゃよ」
その答えに僕はしばし固まってしまう。
「おじぃさんとはこれが初対面だよな。」
そう聞き返すとおじぃさんは
「わしは君のファンじゃからな。」
というとホ、ホ、ホと軽快に笑った。
裕斗はといえば疑問は尽きない。このじぃさんとどこかで会ったことがあっただろうか。ファンとは?思考をめぐらし数少ない知り合いの顔を思い浮かべるが、このようなじぃさんの知り合いはいない。けれどよくよく見てみればどこかで会ったような気がしないことも・・・
まじまじとじぃさんの顔を見つめだすと、少し焦ったような口調で
「そんなことより、ほれパソコンが欲しいんじゃろ」
と言って一台のノートパソコンを差し出してきた。銀色に鈍く輝いていて、汚れや傷もなくとてもきれいだった。
「本当にくれるのかい?」
「あぁ、動作は確認済みだし、防水機能もある。熱や衝撃にも強いから銃弾が当たっても大丈夫じゃ。」
本当かよ。と僕は思ったがじぃさんが多少大げさに言ってるだけだろうと思った。この時はただでもらえるのがうれしいという気持ちが大きくてあまり深いことは考えていなかった。
「じゃあ、遠慮なくもらっていくよ。」
と僕はノートパソコンに手をかけた。するとおじぃさんは何やらいろいろ入った袋も僕に押し付けてきた。
「おまけじゃ」
とそういってさし出された袋を手に取る。
「本当にただでいいんだね?」
と聞くと
「あぁ、本当に大事なものは金では手に入らないものだからね。」
となんだか妙なことを言ってくる。
裕斗は少し不思議に思いながらも、袋とノートパソコンを受け取っておじぃさんのもとから歩き出した。後ろで「娘のことをよろしく頼む」とおじぃさんが言った声は裕斗には届かなかった。
「何か言ったかい?」
と裕斗が振り返るともうそこには誰もいなかった。