失色
この世界は色を失ってしまったのだろうか。
かつては自分を囲む全てのものに色があった。
色がない世界というのは不安だ。
誰もが皆、色を渇望している。
夜の暗闇を煌々と照らすコンビニの色につられて入っていく人の様は、さながら街灯に群がる夏の虫の如し。
色の無い現実から逃避するように、
スマートホンの画面に色を求め続ける様、
生きた屍の如し。
ある時気付いたんだ。
色を失ったのは世界じゃなくて、僕の瞳だ。
強い光に照らされすぎたあまりに、
暗い世界に順応できなくなってしまった。
強い光を見てるうちに、
僕自身が見えなくなってしまった。
となりにあなたがいたのに、
遠くにいるあなたか気になった。
遠くにいるあなたはとても綺麗に見えた。
となりにいたあなたはどんな顔をしていましたか。
大人になるにつれて、
物事に対する感動が薄れていく。
美しい景色を見る度に思う。
この景色を言葉も、何もかも知らない状態で見たかった。
この景色を共有したいという気持ちが、
この景色を見ている自分の状況を誰かに自慢したいという意味を含んではいませんか。
本当に価値のある景色は、
僕の中にある。
あの景色を形容できる言葉はこの世には存在しないんだ。
赤や青、黄色なんて言葉に収まるほどの色じゃない。
たかが四角の枠で伝えられるほど小さくはないんだ。
言葉にする必要なんてないんだ。
綺麗だとかすごいなんで言葉で一括りにしたくはない。
ただ、その時の胸の高鳴りを覚えていたい。
いつの日かそこへ君を連れて、
僕の胸の高鳴りを君の胸に直接伝えたい。
もし、その色に名前をつけるなら
君と見た色と名付けたい。
色を失った僕の瞳は、
その時に色を取り戻す。
そんな気がしてる。