ラスト
迫りくる魔法を避ける、避けて、避ける。
俺とソルバルトは挟み撃ちにする形に持っていったが、やつは全方位に魔法をうちはなっていて、まるで埒が明かない。
「………こんなことはしたくなかったが!」
俺は短剣を抜き放つと、それを伯爵に向かって投げつける。
「ぐっ!!?」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
神速の突きが、伯爵に突き刺さったかに見えた。
「………!!」
結界魔法。
「ハアッ!!!!」
突如伯爵の周りから衝撃が四散して、俺とソルバルトは吹き飛んでいく。
「………ぐおっ!!」
「どうした、そんなものか、そんなものだったのか?」
伯爵がそう言い放ちながら次なる魔法を生み出していく。
「………ソルバルトさん、ローレンスさん、私が一矢報いましょう。」
ハンスがそう言って前にでて、魔法を生み出し始める。
「この技は、戦場でも中々使えなかったが…………。」
ハンスの結界魔法に魔法が突き刺されるたびに苦悶の表情を浮かべるハンス。
「くっ…………う、うぉぉぉぉ…………。」
歯を食いしばりながら結界を維持して、その上で魔法を構築し続ける。
やがて、その魔法の全容が見えてくる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
巨大な、巨大な光球、ただひたすらに大きいだけの、そしてとても強力な魔法。
「破壊魔道士………軍の魔導兵か。」
それはやがて少しずつ加速を始める、一見するとゆっくり見えるが、それはあまりにも光球が大きすぎるにすぎない。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「………【ドラゴニクス・フレア】」
刹那、その巨大な光球を、極太の火線が貫いた、それはそのままハンスの結界に直撃し、ハンスの脇をそれ、光球は凄まじい大爆発を起こして消滅した。
「………今だぁぁぁ!!!!」
ハルバードとソルバルトさんの協力を使って建物の屋根の上に飛び上がった俺は、そこからさらなる跳躍をしてはるか上空まで飛び上がる。
やがてそれは落下に転じ、加速。
「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」
その速度と、ハルバードの神速の突き出しが加わり、音速すらも飛び越える。
「フンッ!!!!」
炎が噴射されていくが、おれは顔を、髪を焦がしながらも狙いをぶらさない。
結界にハルバードが直撃して………結界を貫いた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「…………。」
だが。
「………なんだと………。」
信じられない思いでおれは伯爵を見つめる。
ハルバードを掴まれたのはわかる、だが、事実はそんなものではない。
「片手で、俺を持ち上げて………!!!?」
「ぐぉぉぉ!!!!」
俺は地面に叩きつけられ、一瞬世界が暗転した、頭がクラクラして、まともに立ち上がることも叶わない。
「…………ぐ、ぉぉぉぉ………。」
「………。」
次の瞬間。
「若いものに手出しはさせんぞっ!!!」
ソルバルトが剣を振り上げ、振り下ろす、だが、それは虚しく結界に弾かれる。
「くっ………。」
「………いいだろう。」
伯爵は腰から剣を抜き放ち、ソルバルトに歩み寄る、ソルバルトはジリジリと構えながら後退する。
「………ハァァッ!!!」
ソルバルトはついに切りかかり、それに対して伯爵は剣を無造作に突き刺した。
それは、ソルバルトの盾に受け止められ、剣が伯爵に当たろうかというその瞬間、止められた剣が不意にかき消えて、盾と、ソルバルトの腕、そしてソルバルトの鎧を貫く。
「ガッ………。」
「………。」
伯爵が剣を抜くと、ソルバルトは崩れ落ちた。
「………ぐっ…………。」
「ぉ、ぉぉぉぉぉ………。」
「………かはっ………。」
いままで、俺達は不利な戦いであろうとも、とっさの頭の回転でなんとかしてきた、だが、今回は、まるで話にならない。
どう話にならないのかというと、頭を回転させるすきすらない、圧倒的な力の差で、あっという間にねじ伏せられたのだ。
「………終わりか、これで………。」
「………わきゃあ、ねえだろうが………ぐ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺は必死に立ち上がろうとし、ハルバードを杖にしてついにそれは叶う。
「………………できるのか、貴様に、私の首を取れるというのか。」
「………お前が、一体何なのか、なにを見てきたのか、俺は知らない、ましてお前がどんな考えのもと動いているかなんて、なおさらわからない、だが、俺は、儀仗兵が、なんだろうが、兵士だ、戦士だ、戦士に求められるのはただひとつ、立ちふさがるものを全部破壊して乗り越える、ただそれだけだろう!!」
「………ならば、のりこえてみせよというものよ。」
俺は、ハルバードを持ち上げ、突きの体制を作る。
もはや、これしかない、たとえ攻撃が当たらなくても構わない、すこしでもやつの魔力が削れるなら、構わない!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「………なんだと。」
「はぁ………はぁ………。」
伯爵が宙を舞って、落ちる。
「………貴様は、貴様は………!!」
俺か?俺じゃねぇ、俺なんてあっさり結界で受け止められちったよ、やったのは………。
「………ローレンスさん、だったっけ、このまえはごめん………そして、次は僕の番だ。」
「………ガシュだったか、確か………。」
「………なるほど、素晴らしい、お前が、お前がやるのか。」
「………。」
ガシュは静かに歩き………瞬間、加速。
凄まじい速度で伯爵に肉薄する。
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「はぁっ!!!!」
伯爵はそれを真正面から受け止めるが、あまりの衝撃にズルズルと吹き飛び気味に後退する。
「「ぐうぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
「さあ、今のうちに逃げるわよ。」
「あ、ぁぁ………。」
ソルバルトを必至な顔で背負うマリアを俺は手伝う、すでに建物の中にハンスを運んでいるようで、彼はボロボロのソファの上で力なく笑う。
「………ハハッ、すまない、助かったよお嬢さん………。」
「さぁ、怪我人は休んでてよ。」
「………そういうわけにも行かない、なに、少したてば、私達だって戦えるさ、なぁ………?」
「違いないな………!」
俺とハンスは不敵に笑い、意識のないソルバルトすら口角を上げた気がした。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガシュの拳が、結界に止められる。
「無駄だ。」
そういって伯爵は不敵に笑うが、ガシュは建物の上に駆け上がり、飛び上がる。
「【魔導破弾】!!!」
無数の光球が伯爵に迫る。
「ふっ、ハハハハハハハハハ!!!!」
そう楽しそうに笑いながら伯爵はそれすらも結界で受け止める。
「これほど楽しい戦いは久しぶりだ、素晴らしい、いいぞ、これでこそ物語も締めくくれると言うものだ。」
「はぁぁ!!!」
ガシュが再び肉弾戦を挑むが、伯爵は結界をとこうとはしない。
「わるいな、私はもとより魔法戦闘が主、肉弾戦は余芸のようなものなのだよ。」
次の瞬間ガシュは極太の火線に包まれるが、なんとか結界で防ぎ切る、それどころではない。
「【ドラゴニクス・フレア】!!!!」
なんとガシュは同じ魔法を撃ち返し、伯爵は後ずさる。
「………やってくれるな、流石だ。」
やっと受けきった、そう思った次の瞬間だった。
「【カーカスヘルフレア】。」
伯爵をドス黒い火柱が包み込む。
「………あなたは。」
「ハンス、ハンスです、以後お見知りおきを。」
そういってやけどして黒くなった顔でハンスは笑う。
「………きいたぞ、まさかそれほどの魔法を使えるとはな、どうやら見誤っていたようだ。」
結界魔法は魔法を防ぐ、攻撃も防ぐ、ただし、熱伝導により熱だけは防げない。
「………うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
なんと、体を貫かれているというのにソルバルトは猛然と突進する。
「………フンッ!!」
剣を抜いた伯爵がそれを突く、ソルバルトはそれを鎧で受け止める。
「そんなっ!!」
「はぁぁぁ!!!!」
方程式、自分の脚力+相手からの衝撃
それを神がかった技術で受け流したソルバルトは剣を回転させて横薙にあてる。
「なっ………!!」
伯爵の脇腹にそれは当たる、肉弾戦の際には結界なんて当然出してはいない。
「くぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ガシュが間髪入れずに加勢、両者は中央で取っ組み合った………。
次の瞬間、ガシュの足が、伯爵に払われ、宙に浮く。
「あっ………!!」
「おにいちゃぁぁん!!!!」
それを見たマリアが大声で叫ぶ。
だが、苦悶の声を上げたのは、伯爵の方だった。
「………が………。」
「そうだよな、見えないもんな。」
右側に回り込んで攻撃した俺は案の定見事に攻撃を当てることができた。
「く、うぉぉ………。」
伯爵は突き刺さったハルバードを抜くとよろよろと後退し、最後の魔法を構築する。
まばゆいばかりの光が周囲を満たし、俺達は思わず目をつむってしまう。
「「【ホーリークロス】」」
最後に、両者が撃ったのは同じ魔法だった。
十字型の光線が中央で衝突、押し合いへし合いを繰り返す。
「………。」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
やがてそれは伯爵が不利となり、ついに………ついに伯爵を貫いた。
「…………。」
虚空を、見上げていた。
どこまでも曇っている、曇り模様。
首を回せば、廃墟とかした街が見える。
「………これが、私の最後か………。」
私はそうぼんやりと考える。
長い、長い時間を生きてきた、悠久の時を生きてきた、これで、これで良かったのかもしれない。
「………いま、行くよ………。」
「………伯爵は。」
「………死んでるよ。」
そうガシュは静かにつぶやく。
「………………………そうか…………………………。」
いま、俺には、世界が二重に見えている、ただめまいがしているわけではない、なぜなら、ソルバルトやハンスは二重には見えないからだ、それが違和感を生んでいる。
そして、やがて像はどんどん離れていく、上に上がっていく悠久の末に朽ちた廃墟と、一瞬で朽ちた廃墟が。
「………お…………?」
俺はふと振り向くとガシュが宙に浮いてしまっていることに気づいた、ガシュだけではない、マリアもだ。
「お、おい………?」
「……………ごめん、お別れみたいだ………。」
ガシュはそうつぶやき、手を振りながら上へ登っていく、マリアの方はというと、全く何がどうなっているのかわからないという表情だ。
「ちょっと、お別れって何よ!!なんで私達浮いてるの………!!!」
「マリア………彼らは、僕たちとは違うし、僕たちも彼らとは違う、もう一緒にはいられないんだよ。」
「そんなこと言われたって、意味わかんないわよ………!!!」
彼らが、どんどん宙に浮かぶにつれてゆっくり、ゆっくりと半透明になっていく。
やがて、それらは、すべて消え去った………。
「…………。」
俺達はいま、歓声に包まれながら寝そべっていた。
「………なんだか、夢を見ていたみたいだ………。」
「これほどリアルで生々しくて、疲れる夢は他にないな。」
「ついでに怪我もする素敵仕様だ。」
そうハンスが冗談を言うとみんな力なく笑う。
これで、すべてが終わったということなのだろう、すべてが、すべてが。
だが、まだ俺達にとっては終わってはいない。
なぜなら、問いがまだ残されているからだ。
伯爵は、なぜあのとき俺達に襲いかかっていたのか。
黒魔道教会とは結局何だったのか。
なぜ世界線は衝突したのか。
否、そもそも大樹世界、カオス世界なんて理論眉唾極まる、もしかしたら、あれはすべて夢だったのではないのか。
ガシュとマリアは、最後の最後で、あまりにもあっけなく別れたが、彼らは、一体何だったのだろうか、衝突した方の世界線の住人だったということだろうか。
なぜ彼らはこちらの世界にしかないはずの黒魔道教会に追われていたのだろうか。
あの唐突に現れた化物は一体どこから湧いてきたのだろうか。
伯爵は、一体何を知ったのか。
…………。
…………。
…………。
一生、その答えは出ないのかもしれない。
END
?
どうもこんにちは、廃材です。
うん、わかってるよ、問ばかりとか言う前にしっかり回収とけよ分かってんならーっ!て言いたい人が一定数いると思うんですよ。
一応言い訳しておくと、この小説をかくきっかけを作ったゲームがこんな感じだったからですね、超有名なゲームなので知ってる人はとっくにピンと来てるんじゃないですかね?
強いて言うなら、とくに脈絡もない感じでボスが襲ってくるのはまんまだと思いますハイ。
それじゃ。