後悔する鈴華
テレビからは最新のヒットチャートが流れて、キッチンからはボコボコとお湯が沸く音がする。その隙間を縫うようにチクタクと秒針の音が聞こえては隠れを繰り返している。
国道を走る車のライトが光を描いているのを窓越し眺めると、窓ガラスの自分と目があった。
目元に刻まれたシワや、落ちてきた頬、ボサボサで白髪が混ざった髪……
母だ。
そこに、母がいた。
嫌だ、残されたくない!
何故こんなにも近くに居たことに気がつけなかったんだろうか。険しい視線が私に向けられる。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
顔を覆って俯くと母の顔も同じように嘆いてみせた。
遠くに嫁いだ私は母の看病もろくにせず、会いに行くことも殆どしなった。妹と弟に任せきりで、厳しかった父は弱っていく母を見ていることすら苦痛だったようだ。
最期の瞬間にはギリギリ立ち会えたが、私が病室に着くなり母の気配がフゥっと遠くへ行ってしまった。母は私の目の前で居なくなったのだ。
それなのに母は夢で我儘を言うし、実家の至る所に現れては消えた。娘達が何かが居ると言うのを聞かないふりして、私も見ないふりをした。
顔なんか上げれない。良い歳こいて涙の止め方がわからないのだからこのまま枯れるまで待とう。はやく、はやく。
どうか娘達が帰る前には止まってちょうだい。
「ただいまー!」
「ただいま」
玄関がガチャっというと愛しい娘達の声が響いた。
とたんに涙が止まり、自然と笑みが浮かぶのがわかった。
「おかえり」
私はお母さんだ。