RPG
☆かいたく者が地きゅうから『ミルス』に
転いする
セドリックから託された本には、そう書かれていた。もうその記述もなくなってしまったので確かめようもないが、確かにそう書かれていた。
そしていま、目の前には『猫のミルス』がいる。これはたぶん……『異世界ミルス』に転移じゃなくて、『猫のミルス』の所に転移するという未来だったようだ。
そういえば『アルゴリズム』は下手くそな日本語で書かれていた。セドリックもがんばって翻訳プログラムなりを施したんだろうけど、いろいろと言葉足らずだったんじゃなかろうか。元の世界に帰れなくなったり、転移する際の説明不足だったりと、セドリックはどこか抜けていると思わざるを得ない。
(セドリックのいた異世界と違う異世界に来てしまったみたいだ……。)
「どうも俺は、君のご主人様じゃないと思う。」
ミルスにこれまでの経緯を説明すると、かなり驚いた様子で話始めた。
「確かに私たち一族がお待ちしている旅人様は、この世界を治めることを目的に鍛練を重ね転移してくる選ばれしお方です。でも……実は一族93代において、この小屋にたどり着いたのはマモル様が初めてです。」
「え?なんで?」
「ここに来る途中でモンスターに倒されてしまうんです。」
「え?俺は一匹もモンスターに出会わなかったんだけど……。」
「おそらくマモル様が転移した場所は、この辺りのモンスターが嫌うハーブの群生地だったからでしょう。マモル様からハーブの匂いがします。正直、私もあのハーブの匂いは苦手です。」
どうやら偶然に安全地帯を歩いてきたみたいだ。もし『アルゴリズム』で別の未来を選んでいたら、今頃モンスターに襲われていたかもしれない。
「この辺りのモンスターを倒すには、少なくともレベル70は必要です。マモル様は……レベル3ですね。確実に生き残れません。」
ミルスはカードをマモルにかざしレベルを確認した。
「レベル3……、俺よわっ……。俺には『アルゴリズム』があるから危険を避けることができるけど、きっと避け続けるのも限界が出てたな。」
「この小屋の周辺は安全です。マモル様は旅人様とは少し違いますが、旅人様と同じ転移者です。」
ミルスはふぅっと一呼吸入れ、仰向けになって考えごとを始めた。しばらく考えた後、決意した表情でミルスは起き上がった。
「私はマモル様にお仕えすることに決めました。それと……その本はかなり強力な魔道具だと思います。もしかしたら、マモル様は旅人様以上の存在かもしれません。」
やっぱり『アルゴリズム』はかなりチートなアイテムみたいだ。
「マモル様。申し訳ありませんが、この小屋にしばらく滞在してください。マモル様がこの世界で生き残れるようにレベル上げをしましょう。」
「おぉ、まさにRPGだね。よしやろう。ただ、3か月以内にロンダール村に行かないといけないよ。『アルゴリズム』によれば、風魔法を極めることができるらしい。」
「この世界で風魔法を極めた者はほとんどいません。さすがマモル様です。ロンダール村は1週間もあればたどり着けます。2か月もあれば、道中のモンスターに対抗するレベルアップも可能ですよ。」
(俺は正しかった。世の中は甘い!)
マモルはすっかりチートな主人公気分になっていた。この時は、待ち受ける試練の大きさを夢にも思っていなかった。