あなたが伯爵3
「………。」
爆発した先は、円上の巨大な空間だった。
壁の方にはずらりと篝火が据えられ、それが不気味な雰囲気をより高めている。
「………なんだと。」
あのとき、俺達を襲ってきた巨大な塊、その体表は大きくえぐられ、ピクリとも動かない。
俺達はえぐれている場所が見える位置に移動する。
「………。」
肉塊と機械のえぐれた先に埋まっている、老人の細い体、その頭は何かで断ち切られ、持ち去られていた。
「………なんてことだ。」
「………おい、そこにいるのは誰だ!!!」
ソルバルトが物音と気配に気づき大声で叫ぶが、その足音は遠ざかっていく。
俺達が中央のあの塊を迂回するように移動する、肉塊が邪魔で見えなかったが、通路が存在していた、だが、そこから先は篝火が消えていて、先を見通すことはできない。
「………ソルバルトさん、ハンスさん、行きますよ。」
「あぁ…………。」
暗い通路を抜けた先に、まるで天使が舞い降りてきたかのように光が差し込んでいた、それは、はしごを登った先にある地上への出口から差し込むものだった。
「………。」
俺達は、それを登っていく。
風の吹く音だけが聞こえる、静かな空間。
「………ガリルヤ、なのか………?」
その街並みは、ガリルヤに酷似していたが、いくらあの肉塊に壊されたからと言って………いや、そもそもこの荒廃の仕方は、破壊によってくるものではない、長い、とても長い時間の末に廃墟となったための荒廃の仕方だ。
「………誰だね。」
「なっ!!!」
俺達はさっと飛び退くと、大通りの向こうに男が立っていたのが見える。
「………。」
薄汚れているが、上品な金の縁取りがなされたマント、その下には、貴族が着るような立派な服が見える、フードからのぞく髪は真っ白で、顔には包帯が巻かれていて、片方の目まで隠している、手は血で真っ赤に汚れていて、それだけではない、マントの赤は少なからず血の赤も混じっているのがわかった、そんな構図に狂気を与える彼の手に下げられているそれ。
「………あなたは。」
「これで、すべてが終わった、終わったんだ………。」
彼は、心底疲れ切った感じでそう言い放ち、手に持っているものをガサっと落とす、人の生首だった。
老人は、血で汚れた手で懐から金属板を何枚か取り出す、そこに文字が書かれているのを俺はみた。
「アカシックレコード、黒魔道教会、カオス、世界樹、ガリルヤ、同一化、引力、離力、すべての要素がいびつなパズルを完成させ、その結果、ガリルヤ内のすべての人間が、時空を彷徨う幽鬼と化した、ある夜の出来事だった………。」
老人は金属板をとつぜん遠くにぶん投げる、それは建物にガッと当たって転がっていく。
「………私は、私には………すべてを清算したすえに、たった1つだけやることが残された、それは、死神に自分の首を差し出して、最後にして最大のピースを、崩すことだ。」
彼が手を振ると、虚空にいくつもの光球が浮かび上がる、実用性にすべてを振った魔導破弾のような魔法ではなく、かつて、太古の昔使われていた4属性の魔法だ。
「なにをするんだ!!今すぐやめろ!!」
「止めてみたくば、止めてみればよいではないか、どの道、私を踏み越えねば世界は融合を更に進行させ、取り返しのつかぬ事となるぞ。」
いよいよ魔法の数は無尽蔵に増えて、それを見たハンスが青い顔をする。
「………まずい、まずすぎる。」
「どうしましたか。」
「聞いてください、おそらくですが、かのものの魔法の力量は、おそらく太古の昔、魔物狩りで名を馳せた英雄達にも引けを取らないレベルです、正直、私では太刀打ち出来ない………。」
魔法が一斉に向かってくると、俺達はみんな四方八方に逃げる、無数の魔法は炸裂して、凄まじい衝撃波が襲う。
俺は、起き上がりながら彼を見て、ただこう一言呟いた。
「あなたが…………伯爵………。」