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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第一章 【神域・リエン】
8/45

【周期侵攻戦Ⅰ】

 

 「よし、これでいいな。」


 俺は戦い前の最終確認を行う。ポーションと武器以外確認事項はないが、片方が無ければその先は死だ。

 これは当たり前の様で重要だ。俺が最後だったのだろうか、立ち上がると篝火が俺たちを暗く照らす。

 先頭で遠方を見るエンフィルは微かに口元が動いている様に見えるが、微動だにしない。きっと何かが見えているのだろう…。普段の白衣の上から異色のマントを羽織り、杖を持つ。

 篝火を通して朱く光る彼女の姿はとても幻想的で美しい。

 

 きっとここに居る人々は皆、エンフィルが勝利を引き寄せる戦乙女(ワルキューレ)の様に見えるだろう。

 少なくとも俺はそう思うし、村人の中にはその姿に手を合わせる者さえいる。

 

 「どうやら始まる様だぜ、アンちゃん。」


 レベル5である俺でもわかる程の魔力がエンフィルを中心に湧き上がるのを感じるし、不思議と身体が緊張する。

 エンフィルは杖を強く地面に叩きつけると村全体に風の結界が発動する。

 村人達は「おぉ…!」と驚く者が居るが、それは比較的若い者達だ。

 前回の周期を経験した老人達は静かに武器を持つ手に力を籠める。

 エンフィルは静かに振り返ると戦いの宣言をした―――


 「時は来た。聞け、村人達よ!!

  安心しろとは言わん、それは私たちが万能ではないからだ―――

  だが信じろ、足掻け!! 明日を悲観する者に明日は来ない!!

  お前達が明日を諦めぬ限り、私達はお前達を守る矛になり、盾となろう!!!」

 

 ビリビリと感じるのは昂揚感だろう。これはエンフィルのカリスマと言える。

 普段のエンフィルとは似ても似つかないが、これも一つの側面だ。

 

 エンフィルは俺とドルゲの下に来るとただ短く、告げる。


 "行ってくる"と…。

  

 死ぬなとか、絶対に帰ってこいなんて言わない。その覚悟には野暮だろう。 

 

 「ああ。」

 

 だから、ただ笑って拳を突き出した。

 一瞬呆気に取られたが、一早く理解したドルゲとその子分達がその拳に自分の拳を軽くぶつける。

 

 「ああ…なるほど、悪くない。」


 静かに笑って、エンフィルは自分の拳をその"輪"にぶつけると、夜の空へと飛び去った。



 ―――――☆



 【Side:エンフィル】


 「フフッ…。」

 

 この感覚は懐かしい。これから戦場に向かうと言うのに笑みが取れない。

 200年前に勇者と肩を並べて魔王の進行から王都を守った頃を思い出す。

 

 今私が上空を飛んでいるのは"飛翔"と言う風の魔法だ。この魔法のおかげで何倍も速く目的地へ到達できる。

 既に分かっていた事だが、目的地点に到達する頃には完全に"穴"は開いていた。

 前もって計算出来ていたのだが、どうやら村に残された前任者の記録通りとはいかなかったらしい

 足は遅いが既に村へ向かって走り出す魔物の姿が複数確認でき、その穴からも続々と魔物達が出現している。 


 「―――ウィンドアロー、多重展開。」

 

 無詠唱。それが私の持つ"神樹の杖"の一番の効果だ。

 無詠唱を筆頭に杖には魔法強化、消費魔力半減。が付いている。


 私は鑑定スキルで琥珀達の害になる比較的にレベルの高い魔物を中心に狙いを付ける。

 記録によれば、出現する魔物のレベルは30程度で打ち止めだと記してあった。現状と照らし合わせるとその記録に今の所、間違いはない。

 ……最後には50レベル級の大物が出て来ると言う記述もあるが現状は大丈夫だろう。

 最悪20レベル程の魔物であってもドルゲと琥珀が手を組めばどうにかなるだろうが油断は出来ないだろう。

 少しでも不安が残る相手は全てここで排除しなければならない。

  

 「一斉掃射。」


 自分の周りに展開されていた風の矢が一気に射出され地上を蹂躙する。

 木を折り、空を裂き、地面にクレーターを作りながら土煙が巻き起こる。 

 風魔法で土煙を振り払うと歪んだ結界の前は見通しのいい更地に変わっていた。

 もぞりと狙った一部の魔物が体中に大穴を空けながら今だ消えずにいる姿を見て下唇を噛む。

 

 「レベル30近いの魔物ばかりだが、やはり非戦闘職ではここが限界か…。」  

 

 私の撃った"ウィンドアロー"は中級魔法だ。

 本職である"錬金術師"と言う職業は非戦闘職だが、そんな彼女が魔法を覚えているのは様々な手段があるものの、それは一部の魔法職を極めているからだ。

 非戦闘職はどれだけステータスが高かろうとステータス通りの力が出せない、特に魔法はその影響を受けやすい。

 そして、職の変更には外の街へ行く必要があり。この村は閉鎖の村、迷い込んで到達しただけの私は一度この結界を越えれば二度とこの村に戻ることは出来ないだろう。

 入るには難があり、出るのは容易い。本来そう言う結界なのだ。


 「"大魔導士"であれば、こんな事も無かったが。

  こればかりは―――仕方ない、かっ!!!」


 思考の最中に割り込んできたのは"ロックバード"。

 レベルは27。岩の身体を持つ、非常に耐久度の高い魔物だ。

 ロックバードは体当たりを躱されると、そのまま村を一直線に目指す。

 

 「―――ウィンドブーツ。」


 強化魔法をかけて飛行スピードを上げ、ロックバードに一瞬にして追い付くとそのままの勢いで地上へ蹴り落とす。

 ドスンと落ちたロックバードは身体が砕かれもがきながらも、追撃のウィンドアローを受け煙へ変わる。

 

 結界の辺りを直ぐに確認するが、魔物達の進行は私を警戒してあまり進んでない様だ。

 だが、空の魔物達は私を完全に標的に決めたのだろう。空の敵のヘイトを集められたのは僥倖だ。

 私は飛び込んでくる敵を躱しながら確実に消滅させていく。

 

 一通り空の敵の掃除を済ませると、次の敵に備えて懐から出した"上級の魔力ポーション"を一気に煽る。

 どうやら地上の敵も進行を再開した様だ。これからは地上の敵も相手をしないといけない。

 歪みから漏れ出る魔物の勢いも上がりつつある事を見ると、完全に殲滅できるのはここまでだ。

 ここから先は琥珀達頼りになる―――きっと上手くやってくれるだろう。 

 彼等との関係は短い。琥珀に至ってはまだ三日と経たない。だが自然と信頼出来るのは、初めて出会った時の彼の笑顔が今だ脳裏に焼き付いているからだろう。

 彼は逃げ出さない。それは同情混じりだろう。その心はまだまだ粗削りだ、そして虫唾が走る程お人好しだろう。だが私は彼のそう言う所が好きだ。

 だからせめて彼の始まった第二の人生をこの様な所では終わらせたくない。否、終わらせない。

 

 私は1つ深呼吸を置く。進行具合は想定の範囲内ではあるが、魔物の出現間隔が異様に早い。


 「長時間使うと使い終わった後の頭痛が酷いんだが…仕方ない。」


 これは出来れば周期のこれ以上無いだろう、最頂点で使おうと使うと考えていたスキルだ。 

 これだけ間隔が早いのなら使わざる得ない。この魔物の数は流石の私でも1つの思考では対応しきれないからな

 

 「分割思考―――展開。」

  

 分割思考。いくつもの異なる事柄を同時進行させるスキル。

 私の同時が可能な数は4つだ。1つを地上の敵へ2つ目を空の敵へ3つ目を結界へ4つ目を琥珀達へ向ける。

 思考が増える、それは視野が増える事だ。


 「ウィンドブレイカー。」


 敵を上から圧し潰して切り刻む、上級魔法だ、低レベルの魔物ならばそのまま圧し潰され、生き残った魔物は風の刃の餌食になるだろう。この魔法の特徴は何と言っても範囲だ。

 空と地上の敵を同時に圧し潰す。分割思考との同時使用で更に多くの敵を効果範囲内収めることが出来る。

 

 「ウィンドアロー、多重展開。」

 

 周りに初弾より多くの風の弓を生成すると同時にそのまま魔法を地上の思考へと繋げる。

 ウィンドアローは射出されると確実に地上の魔物を削ってき、矢の数が減れば魔力が続く限り生成される。 

 

 私はそのまま別の魔法を展開し、空の敵へ向かっていった。


  

 ―――――☆



 【Side:琥珀】



 エンフィルが戦場へ消えておよそ一時間が経過した。

 今も森の奥から鳴り響く轟音が彼女の生存を知らせてくれる。 


 「ハァァァアアア!!!」

 

 一閃でゴブリンにトドメを差す。此方に来た時の苦戦が嘘の様に思えた。

 レベルアップによる恩恵はやはり大きい。一対一ならば苦戦はしない、二対一でも多分勝てると思う。

 エンフィルの頑張りのおかげか俺達の所まで来る魔物は少ない。神の瞳で確認すると、数えるのも面倒になる数の魔物のステータスが出現しては消える。

 空を見上げるとエンフィルがまるで現代の戦闘機の様に見えた。


 「流石に現代の戦闘機でもあんなアクロバットな動きはしないよな…。」


 一体何処まで鍛えればあの領域に辿り着けるのだろう…。

 

 「オイ、アンちゃん!!ケガはねぇか!!!」

 「ああ、大丈夫だドルゲ。これもドルゲとエンフィルとお前の子分達との訓練のおかげだな。」

 「大げさだなぁアンちゃん、たった一日と少し鍛えただけじゃねえか。」


 そう言いながら頬をポリポリ掻いて目を逸らす。どうやらこう言う事を言われ慣れていないのだろう。

 

 「さて、次が来たぞ。」

 「よっしゃあ!おめぇら、気張って行くぞ!!!」


 俺たちの後方でお手製の弓を構えて待機していた子分達はオォー!!っとドルゲに叫び返した。

 そこに出て来たのは2匹の鱗の鎧を纏った蜥蜴だった。


 「ありゃあリザードだアンちゃん。」

 「リザード? …人型じゃない所を見ると普通の魔物の蜥蜴かな。」

 「人型のリザードマンと比べちゃいけねえ、あいつらはもっと高レベルの魔物だ。」

 

 そう言われると直ぐに俺は二匹に向かって神の瞳を使ってステータスを確認する。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 リザード(♂)

 Lv:12

 HP 170/220 


 リザード(♂)

 Lv:12

 HP 220/220


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 ドルゲの情報通り二匹にリーザドマンの表記はない。

 そして片方は少しだけ体力が削られている所を見るとエンフィルの魔法が掠ったのだろう。

 魔物に人の様なステータスは今だ見た事がない。だが外見を見るに注意すべきはスピードだろう。

 二匹は四足で這いながらジリジリと俺達との距離を詰めて来る。チロチロと蛇の様に出る舌と手足の鋭い爪が少しだけ恐怖感を煽るがさして問題にはならない。

 

 子分の二人がリザードに向かって弓を射る。それが俺達の決めた合図だ。

 その矢の到達を待たずしてドルゲが敵に向かって突貫し俺はすぐそのカバーに入る。


 「うおおおおおおおおおおおおお!!!」


 そのドルゲの声にリザードがビクリと身を震わせると同時に矢が二匹の身体に突き立つ。

 子分達の弓の腕はアビリティとして今だ確立していないが、とても高い。

 今まで動物を森で狩ってきた経験が生きているのだろう。


 「戦斧、烈衝ォオオオオオオオオオ!!!」


 今朝受けたあの技だ。どうやら見る限り"とても強い通常攻撃"と言う印象を受ける。

 今朝の時より威力を下げているのか白い光が薄いがそれでも十分なのか、傷を負ってない方のリザードの胴体を斧が両断した。

 うわ…一撃かよ

 

 「キシャアアアアアアアアアア!!!?」

 

 やはり速かった。もう一匹のリザードは仲間を殺された恨み言の様に奇声を上げながらドルゲの背後に回り込むと爪を走らせる。

 ドルゲはその敵影を知ってか知らずか"気にしてはいない"。それは背中を任せた信頼の証なのだろう。 

 少しむず痒さを感じるが、それはとても心地の良いモノだ。


 俺はドルゲ背後に背中合わせの様に現れるとリザードの腕の鱗の間に剣を通して腕を断ち切る。


 「大丈夫か、ドルゲ?」

 「相変わらず器用だなぁ、アンちゃん。」


 完全に皮肉だ。俺の口元も緩んでいる所を見たドルゲはガハハと笑う。

 

 「ギシャアアアアアアアア!!」


 腕を斬られた痛みから更に悲痛な叫び声が聞こえる。

 器用にも四本から三本になった手足で立ち上がると此方に走ってくるが以前の速さはもうそこにはない。

 走ってくるリザードに合わせて剣を真っ直ぐ頭に突き刺すとゆっくりと煙へと変わった。


 「兄貴ィイイイイイイイイイ!!!」


 子分達の叫び声が聞こえる、ここは村の入り口だ。ここが突破されれば村への魔物の侵入を許すことになる。

 子分達は森の奥に指を差す。高台で警戒している村人が何かを見つけたらしい。

 戻りながら神の瞳を使うと森の奥から此方に向かうおおよそ10匹程の魔物達が確認できた。

 ドルゲにそのまま状況を伝えると流石に笑えないのか、少々気を引き締める様な表情が見て取れる。

 

 「まさか姐御に何かあったんじゃ…。」

 「いや大丈夫だ。エンフィルはまだまだ元気だ、見た所魔物の出現間隔が上がったんだろう。」


 逐一心配になって確認していたが、今もエンフィルの体力や魔力はまだまだ余裕がある。

 だがエンフィルの殲滅能力を上回る速度で魔物が歪から湧き出て来ているので、彼女の手が回らなくなってきている。


 「戦いも佳境に入ってきたって事か…。」


 ドルゲが顎を掻きながら考える素振りを見せるが、多分そうだろう。

 どれくらいの時間が経ったか分からないが、この世界の朝は元の世界に比べたら早い。夜が明けるのも時間の問題だろう。

 そうなればこの侵攻は終わりを告げる。そう考えるとこの辺りで一番侵攻が強くなるのは妥当なのだ。


 俺はポーションを一息に喉へ流し込むと目の前の戦いに向き直る。

 森から姿を現したのはゴブリンが7匹、リザードが4匹。神の瞳を開くと更に奥には魔物達が此方へ向かってくるのが分かった。

 ああ…身体が震える、流石に厳しいかもしれない。

 その感情を察したのかドルゲは俺の背中をドンッと叩く。

 

 「グフッ!?」

 「気合入れやがれ、琥珀。お前はこれからこの世界で生きて行くんだろ?

  ならこんな所でおっ死んじゃいられねえぞ…。」


 ドルゲの瞳は何時になく真剣な表情だった。自前の斧を強く握り直すとそのまま俺の剣を持つ手にコツリとぶつけた。

 不思議と震え消える。だがまだ怖い、恐ろしい。リザードの鋭い爪とゴブリンの欠けた剣は駆け出しの俺にとってこれまでも無い位とても恐ろしい物に見えた。

 

 だが、立ち止まる訳には行かない。死ぬのなら存分に足掻いてやる。

 俺は生きたいんだ。死にたくないんだ。俺は俺の生きたい様に自由に生きる。

 その道を阻む者は必ず居るだろう。それがコイツ等だ。なら倒さなくちゃいけない、乗り越えなきゃいけない。  


 それは自己暗示に近い。だが効果はあった様だ。 

 怖いが戦えない訳じゃない、この誤魔化しを人は"勇気"と呼ぶのだろう


 「良い表情(かお)する様になったじゃねえか!!」

 「どうせ死ぬかもしれないなら足掻いてやるさ。こんな所で死んでたまるか。」

 「ああ、その息だ。」

 

 ドルゲが腕を上げると村人達が子分達と一緒になって弓をつがえていた。

 村人達が魔物に向かって矢を撃つと今度は俺の背をドルゲ優しく押した。

 自然と俺は走り出す、言葉だけで終わっていた俺の覚悟が本物に変わった瞬間だった。

 

 

 【Side:エンフィル】



 「ハァ…ハァ…。」


 先程から魔物の出現間隔がかなり上がっている。

 一体でも多く倒す事を念頭に置いてはいるが、その規模は想定の範囲外だった。

 何とか危険な魔物は全て殲滅出来てはいるものの、その他の魔物がかなりの数琥珀達の下へ流れてしまっている。

 

 空の敵を一掃すると一息つくが、分割思考の影響か頭痛が酷い。

 あくまでも"錬金術師"なのである。既にその戦果は錬金術師のソレを軽く凌駕しているがこれが錬金術師である自分の限界だ。

 何度目か分からないが、ポーションを一気に煽る。疲労回復の効果も見込める為、頭痛がマシにはなるがそれでも焼け石に水だ。


 「これでは最後の大物まで持つかどう―――」

 

 ピキリと結界の歪に何か違和感を感じた。

 嫌な予感がする。歪から現れる魔物がピタリと止まったのだ。


 「まさか…このタイミングか」


 少しずつではあるが結界の歪が縦に広がっていく。広がりきるとその高さはおよそ7m程だ。

 そこから出て来たのはまず紫色の石の腕だった。

 その腕が歪を広げるかの様に伸ばしていく―――

 右前足が地面を踏み、身体を持ち上げるとその全貌が明らかになる。


 「…エンシェントゴーレム。」


 体長はおよそ6m。全身紫色の岩に覆われた大きな岩の巨人である。

 

 「しかもご丁寧に変異種と来た。」


 冷や汗が垂れる。想定されていた敵の中で一番の、とびっきりの最悪だ。

 変異種とは極稀に出現する所謂レアな魔物である。討伐時にはそれなりのドロップを期待できるがその強さは殆どが原種よりも格上である事が多い。

 

 ―――私は鑑定を発動させる。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 エンシェントゴーレム(変異)

 Lv:51

 HP 19600/19600 


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 やはり私が知っている原種よりレベルも体力も格上である。 

 本来ならば周到な準備をした50レベル台の熟練者3、4人が犠牲覚悟でようやく討伐が視野に見えてくるレベルであるが、今はそんなパーティは組んではいない。

 事実上、この化け物と相対して戦いが成立するのは私一人なのである。

 そして、相性は最悪。エンシェントゴーレムの変異種は素の防御力もさることながら、魔法での攻撃が極めて通りにくい構造だ。

  

 ―――私は覚悟を決める。

 ハッキリ言って()じゃない。

 装備は上等であるが、私は極端に魔法使い向きのステータスの上にこの職業だ。

 本来の戦闘用の職であったなら力押しが通じる可能性もあったのかもしれない。

 だが、そんなものは無い物強請りである。

 引く事は…できない、後ろには仲間がいるのだから。


 「でも流石に死ぬかもしれないなぁ。」


 ゆっくりと村に向かって動き出す巨人に向かって杖を翳し、私は開戦の魔法を放つ。


 「―――ウィンドメシア」

 

 体長を大きく超える巨大な風の槍が巨人に突き立った。

 



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