本当の試練
小屋に戻ったのは、腕時計で午後5時を回ったところだった。ミルスに時間を聞いてみると5時すぎということなので、時間の考え方も地球と同じようだ。
また、レベルアップの効果は体力増強だけじゃないらしい。小川で顔を洗う時にかなり若返っていることに気づいた。ハタチくらいじゃないだろうか。この世界に来てから良いことだらけだ。
(ミルスの話す日本語といい、この世界はなんなんだ?)
「マモル様、夕食は6時にしますので、それまで小屋でおくつろぎください。」
ミルスは夕飯の支度をしてくれるようだが、台所らしきものは見当たらないなと思いつつ部屋に入る。
「く、暗い……。」
もともと暗い小屋だったが、日も傾き始めたので何も見えない。ランプを探してみたが見つからない。
「ランプとかないのかなぁ。お~い、ミルス~。」
「は、はひぃ。」
ミルス寝てたな。猫だから仕方ないか。猫だから……。
「暗いんですけど……。ランプとかないの?」
「え?ら、ランプ?確かこの辺りに……。」
ミルスは、ガチャガチャと積み上げられた道具の山をあさりはじめた。
「ランプって、どんなものでしたっけ?」
「もしかして、ミルスはランプなくても困らないの?猫だから。」
「はい、困りません。猫ですから。」
(こ、これはまずいんじゃないか?)
レベルアップと若返りでアゲアゲだった気分が一気に覚めてしまった。
(とにかくランプを探そう)
通勤カバンに入っていたライターで、少しずつ照らしながらランプを探し当てる。すぐに燃料も見つけることができたので、なんとか灯りを確保することができた。
「あの、ミルスさん。俺はこの小屋のどこで休めばいいのかな?」
「え?えっと、どこでも良いですよ。お好きな場所をお使いください。」
「あちゃ~」
猫だもんなぁと思いつつ、マモルは自分が過ごすスペース確保のために周囲を片付け始めた。
小屋は10畳くらいの広さなのだが、たくさんの物がびっしり散らばっていて足の踏み場もない。ミルスの一族が先祖代々集めたものだろう。
片付け始めたのだが、とにかくホコリがすごい。今日は、なんとか横になれるだけの場所をつくるのが精一杯だった。
「マモル様~。お食事をお持ちしました。」
間もなく6時というタイミングに、上機嫌でミルスが夕飯を持ってきたがこれまたきつい。
「えっと、ミルスさん。これはなに?」
「マルネズミですよ。美味しいですよ。まだ殺してから3日しか経っていないので新鮮です。えへへ」
「ミルスさん。俺はネズミ食べられないんだよ、しかも生は……。」
「えぇぇぇぇ。」
こんなに美味しいのになぜ?という目で見てくる。
「それはミルスが食べてよ。あと、外で食べてね。」
ミルスは落ち込んだ様子でネズミを持って小屋から出ていく。マモルは通勤カバンにたまたま入れてあった朝食用のバナナ・バーをかじる。
(これは本格的にまずいな……。明日は、食料と衛生面の確保に費やそう。)
わずかばかりの食事だったが、お腹も落ち着きいたためか、ふと横になった拍子に寝てしまった。
「ごろごろごろ」
夜中にふと目を覚ますと、ミルスがマモルのお腹の上でごろごろ喉を鳴らしながら寝ている。かわいいなぁと思っていたのだが、あることに気づく。
「ミルス、お前、ノミがいっぱいついてるよ。うわ、かゆ。うわぁぁぁぁ」
本当の試練が始まったのだった。