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チュートリアル

「僕はいまこっちの世界にいる。これが困ったことなんだ……。」


 突然現れたセドリックは、自己紹介もそこそこに話を続けた。


「『アルゴリズム』を書いてからの僕は、研究者として本当に充実した日々を送っていた。あの日まではね……。ある日、異世界に行くことができる未来を発見した僕は、どうしても異世界に行きたい衝動を抑えられなくなった。そして僕はここにいる。」


「……もしかして、帰れなくなった?」


「正解!」


  クイズ番組の司会者みたいなテンションでセドリックが声をはりあげる。


「なんか明るいなぁ。本当に困ってるの?」


「こっちの世界は最高だよ。進んだ科学技術に整った社会制度、洗練された芸術や文化。研究者として、これほど知識欲を満たすことができる場所はあっちの世界にはなかった。」


「じゃあ、困ってないじゃん」


「確かに最高なんだが、あっちの世界には多くの民が戦や貧困に喘いでいるんだ。僕がこっちの世界で学んだことを活かしたいんだが、持ち帰る手段がないんだ。」


  セドリックは『アルゴリズム』をマモルから奪い取ると、ぱらぱらとページをめくり始めた。


「こっちに来てからというもの、どれだけページをめくっても、あっちに帰る未来が現れないんだよ…。もう2年になるかな。今朝もバイトに行く途中だった」


「バイト!ずいぶんこっちの世界に馴染んでるね。」


「働かないないと生活できないからね。今日、あのまま電車に乗っていたら大遅刻になってしまうところだった。」


(なるほど。俺のためじゃなく、自分のために未来を変えたのね。)


「じゃ、急いでバイトに行かないとダメなんじゃないの?」


「そうなんだ。ただ、『アルゴリズム』に妙な記述が現れたんだ。で、それをやり切らないといけなくなった。」


  乗車率250%の車内でよくこの分厚い本読めたなと思いつつ、セドリックが開いたページをのぞきこんだ。


  *****

☆かいたく者が地きゅうから『ミルス』に転いする

 ・でんしゃの中にかいたく者がいる。

 ・かいたく者は赤色の服をきた大人。

 ・かいたく者のかばんに『アルゴリズム』

  をいれると地しんがおきる。

 ・かいたく者に『アルゴリズム』をたくし、

  せつめいがおわると『ミルス』にてんいする。

  *****


 赤色の服。確かにマモルは、赤色のダウンジャケットを着ている。通勤電車の中だと目立つ格好だったかもしれない。


「ってことは、俺のカバンに本を入れたせいで地震が起きたんじゃないの?」


「あのままの未来でも75秒後に地震が発生することになっていたし、僕は電車に閉じ込められることになっていた。君もだけどね。つり革を左手にもちかえてもらったのは、君の気をそらしてカバンに『アルゴリズム』を入れるためだったんだよ。」


「まじか、こっわっ。まったく気づかなかった。あんたスリの才能あるな…。で、かいたくしゃ…開拓者かな。なんか苦労しそう。なにやるの俺?」


「開拓者というのは僕も聞いたことがない。いずれにせよ僕の説明が終われば転移するからすぐ分かるさ。向こうに着いたらランディ城の北側にある書店に行くと良い。僕の娘がいるよ、名前はリズ。」


「え?娘?え?あ、あんた何歳なんだ?」


「47歳だよ。僕たちは、君たちに比べて若く見えるみたいだね。」


  まじか。今年30になるマモルは年相応の見た目だ。『ミルス』とやらに行ったらかなりのおじいちゃんなんじゃないか?


「そういえば、君の名前を聞いてなかったね。」


「ほんとに今さらだな。マモルだよ。高崎守。」


「高崎マモル君、あっちの世界『ミルス』と僕の娘リザをよろしく。僕の最高傑作『アルゴリズム』を手放すのは惜しいが、『ミルス』とリザのためだ、任せた。以上、説明終了!」


「いろいろ説明不足してないか?」


「あとはリザに聞いてね。『アルゴリズム』が選んだんだから期待してるよ。じゃ、僕はバイトがあるから~」


  マモルに『アルゴリズム』を手渡し、セドリックは混雑の続く駅の方に走り去っていった。


「なんか軽いなぁ。」


  世界を背負わせるような話をしときながら、バイトの方が大事なんかい!とつぶやいた瞬間、マモルは見知らぬ草原に立っていた。

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