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鏡面談と円卓家族  作者: 雲雲雲龍龍龍
額縁の世界
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音楽の世界

 音が聞こえる。


 ガチャガチャと文房具を引っ掻き回す音。


 歌を奏でる声。


 軽快なリズムを刻むメトロノーム。


 音程が不安定な楽器の調律音。


「最悪。音楽科なんか入ったって将来音楽家になんかなれないのに、なんで入っちゃったんだろうね。日向はどう思う?」


 隣でヴァイオリンの弦を張りながらボヤく友人の亜紀を尻目に私はピアノの鍵盤を磨く。


 楽器に他人の指紋がある事の方が最悪だ。


 同意を求めるように視線を向けられたので仕方なく口を開いた。


「亜紀はそう言うけどさ、ドイツのオペラ界に進出した先輩や国内のテレビ局専属オーケストラに入団した先輩もいたじゃない」


 そう言うと亜紀は益々不服そうに眉間にシワを寄せて反論した。


「才能と金があったからでしょ」


 私は何も言わなかった。


 私は音楽が好きだから音楽科に入学したのだし、楽器の演奏も声楽も楽しい。確かに才能やセンス、お金があった方が音楽の道には進みやすいが、音楽だけで生計を立てるのが難しいことくらい今時小学生でも分かる。


「いいよね、日向はピアノもヴァイオリンも歌も上手でさ」


 投げやりな言葉にむかむかと嫌な気持ちが首を擡げた。


 ヴァイオリンの弦を張り終わったならさっさと練習すれば良いじゃない。


 私は既にピアノを奏で始めていた。特に苦手な箇所を繰り返し弾く。綺麗な音楽を奏でる為には練習を繰り返すしかないのだ。


 努力しない人間ができないことを嘆かないでほしい。私だって天才じゃないし、偉大な音楽家達だって苦悩があったんだ。時間をかけて進化するしか無いのだ。


 亜紀は既に10分を無駄にしている。その10分で音の調律も簡単なアップも出来ただろうに……なんて勿体ないのだろう。


 練習を本格的に始めた私に向けられていた視線は渋々楽器の方に向けられ、やる気の感じられないヴァイオリンの音が響き始めた。


 次の試験課題の協奏曲を練習する予定だったのだが、余りにも酷い演奏に耳を塞ぎたくなった。細かいところを誤魔化して、派手な見せ場だけやけに強調して奏でるのだ。


 協調性って言葉を是非辞書で繰ってくれ。


 しかし、こんな事を言えば揉め事になってしまう。女が圧倒的に多い音楽科は人間関係がドロドロしていて面倒臭いのだ。


 私は演奏することを辞めた。


「ごめん、さすがにまだ合わせれる程お互い出来てないわ。次までにきちんと練習してこようね」


 やんわりと言ったつもりだが、言葉の端々に刺が出てしまった。


 しかし、亜紀は気に留めた様子もなくヴァイオリンを下ろした。


「うん。ごめんね、ちゃんと練習しとくわ。流石に自分でも分かるくらい下手くそだったね」


 亜紀はそう言うと教室の端の方へ移り誤魔化していた小節を何度も練習し始めた。


 私は友人が怒らなかったことに安堵した。

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