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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第一章 【神域・リエン】
9/45

【周期侵攻戦Ⅱ】

 


 放ったのは風の極大魔法、ウィンドメシア。

 巨大な風の槍が幾重にも降り注ぐという、エンフィルが使用できる中で最強の魔法だ。

 

 エンシェントゴーレムの巨体がよろめくのが見える。

 鑑定で自身のステータスを確認すると魔力が2000程減った事でほぼ枯渇状態になった。

 だが、この魔法もエンシェントゴーレムに致命を与えるには程遠い。私の目的は次の一手だ。

 懐から銀の液体の入ったありったけの試験管を取り出すと目の前にぶちまける。この液体の正体は水銀(マーキュリー)

 目の前で私の魔力に反応し形を変える。私の唯一の近接武器だ、本来ならば短剣程度にして使用するのだが今回はそんな程度では足りない。

 出来上がったのは自分の身の丈程の大剣。試験的に生成した事は何度かあったが戦闘に使うのはこれが初めてだ。

 持ち上げてみるとずっしりとした重さがあるがステータスのおかげで容易に振り回すことが出来る。

 

 水銀の大剣を下段に持ち直し、強化を掛け直すとエンシェントゴーレムの元へ最速で飛ぶ。

 狙うは此方の最大のアドバンテージ、弱点である核である。岩を砕いた身体の中心部分、少しだけではあるが淡く光る核が露出している。

 今だ。降り注ぐ槍の中でもがく巨人は無我夢中で腕を振り回して暴れだしているが構う事は無い。

 

 ―――見えた。核をハッキリと視界の先に捉えられる範囲まで来ると、魔法をキャンセルする。

 攻撃された事での怒りで振り回された腕を銀の大剣で無理矢理振り払うと懐に入り込み、核に剣を突き立てた。

 

 「グォォオオオオオオオオオ!!?」

 

 巨人は痛みからか絶叫か苦痛か取れない様な叫びをあげる。

 当たり前ではあるが、端から一撃で倒せるなんて思ってはいない。直ぐに剣を引き抜くと即座に離脱を図る。

 だが相手も変異種だ、懐に入った敵をむざむざ逃がすような馬鹿な真似はしない。

 

 思ったより何倍も速く腕が迫るが、避けられない速さじゃない。

 全力で離脱しようとした私の数寸先を巨大な腕が通り過ぎると流石に息を呑んだ。

 

 離脱を終えて空に舞い戻ると、掠っていたのか白衣の先が大きく破られていた。

 スピードも威力も原種の並ではない、掠っただけでこれならば直撃を受ければ致命になりうるがその成果は大きかった。

 

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 エンシェントゴーレム(変異)

 Lv:51

 HP 14400/19600 


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 今の攻撃で5200程体力を削る事に成功した。

 あとはこれを3回繰り返す事で討伐が見えてくるが…。

 

 「やはり再生持ちか…。」

 

 魔法で崩した外殻が少しずつではあるが再生している。

 だがこれは核を守る為の外殻のみの再生だ、決して損傷した核を再生させるものではない。

 だから体力の回復もされる事はないが問題はあの外殻を削るには極大級の魔法が必須である事だ。

 本来の職であったなら上級魔法でも十分に削る事が出来ただろうが、今の私では最大火力をぶつけて剥がす以外の手段が存在しない。

 

 

 ポーチの中を確認すると討伐に必要なだけのポーションの残数は十分。魔力の補充の為にポーションを素早く飲み干すと巨人の様子を見下げる。

 当の巨人は歩みを止めて私を恨めしそうに見上げている。どうやら先程の一撃で相手にとって私は自身の命を揺るがすに足る存在と認識された様だ…。

 思考の終わりから即座に見えたのは魔物の魔力の高まり。

 

 「やはり魔法も使えるのか…。」

 

 叫び声と同時に放たれるは無数の石の弾丸。魔法使いの言う所の下級土魔法である、"ストーンバレッド"だ。

 本来の魔法使いの使う下級魔法であるならば、私にとって脅威とは言えないだろう。

 だが、それは大型の魔物の上位種が放つ下級魔法である。並の防御であれば防ぐことは不可能だ。

 

 「―――ウィンドバレット。」


 そこから私の行動は早かった。

 敵の魔法の発動を確認し、無詠唱でウィンドバレットを発射し相手の三倍の数で迎撃すると、そのまま流れ弾を避けながら急降下し、突進する。

 魔法がある以上、空に理はない。だから即座に捨てる。

 

 地上に降り立つギリギリの所で飛翔をかけてブレーキを掛けると、一気に低空飛行で巨人の足元へ接近する。

 当たり前の様に振り下ろされる剛腕を大剣を斜めにして受け流すとまだ完全に再生しきっていない懐へ入り込む。

 左手を空けると素早く魔法の鞄から杖を取り出し、極大魔法をほぼ零距離で打ち込もうと行動を起こす。

 

 「迂闊だったな、変異種。」

 

 再生持ちではあるが、その外殻の再生は完璧とは言えない。

 流石に変異種と言えど、核に直接最大魔力を叩き込められれば消滅まで行かずとも瀕死の重傷を与える事は難しくないだろうと杖の先に全魔力を注ぎ込む。


 そこで見たのは予想外の絶望だった。

 右腕の大剣で剛腕を受け流し、左腕に再度持ち直した杖を向けると、そこには既に発動の準備を終えたおびただしい程の魔法が展開されていたからだ。

 

 「なっ―――に!?」

 

 普通の魔物に知能と言える知能を持つ者は極めて少ない。それはほとんどの魔物が本能のみで生きているからだ。

 この光景はおかしい。魔物が私を誘導したのか、それとも行動を読んでいたのか。

 だからと言っても説明は付かない。魔法が展開された痕跡は見逃す事は無いだろうし、ゴーレムの本能にはそういった物がないからだ。 

 バカな…そう思った。"これではまるで知能がある様ではないか"そう感じる事で私は1つの結論に辿りつく事が出来たが、明らかにこれは離脱が不可能だ。

 私は発動途中だった極大魔法に望みを託し、そのまま発動させた。

 

 

 ―――――☆

 

 

 村では村人達がなけなしの矢を村の入り口まで運び、到着した矢を次から次へとドルゲの子分達と一部の村人達が撃ち出している。

 

 「もっとだ!!もっと撃ち込め!!!兄貴達を援護するんだ!!!!」

 

 子分達の号令が村人達へ響き、番えては撃ち、番えては討つ。

 敵の数が減って来ては居るが、勢いが止まらない。兄貴達が確実に数を減らすが、それでもばかりが傷が増えていく。

 俺達にもっと力があれば…!と思うと今にも剣を抜いて飛び込んで行きたい気持ちになるが、それは許されねえ。あの中に入って行けば確実にあの二人の足を引っ張る事になるからだ。

 

 「クソッ、クソックソォオオオオオ!!!!」


 情けねえ、情けねえ、情けねえ!!!

 兄貴達に当たらねえ様、近づこうとしている小物に矢を次々撃ち込んでいく。

 



  先程の異変は嫌でも気付いた。大きな地震の様な地響きの後、エンフィルが言っていた大物はやってきた。

 神の瞳で見たそのステータスを見て、俺達の対峙している目の前の敵が米粒程度に見えるくらいにはその強さを錯覚してしまった。

 そんな化け物と今、たった一人でエンフィルが戦っている。どうやら終盤戦に差し掛かった様だ。

 エンフィルの様子がどうしても気になってしまうが今は目の前の新手(・・)を片付ける方が先だろう


 今俺とドルゲが相手しているのは新手である"オーク"。相手は度重なる俺とドルゲとの攻防で全身切り傷だらけだ。

 ただ、此方も無傷と言う訳にはいかない。俺とドルゲも何度も攻撃を仕掛けているが中々削りきれず、致命傷は受けていないものの掠り傷や打撲が絶えない。

 それもその筈だろう、相手のレベルは24。ドルゲよりもレベルの高い、完全なる格上だ。

 緑色の巨躯と巨大な棍棒を併せ持ちその体躯はドルゲよりも二回り近く大きく、どこで手に入れたか…鎧を着ている為適当な攻撃は通さない。

 俺達の周りを囲うゴブリンやリザードはどうにか村の人達が抑えてくれているが長くは持たないだろう。

 

 ドルゲがオークに突撃し自慢の斧を振るうとそれに合わせてオークは棍棒を力任せに振るう。

 バキンバキンと剣戟音が鳴り互角の様に見えるが、その力勝負はレベル差のせいかオークが一段上である。

 オラァッ!!っと掛け声と共にドルゲが形勢逆転の一手を繰り出す。

 ドルゲの有りっ丈の魔力を込めた一撃だろうか、オークの棍棒を大きく弾くとその巨躯が傾く。

 

 「今だ琥珀ッッ!!!」

 「ああ、分かっているッッ!!!」


 揺れた巨躯の背後に俺は現れる。

 剣は振らない。斬ってもその分厚い肉の壁に阻まれる可能性があり、致命である場所まで届かないからだ。

 ―――だからこその突き。剣を肉に対して水平にして構えて撃ち出す事で相手の肋骨部を間をすり抜ける事が出来ると何処かで聞いたことがある。

 まさか実践する事になるとは生前の自分では微塵も想像しなかっただろう。

 

 とは言え、相手の皮膚は強靭だ。ガッチリと両手でしっかりと剣を握り直すと全力で鎧の隙間に突き刺す。

 途中でガチッと一瞬だけ骨に接触した感触があったが、すぐに剣先はそれをすり抜けると巨大な体躯を背後から串刺しにする事に成功する。


 「―――ッ―――!!」

 

 何かを叫ぼうとするが、ゴボッと音を立てて逆流する血がその発声を妨害する。

 オークの血走った眼が俺を見るが俺は容赦はしない。突き刺した剣から手を離すと腰の短剣を抜き取りゴブリンの時と同様に首へ突き立ててそのまま喉を切り裂く。

 

 それでもオークはすぐに煙に変わる様子はない。

 暴れる様に棍棒を振るわれるが…その棍棒は腕ごとドルゲの斧に両断される。

 そのまま切り返すように両手持ちで俺が抉った喉の傷に斧を振り抜くとオークの首が吹き飛び、ようやく崩れ去って煙へ変わる。


 「大丈夫…じゃねえよなぁ、アンちゃん。」 


 一気に二本のポーションを煽り、人差指と親指を曲げてOKサインを出すと流石にドルゲも苦笑いする。

 息を整えるとすぐに村人達の下へ走り、ドルゲと共にゴブリン達を斬り伏せに回る。

 

 数が減った所でピタリと矢の援護が消えて、子分達が剣を抜いて此方に向かってくる。

 どうやら村の矢の備蓄が切れたのだろうか、敵もあと数匹残るのみとなったので、あまり無理な戦いをする必要が無くなった。

 

 俺は目の前のゴブリンを斬り払い周囲を確認すると、丁度子分達の剣が最後のゴブリンを切り裂き煙に変えた後だった。

 ゴブリンの消滅を確認するとすぐに森の向こうにいるエンフィルの状態を神の瞳で確認した。

 先に見えたゴーレムの体力は残り1600、既に瀕死の状態まで追い込められているのを見ると少しだが安堵の息が漏れる。

 だが、近くにエンフィルのステータスを確認できない。何故かとても嫌な予感がする。

 不安は募り、視覚を左右に振るとその姿はすぐ見つかったが、その不安は的中した。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 エンフィル・シャンデール

 状態:気絶

 Lv:61

 HP 29/2990 


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 そのステータスを見た瞬間血の気が引いた。あくまで俺に見えるいるのはステータスだけ、だがそれ故に明確だ。

 彼女のどんな状態なのか、それは容易に予想がつく。既に俺は走り出していた、先程までの疲れなど気にすらならない。

 一分一秒でも早く彼女の元まで辿り着く事だけを考えた。




 【Side:ドルゲ】



 俺達は周囲の敵を蹴散らした所で一息ついた。

 流石にあのオークだけは俺一人では厳しかったかもしれねえ…。琥珀のアンちゃんには感謝しねえとな。

 そう考えながら琥珀の方に身体を向けると、丁度俺の横をものすげえ速度で通り過ぎていくアンちゃんの姿が見えた。


 棲んでいた世界が違うせいか、琥珀のアンちゃんは親しい者が傷つくのを極度に嫌うタイプだ。

 そんなアンちゃんの表情(かお)がすれ違いざまに俺は見えちまった。悲壮と絶望が入り混じった様な今にも泣きだしそうな顔だ。

 それだけで俺は事態を把握した。

 アンちゃんの能力である、"神の瞳"で姐御のステータスを見たのだろう。

 便利極まりない能力だが、それ以上にアレはアンちゃんを駆り立てる。完全に冷静さを欠いていた。

 

 「オイ、冗談じゃねえぞ…。」


 追い掛け様と思ったがすぐに思い留まる。ここにはまだ守らなきゃならねえ命が沢山ありやがる。

 俺がここを出て行けば万が一がある、今は大丈夫だが魔物共がまた襲って来ねえとは限らねえ。

 だから俺は此処を離れる事ができない、アンちゃんに全てを任せるしか…。

 その様子を見かねてか、子分達が俺の下に駆け寄ってくる。

 

 「親分。今琥珀の兄ィが血相変えて走っていきやしたが何が…。」

 「姐御が下手ァ打ったかもしれねえ…。」

 「なら俺達も助けに―――いでっ!!」

 

 言い終わる前に拳骨を落とすと、痛そうにしていたが、すぐに状況を把握して立ち直る。

 

 「なら、親分だけでも今すぐ…」

 「ダメだ。俺が居なくなって、さっきみたいに魔物どもがやってきたらどうするつもりだオメェ。」

 「……。」

 

 そう、黙るしかない。まだまだ複数の魔物と渡り合うには子分達は力不足だ。

 それにこの戦いが終われば、こいつ等はこの村を守っていかなきゃならねえ…。

 そんな二人をこんな所で危険に晒す訳にはいかない。


 「俺はアンちゃんに託すぜ。」

 「「親分っ…!!」」

 

 どうやら二人は理解してくれた様だ。

 

 (倒せなんて言わねえ。姐御を連れて逃げて来い、アンちゃん…。)

 

 そう願いを込めて俺はアンちゃんの背中を見送った。

 



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