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少女転生オーク~どうしてオラがこんな目に!?~  作者: AKSMchan
第一章 屋敷での生活
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醜悪な宴、初めての出会い


焚き木の燃え弾ける音が周囲に響く。


月の無い静かな夜に広大な樹海の一角では騒がしく、醜悪な宴が催されていた。


何かを咀嚼する音、何かを砕くような音...


緑色の怪物が、人を辱め、人を喰らっている。


悲鳴と嬌声が入り交じり、興奮は頂点に達していた。



その時、何かが爆ぜる音が樹海に響き渡った。


広く、広く、爆炎が獲物を求めて踊り狂う。


狂宴も、それに興じていた者達も、全てが炎に飲まれた。


皮を、肉を、人も、悪鬼も、何もかもを炎が抱き締める。



駆ける。炎で掻き回された混乱の中を、走り抜ける影がある。


後から巨大な影の軍勢が地面を踏み鳴らして追走する。


駆ける者は逃れる事が出来たのか、追走する影は獲物を捕らえたのか?


その騒がしい夜を、月の居ぬ間に、星々だけが見ていた。








目が覚めると、視界にはただ白い天井だけが映っていた。


「ここは...?」


誰に問うわけでもなく、ただ口からこぼれた疑問。


だが、その問いに対してどこからか答える声があった。


「ここは我が主、ノーラ・カナリス様のお屋敷ですよ。」


声のした方を向いてみると、いかにもメイドですといった格好をした女性が丁寧に切り揃えられた金髪を揺らしながら立っていた。


「如何ですか調子は?」


メイドと思しき女性は優しく落ち着いた声音で問う。


「アンタ誰だべ?」


問いに問いで返されたからか、あるいは少女の口調があまりにも訛っていたからか、

理由は定かではないがその女性は少しの間面くらった様子で静止していた。


そしてはっと我に返るとまた先ほどのように落ち着き払った声で答えを返した。

「申し遅れました。私はエリナ・リンド。この屋敷でメイドとして仕えている者です。」


ある意味予想通りの丁寧な答えが返ってきたが、それに再び問いで返す。

「なんでオラはここに?」


メイドはその問いには答えず部屋と廊下を隔てている扉の前へそそくさと歩いていくと振り返り、笑顔でこう返した。

「お食事の用意が出来ておりますので、積もる話はまたそちらで」

「主もお喜びになられると思いますので」





促されるまま席に着くと眩しいくらいに期待を込めた表情でこちらを見つめている者がいる。

先ほどの話から推測するとこの長い銀髪を揺らしている彼女がこの屋敷の主なのだろう。

顔立ちは幼いが、身にまとった風格はそこらの幼子が持ち得ているものではないと直感的に理解できた。


「よく目を覚ましてくれた」

しみじみとした口調でノーラが言葉を投げかける。

「あるいは目を覚まさないのでは、と危惧していたよ」



「よくわからないからその辺のことも説明してほしいべ」

経緯が全く理解出来ていない少女は不満を顔に出して言い放った。


瞬間、ノーラの顔に驚愕の色が浮かぶ。

テーブルを囲む一員であるメイドはいかにも面白いといった様子で笑いをこらえている。


「うむ」

軽く咳ばらいをするとノーラは冷静さを取り戻した様子で説明を始めた。



曰く、ここは樹海からそう遠くない地にある屋敷であるらしい。

どうやら自分は樹海の入り口付近に倒れているのを保護され、ここに連れてこられたようだ。



「ところで一つ問いたいのだが」

説明を終えたノーラが口を開く。

「先ほどの様子からすると、もしかしてその、記憶が...」

確証がないためか、僅かに言い淀む。


その時になって初めて少女は自身の名すら思い出せないことに気が付いた。


「その、名前とか、どこに住んでいたとか、何か一つでも思い出せないだろうか」

困ったように目を伏せている少女に対してそれ以上に取り乱した様子でノーラが問いかける。


「わかんないべ...」

僅かな沈黙の後、少女は項垂れてそう答えた。


「そうか」

少し残念そうな声音で、だがすぐに明るい口調で続ける。


「きっとすぐに思い出せるさ。それよりも、名前がないのは不便だろう?」


少女は少々意外といった様子でゆっくりと頷いた。


「だからここにいる間は、イール、という名前で呼ばせてはもらえないだろうか?」



「ノーラ様...!」

メイドが怒ったような呆れたような表情で声を荒げた。

だが、ノーラが悲しげに目を伏せるとそれ以上言葉を続けることはなかった。




少しの沈黙の後で少女がぽつりとつぶやく。

「別に...構わないべ」


その少女、イールの答えに対してノーラは素直にうれしいといった様子で笑みを浮かべ、メイドは困ったような表情を浮かべて押し黙っていた。




「今日からよろしく、イール」


「...よろしく頼むべ、ノーラ」

まだ互いに少しぎこちないが、軽い挨拶を交わして食事はお開きとなった。

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