06.天賦の才
会場が大きな歓声に包まれた。
『第一試合、勝者は ――― 』
アナウンスが止まるのと同時に、会場の歓声も消えた。
観客の視線の先には、ボロボロになりながらも立ち上がるロイドの姿があった。
「わ、分かったぜ…… あんたの身体強化の秘密。」
「ほう、だからといってなんになる…… 理解したとて差が埋まったわけではあるまい。」
「そうだな、分かったって言い方がまずかったか…… もらったぜ、かな…… ほら!」
そう言うと、ロイドの腕の部分がわずかだが赤色に光った。
「! 天賦の才をもっておったか。おもしろいぞ。」
ロイドの姿をみたアルゲマインは、驚愕した後に嬉しそうな表情をみせた。
「まだマナの移動はスムーズにはいかねぇけど、これで少なくとも打ち負けるこたぁねぇ。さぁ試合再開といこうぜ。」
身体強化とは、アルゲマインが開発した術である。
その効果は、マナを体の周りに集め、動きを補助してもらうことで、通常の動きよりもより速く、より強い攻撃を繰り出せるといったものだ。また、マナを体の周りに集めているため魔法防御力も多少だが上昇する。
詠唱の必要はないが、コントロールが難しいため、使い手はまだ少ない。
ロイドとアルゲマインは身体強化を用いて戦っていたが、両者の力には大きな差が生まれていた。
<フレイム・バースト>を片手で受け止められたとき、ロイドは身体強化の熟練度の差であると考えていた。アルゲマインの身体強化が凄すぎて、熱線を弾くほどの魔法防御力をもっていると考えたのである。
しかし、その考えは<フレイム・バレット>を放ってから変わった。
ロイドの放った散弾は、アルゲマインの右腕に弾かれていたが、足や胴体にはわずかながらダメージが通っていたからである。
ロイドの言ったマナの移動、それは身体強化で体に纏わせているマナを移動させ、より強い身体強化を行うという意味であった。
もっとも、気づいたからと言ってすぐマネできるほど簡単な技術ではないが ―――
現に、ロイドもマナの移動にてこずっているようであった。
「うぉらあぁぁっ!」
ロイドの雄たけびと共に、再び打ち合いが始まった。
さすがにアルゲマインも受け止めきれないのか攻撃を受け流し始め、徐々にロイドの攻撃が通りはじめた。
「その才みごとだ…… しかし気づいているだろう? マナの薄くなっている部分は強化していないのと同義だと!」
アルゲマインの言う通り、腕にマナを集中させているロイドの体は、腕以外は大きなダメージを負っていた。
何発かの打ち合いの後、ロイドの体がふらつき、大きく傾いた。
その隙をアルゲマインが見逃すはずもなく、強烈な蹴りがロイドの腹部を襲った。
蹴りを食らいロイドがその場に崩れ落ちた。
「ほぅ。見事だ! とっさにマナを腹部に集中させたか…… だが、ダメージは通ったようだな。鍛えなおして、また挑戦せよ!」
ロイドへの賛辞と共に、アルゲマインはマナを拳に集中させ突きを放った。
「ぐっ…… くそが。 <フレイム・バースト>」
向かってくる拳に対して、苦し紛れの魔法をロイドは放った……
苦し紛れの魔法がアルゲマインの拳にぶつかり――――――
アルゲマインをふっとばした。
「なんだと……」
吹き飛ばされたアルゲマインは、大きなダメージこそないものの困惑した。
しかし、もっと困惑していたのは魔法を放った本人であった。
――― なぜだ。アルゲマインは拳にマナを集中させていた。だからこそ、奴が吹き飛ぶのはおかしい…… あの時、俺は何をした? 迫ってくる拳を受け止めようと、拳にマナを移動させ、あきらめ苦し紛れに魔法を放った……
――― もしかして強化されるのは身体だけではない? ならば身体強化は……
――― 身体強化はずっと強化魔法だと思っていたが、違うのか? ならばこの術は魔法として未完成…… この方法ならば……
「お前! 一体なにをした…… よもや魔法に吹き飛ばされることがあろうとは。」
アルゲマインが問う。
「アルゲマイン…… 魔法を嫌うあんたが気づけないことに気づいたんだよ。俺は身体強化を魔法へと昇華させる。名づけるなら、そう…… <フレイム・アーマー!>」
ロイドの詠唱と共に、腕に纏ったマナから炎が噴き出し、文字通り、炎の鎧となった。