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鏡面談と円卓家族  作者: 雲雲雲龍龍龍
平沢家
2/5

違和感を抱えた美影

 黄昏時の図書室が好だった。


 誰にも邪魔されない、活字の人と俺だけの幸せな時間。他に感じる気配は他を気にする様子もなくただそこにあった。


 俺は傾く茜色が顔に当たる心地よさと誰かがペンを走らせる音に包まれて、かの偉大な悲劇作家に想いを馳せてはほぅと息を漏らすのだ。


 そんな自分が好きだ。


 空想世界、あるいは幻想世界の中に身を置いて感傷に浸る自分に酔いしれることは、側からみれば馬鹿馬鹿しい愚者なのだろうが、当事者である俺はまるでその世界を傍観する神様にでもなった様な気分になり、堪らなく楽しいのだ。


 チリチリと閉館の鐘が鳴ると一斉にガタガタと席を立つ音が響き渡る。俺は本を持ってカウンターの女の子に声を掛けた。


「すみません、これ、借ります」


「はい。クラスと名前をお願いします」


「3年A組の平沢美影です」


 しばらく女の子はカタカタとキーボードを叩いていた。長くて黒い髪の毛は手入れされていないのか無造作に縛られていて分厚い眼鏡の向こう側は小さな目がパソコンのライトを反射して不気味に光っている。


 地味な女の子だなぁ……


 図書室に入り浸る俺ですら見た目には気を遣っているというのに、否、押しつけはよくないか。


 誰だって自分の価値観や熱意を注ぐ場所は違うのだ。俺は人の目が気になるタイプの人間ってだけで、この女の子は他人がどう思うか気にしないタイプなんじゃないか。


 俺はぼんやりと考えながら女の子の名札に目を向けたが、それを視認する前に差し出された本に遮られてしまった。


「貸出期間は2週間です」


 俺は無言で本を受け取るとさっさと図書室から出て行った。


 薄暗くなった廊下を歩く。


 ふと、暗闇に顔を向けると暗くなった窓ガラスに小柄な女の子が立っていた。



 途端に顔が歪んで泣き出しそうになる。


 それは紛れもなく大嫌いな俺自身の姿だった。

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