世の中は甘い
高崎守。サラリーマン、29歳独身、彼女なし。趣味は異世界もののライトノベルに妄想をかりたてられながら現実逃避すること。
若い頃は野球部で鍛えていたが、最近は付き合いの飲み会も多くお腹の脂肪が気になり始めた。ブサイクとまではいかないが、取り立ててイケメンというわけでもない、どこにでもいる普通のおっさんだ。
いま、マモルは草原にいた。
(ここが『ミルス』か?)
辺りは、見渡す限り背の低い草花が青々と生い茂る光景が広がっている。時刻はちょうど昼頃だろうか、太陽のような恒星が真上に見える。
(本当に異世界なのかな?普通に呼吸もできるし重力も同じに感じる。)
もしかしたら、ここは地球のどこかなのかもしれないが、マモルはここを異世界だということにした。普段から異世界でチート無双を妄想しているマモルにとって、むしろここは異世界だと思いたい気持ちでいっぱいだった。
「さて、もう会社に行かなくていいし、思いっきり第2の人生を楽しむぞ~。」
とはいえ、ここが異世界だとすれば、いきなりのモンスター遭遇はお決まりだ。そもそもいるのか分からないが、周囲のモンスターを警戒し草の間に身を隠す。まずは、セドリックの娘がいるランディ城に行こう。そう考えながら『アルゴリズム』を開いた。
『アルゴリズム』には、どうでもいいものから、かなり良いもの、悪いものがびっしりと書かれている。1ページにだいたい10の未来が記してあり、それが2千ページはあるのでトータル約2万の未来。選ぶのも大変だ。
マモルは、気になる未来が書いてあるページ数を手帳にメモり始めた。2千ページもあるから、とにかく適当に開いてはメモった。のんびり分析している暇はない。
メモの内容
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Badな記述
☆マモルがオークにおそわれてしぬ P53
☆マモルががけからおちてしぬ P57
Goodな記述
☆ほのおのまほうをおぼえる P359
☆水のまほうをおぼえる P361
☆風のまほうをきわめる P377
☆めいとうアルテミスを手にいれる P423
☆けんぎをおぼえる P429
☆ほしみをおぼえる P525
☆かじをおぼえる P553
☆そうじをおぼえる。P665
☆りょうりをおぼえる P668
その他、気になる記述
☆リリと運めいの出あいをする P1053
☆エリスとくらしはじめる P1155
☆バムスがしぬ P1550
☆トーマスとカレンがけっこんする P1870
☆ランディおうこくとメルブきょうわこく
のせんそうがはじまる P1960
☆ミルカドのまちにえきびょうがはやる
P1965
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なんか、ものすごくチートな未来から、かなりヤバイものまで盛りだくさんだ。
(ヤバい、多すぎて選べない……。ジャムの法則ってやつだな。この中で一番チートなのは、『風の魔法を極める』ってやつだよな。ただ、リリやエリスが気になる~)
迷わず風魔法を極めたいところだが、運命の出会いと書かれてしまうと悩まざるを得ない。
(ヤバい。いちいち悩んでたら先に進めないぞ。とにかく楽観的に考えよう。俺はこんなチートアイテムを持ってるんだ、今度の世の中は甘い!)
マモルは再び『アルゴリズム』を手に取りぱらぱらとページをめくると大きく叫んだ。
「これに決めた!」
マモルが選んだのは、風魔法だった。
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☆風のまほうをきわめる P367
・なんなんとうにあるナイロビにいき
マイヤーのでしになる
・ナイロビのとう着きげんは3か月いない
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(そりゃ、チート無双を目指すでしょ!)
ナイロビ?とやらの距離は分からないし、道中の危険も分からない。なんか聞いたことある気もするが……。
ざっと『アルゴリズム』を読んでみたが、南南東に行くとマモルが死ぬという記述はなさそうだ。
とにかく行くしかない。今度の世の中は甘い!