始まりの始まり
「これに決めた!」
マモルが選んだのは、風魔法を極める未来だった。目指せチート無双生活。
さっそく『アルゴリズム』に書いてある通りに南南東に向かって歩くことにした。目標は3か月以内のナイロビ到着。
(さて、南南東はどっちなんだろう……。)
さっぱり分からないので、地面に木の棒を立てて影の位置に印をつけた。しばらく観察していると影が動く。
(この星も自転しているみたいだな。とりあえず今を正午として、地球と同じ自転方向と考えよう。そうなると……)
影の動きから東西南北の予想を立て、南南東と思われる方向に歩き始める。
幸い、カバンの中身や腕時計があるので、手帳に簡単な地図を描きながら進む。お決まりだが、スマホは電波を受けられないしコンパスアプリも意味をなさなかったので、電池節約のため電源をオフにしてある。
ひたすら続く草原を1時間ほど進んだところで、人が使っていると思われる道を発見した。道には轍があることから馬車の荷車のような乗り物があるのだろう。その道は、東西(予想)に延びている。いろいろ考えたが分からないので、勘で東(予想)に向かうことにした。
道を歩き始めてから30分ほどしたところで小川があり、道も小川に沿って南(予想)に向かう。
「ビンゴ!」
しばらくすると木で作られた小屋が見えてきた。
(誰かいるのかな。言葉は通じるだろうか……。)
不安に思いながら小屋に近づく。
『始まりの小屋』
小屋の前には、日本語で小屋の名前が書かれていた。
(日本語通じるのか?)
マモルは、恐る恐る小屋の中をのぞきこむが人影はない。
「おじゃましまーす」
入り口のドアを開けっぱなしにしたまま中を物色すると武器や衣服、道具などがごちゃごちゃに置いてあることが分かる。
(ここは狩人の物置小屋だろうか?盗賊だったらヤバいな……。)
…………
…………
…………
ん?
「大正解~。さすがご主人様!!」
考えごとをしながら見つめていた暗闇の黒い影が突然振り向き、大声を張り上げた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
あまりにも突然の出来事にマモルは後ろにのけぞり、転がっている防具に足をとられて転倒した。さらに道具箱の角で頭をぶつけもんどりをうつ。
「だ、大丈夫ですか?」
黒い物体が話しかけてくる。
「はぁはぁ…………」
マモルは、ものすごい心拍数とぶつけた頭の痛みで、何がなんだか分からない。ヤバいヤバいと感じながら悶絶していたが、だんだんと目が暗闇に慣れてきた。
そこには全身黒毛で「大丈夫かなぁ」と日本語でつぶやく小柄な猫がいた。
「大丈夫ですか、ご主人様」
「え?ご主人様?俺のこと?」
マモルは困惑しながら猫に話しかける。
「はい、ご主人様。ここは始まりの小屋。異世界から旅人様が訪れた時に、旅の始まりをサポートする場所です。そして私は旅人様に仕えるために代々この小屋を守る一族の93代目になります。」
「俺は旅人?開拓者じゃなくて?」
「かいたくしゃ?祖先から受け継がれているのは、ここに来る旅人様をサポートし、世界を治める王となっていただくことです。」
「え?やだよ?」
マモルは即答した。
「え?」
「王なんて大変じゃん。そりゃハーレムとかは期待できそうだけどさ。」
「えぇぇぇぇぇ……。」
黒猫は、聞いてた話と違うじゃんといった感じでため息まじりにつぶやく。
一方で、マモルのテンションはアゲアゲになってきた。
(やっぱり異世界ものに忠実な下僕は定番だよな、これは期待できるぞ。)
「よく分からないが、俺は君の主人なんだね?」
「はい、言い伝え通りならば……。」
「分かった。俺の名前は高崎マモル。マモルと呼んでね。」
何が分かったか分からないが、とりあえず調子にのって上から目線で話しかける。
「マモル様ですね。私はミルスと申します。」
(ん?ミルス?)
マモルはあれ?っと思い聞いてみる。
「ミルス?君の名前はこの星か国の名前と同じ?」
「この星の名前はロードリザロス。今いる国の名前はモディ王国ですよ。ミルスという国は聞いたことがありません。」
「じゃ、じゃぁ、ランディ城って知ってる?」
「ランディ城?聞いたことないですね。」
「ま、まじ?まじかぁぁぁ、セドリックぅぅぅ。」