魔法-占有力と干渉半径
庭園に二つの人影がある。
一人は少女-イールで、隣の背が高い女性はメイド-エリナであった。
「そう、よく狙ってください...」
メイドがイールの耳元で囁く。
直後、真空の刃が少し離れた位置にある的に穴を開ける。
「狙い通りですね、流石ですイール様」
メイドが褒めるとイールが体をくねくねさせながら照れた表情をする。
「魔法には、火、水、風、光、闇...の五属性があります。
先ほど述べた通りですが、ここまではよろしいですね?」
少女が未だに照れつつ、小さく頷く。
「では、もう一つ大切な事をお教えする必要がありますので...
とはいえ、実践する方が早いでしょう。」
言うが早いか、メイドは右手を掲げるとその掌に大きな光る球体を作り出した。
「では、もう一度あの的を狙って魔法を使ってみてください。」
怪訝そうな表情をしつつも、指示に従って魔法を行使する。
ぷすっ。
「あれ?」
先ほどは的に穴を開けるほどの鋭い風が放たれたにも関わらず、今度は自身の銀髪を少し揺らす程度の風しか発生しなかった。
呆然と立ち尽くしているとメイドが得意げに説明を始める。
「これが、魔法の"占有力"と"干渉半径"です。」
難しい言葉を並べ立てられて少女は頭を抱えて困惑する。
メイドが心配ない、といった表情でにこりと笑うと説明を続ける。
「この世界は遍く魔力に満たされています。
それを集める力が占有力で、その魔力を集めることが出来る範囲を干渉半径と呼ぶのです。
今のように私がこの空間にある魔力を集めると、イール様が集める魔力は少なくなってしまった、ということですね。
まぁ、適正が有ればたくさん魔法が使える、とだけ覚えて頂ければよろしいと思います。
当然、空間にある魔力は有限ですが時間が経過すれば再びその空間も周囲と同じ程度の魔力量で満たされるようになっています。」
「ふーん...」
まだ薄ぼんやりとしているが、とりあえずの理解は得たため少女は再び小さく頷いた。
と、思えば唐突に質問を付け加える。
「魔力って、どこから来てるんだべ?」
「さ、さあ...?
想像したこともありませんでしたから...」
少女の鋭い質問に一瞬狼狽えたが適当な答えを返した。
イールは一瞬詰まったことに怪訝そうな表情をしたが、直後に頷いてそれ以上の追及はしなかった。
「えー、では、最後に一つ大事なことを伝えなければなりません。
これはイール様の命に関わる問題ですので必ず覚えておいてください。」
調子を戻すと人差し指を立てて少女に注意を促し、話し始める。
「基本的に亜人種は人間よりも遥かに高い魔法適性を持っています。
ですのでもし遭遇したら、絶対に、正面から魔法で撃ち合うような行動は慎んでください。」
「亜人は魔法が得意なの?」
要領を得ないといった様子で疑問を投げかける。
「どういった理由かは不明ですが、彼ら亜人種-目下我々の仇敵となるオークは
魔法に秀でた個体が多く確認されているのです。
よって、余程の適性が無ければ彼らに魔法頼りの戦闘を仕掛けるのは愚策と言われています。」
そう言い終えると、メイドが何かに気付いたかのように捲し立てる。
「そもそもオークは子供の手に負えるような相手ではないので、遭遇したら絶対に逃げてください。
絶対、絶対です!!」
凄まじい剣幕で言い聞かされたため少女は無言で首を縦に振る以外の事は出来なかった。
少女が言いつけを遵守する様子を見せたことで安堵し、一息ついてある提案をする。
「今度、魔法についてもう少し深くお教えしましょう。」
そう言うとこちらを眩しいほどの期待を込めて見つめてきた。
メイドが困り顔をしつつも嬉しそうに続ける。
「きっとイール様や近しい誰かの助けとなるはずです。
どうか、ここで暮らす日々の中であなたにとって大切な何かを身に着けていってください。」
メイドが微笑むと少女もかわいらしく笑って見せた。
「淑女としてのマナーも、ですよ。」
そう言うと少女の屈託のない笑顔が口を曲げて苦笑いになってしまった。
幼い少女を教え導くのは容易とは言い難い。
少女の未来の姿と、そこに至るまでの遠大な過程を考えるとエリナは苦笑いをせずには居られないのであった。