9.従者の仕事
久々の更新になりますが、お付き合い頂けると幸いです。
部屋から出ると直ぐに紅茶の香りがして、あ、誰か紅茶を淹れてるのかなーと思っていた。ただ紅茶を淹れるにしては少し騒がしい気がするので香りを頼りにその現場へと向かった。
たどり着いた先はうちの厨房近くにある部屋だった。
従者や侍女達が休んだりご飯を食べたりできる所で現代で言う休憩室。
そこではうちのベテラン執事エヴァネスとオルガの姿があった。
あと、綺麗に淹れられた紅茶のカップが1つとその隣に茶葉を入れ過ぎたのか色を出し過ぎたのかわからないが黒く濃くなった紅茶のような物。それに割れたカップと散らばった紅茶の葉の姿。
「何しているの?」
「これはこれはお嬢様、このような所に…実は……」
エヴァネスの話はこうだ。
クロライア家の従者として迎え入れられたのならば出来ないことなんてあってはいけない。なので、どこからの範囲ならできるのか確認したのだが何も満足にできやしない。
辛うじて出来るのは掃除ぐらい。
マナーもなっていなければ爵位を持つ人間としての知識もない。ましてやこれからここで従者として生活していく為に必要なものが全く備わっていない。
だからオルガを立派なクロライア家に恥じない人間にしようと手始めに紅茶の淹れ方を教えているのだという。
「しかし分からないのです。同じ茶葉で、全く同じ量、同じ温度のお湯を使って同じカップを使っているのに違うものが出来てしまうのです。」
「…申し訳ありません。やっぱり僕は……。」
「…凄いじゃない!オルガは凄いよ!ちゃんと教えてもらって上手く出来るようになろうと頑張っているんでしょ?この部屋の様子を見ればわかるわ。」
私は俯いたオルガの顔を手を使って無理やり上げさせるとしっかり目を見て伝える。
あぁ、やっぱり綺麗な顔をしてるな……。
じゃなくて!!
「オルガは頑張り屋さんなのよ。だからね、いっぱい頑張った分、いっぱい失敗して、そしてとっても上手になるの。貴方が淹れてくれる紅茶、楽しみにしてるね。」
「…お嬢様、やはり変わられましたね。」
エヴァネスの感心したような声が後ろから聞こえる。
そりゃ、中身が違うからね…
そしてもっと言うと昔(生前)、紅茶にこだわっていた時期がありお洒落なガラスのティーポットセットを買ったりしていたが全くもって上手くいかず途中断念したのだ。
そのような経験もあってか、かつての自分が諦めていたことを頑張っている姿を見てつい応援してしまいたくなる。
「…あの!僕、頑張るので!!…きっと上手になるので、一番最初に飲んで貰えますか?」
「もちろん。それと、そんなおどおどしないの。いっぱい頑張っているんだからもっと自信を持って堂々としなないと。もっと胸を張って、自分はちゃんと努力してるんだぞってね。」
「…はい!」
「…これはこれは、お嬢様の為にもより一層力を入れなければいけませんね。そうと決まれば早速取り掛かりましょう。従者の仕事はこれだけではありませんからね。」
それからはもう、ただただ凄かった。
エヴァネスの指導にも熱がこもりオルガの表情も真剣そのもの。
私がここに長居するのも場違い、静かに部屋を後にした。
数日後、私の後ろを笑顔で付いて回るオルガの姿が頻繁に目撃されるようになり屋敷内でちょっとした話題となった。
お父様は「ほら、やっぱり。友達が増えて良かった」と凄く喜んでいた。
オルガはもともと攻略対象なだけあって顔はいいのだが性格の暗さと俯きがちだったのでウチに来た当初はあまり取り上げられる事は無かったが、ちゃんと前を向くようになり今は顔が見える。
その上、よく笑うようになったからキラキラオーラが炸裂。幼いながらのキラキラは攻撃力がかなりあるようでうちの侍女たちの間でも注目の的になったのは言うまでもない。