11.お誘い
あれから月日が経ち私は11歳になった。
あの紅茶の一件から気がつけばオルガが私の後ろからついてくるようになり早4年。
周りからは本当の弟みたいだとよく言われている。
その度にオルガはとても嬉しそうな顔をするのでまぁ、良しとしよう。
オルガはオルガでとても吸収が早いようでマナーから何までどんどんと覚えていった。
例の紅茶もマスターし一番最初にご馳走になった。
もちろん、とっても美味しかった。しかも、お茶請けのお菓子まで自家製だというのであの時は本当に驚いた。
それからと言うもののオルガの紅茶を飲むのは毎日の日課となっていた。
あのエヴァネスでさえオルガの事を褒めちぎっていて、やっぱり攻略対象なんだなーと改めて実感したところだ。
「お茶が入りましたよ。今日はこの間食べたいと仰っていたリンゴのタルトにしました!」
「ありがとう。」
今日も今日とて美味しい紅茶のお供は焼きたてのリンゴタルト。
この前、私が少し口走った事を覚えていてくれたのだろう。それを口に運びながらオルガは本当に立派になったなぁと思う。
初めてウチに来て負のオーラ全開の物静かでおどおどとした感じはとうの昔に姿を隠し、今では穏やかでよく笑う子になった。喋り方もしっかり、はっきりと話すようになり過去のオルガはいない。
「本当に立派になったわね…」
「そうですか?だったらそれはミュリエル様のお陰ですね。」
「私は何もしてないわよ?」
ここ最近の私はオルガの美味しい紅茶とお菓子、そして何よりこの居心地の良い空間に彼とのお亡くなりルートの事などすっかり忘れて楽しんでいた。
「ミュー、楽しんでいる所申し訳ないのだが少しいいかい?」
声のした方を振り向くと手に手紙らしきものを持ったお父様とお兄様が立っていた。
私は椅子から立ち上がりオルガと共に礼をとる。
「お父様、お兄様?どうかなさいましたか?」
「実はお茶会の招待状が届いたんだ。」
お父様が持っていたものをこちらに見せるとにこやかに微笑んだ。
…ん?ちょっと待てよ…。
この絢爛豪華な封筒、そしてこの刻印。どこかで見たことがあるような、無いような…。
美味しいもので満たされて平和ルンルンの頭の中から過去の記憶を思い返す。
…そうか、思い出した。
あれは王家の刻印。そしてそれが付いた招待状と言うことは…。私が初めて王子に会う予定のあのお茶会への招待状か。
「今回のお茶会は王家主催。まぁ、毎年行われているが今回は少し違うんだ。」
「…違うとは?」
「毎年開催されている交流メインの王家のお茶会ではなく今回は成長された王太子様のお披露目も兼ねてのお茶会なんだ。簡単に言えば第一王位継承者の認知度を上げるのとその隣に立つ人間の目星をつける会みたいなものだな。」
「それはとても重要なお茶会ですね。」
そうそう、そしてお茶会にて遭遇した見目麗しい王太子に惹かれたミュリエルは全力でお亡くなりルートを突き進むんですよ。
「エドも招待されているから一緒に行けばいい。オルガもミューの付き人として同行してもらうつもりだし、何より大舞台だからね。いい経験になるだろう。」
…うん、これは参加しないと言う選択肢を絶たれたな。
仮に私が行かないと駄々をこねてもお兄様と一緒という所で無理やり連れて行かれるのは目に見えている。
「はい。僕がしっかりミューをエスコートします。」
「…お兄様!?」
「ミュリエル様には僕も付いてますから!何も心配する事はありませんよ!」
「オルガも…!?」
こちらに微笑みかけるお茶会行く気満々のお兄様と自分もいるのにと声を上げるオルガの間で私はこのお茶会をどう乗り切るかで頭がいっぱいだった。
そんな私たち3人の様子をお兄様よりさらに優しげな表情でこちらを見るお父様の姿は暫く侍女達の間で人気であった。