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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第一章 【神域・リエン】
7/45

【始まりの夜】


 【リエンの村】60年周期~当日~


 何故か早く起きてしまった。まだ朝日は上がったばかりでまだ少しだけ肌寒い。

 だが気温はある程度安定している様で、街道に敷かれた藁の床で村人もドルゲ達も全員がスヤスヤと寝息を立てている。

 俺は身体を起こそうとすると何か重さを感じた。

 

 (…?)

 

 布で出来た薄いシーツを退かすとエンフィルが眠っていた。酔いが回っていたせいか昨夜の事を思い出せない。

 今はとりあえず起きる為にエンフィルを退かせる事を最優先に行動しなければならない。

 しかし目のやり場に困る。 白衣の隙間から見える少しだけはだけた衣類の隙間から素敵な双丘が一望できる。

 冷静に考えれば彼女はとんでもない金髪美女だ。

 細い身体、少しだけ長い耳。何かとは言わないが、アレは大きすぎず小さくもない。

 煩悩払拭する為にまずは眼を閉じた。呼吸を整えてから眼を開けて、ゆっくりと彼女の拘束から起こさない様に抜け出す。

 もしかしたら今まで生きて来た中で一番のハプニングだったのかもしれない



 ◇◆◇◆◇◆◇



 俺は荷物を持ってゆっくりと藁のシートから抜け出すと、近くの水汲み場の水で顔を洗いうがいを済ませる。

 ――――冷たい水に晒されてすぐに目が覚めた。

 中々に清々しい、この世界に転生して二日が経ったので今日で三日目。まだ短いが充実している。

 まだまだ、身体の年齢に意識は完全に引き寄せられきってはいない様だ。

 俺が今一番恐れている"厨二病"と言う要素がまだ成りをひそめているのが有り難い。 

 

 俺は鉄の剣を袋から取り出すと素振りを始める。

 イメージするのは剣に振るわれない事だ。

 上、横、下全て振って確認してみると、まだほんの少しだけ剣に振られていた。

 もう1、2レベル程上がれば苦もなく振るえるようになるだろう。


 そう考えながら無我夢中で剣を振っていると、起きて来たのか、ドルゲが斧を肩に下げて此方に向かってくる。

 

 「朝から素振りたぁ、気合が入ってんじゃねえかアンちゃん!!」

 「ああ、おはようドルゲ。

  それにしても、昨日はあれだけ飲んでおいて良く平然としてられるな…。」


 そう、ドルゲは飲んでいた。有り得ない程飲んでいた。

 酒樽を隣に陶器のコップで掬いながらノンストップで笑いながら飲み続けていたのだ。

 日本の飲兵衛達がきっと束になっても叶わないほど飲んでいた。

 見ていた俺は唖然としていたが、他の者達は"いつものこと"の様に振る舞っていたのでどうやらこの世界では日本の常識は通用しないらしい…


 ドルゲはガハハハと笑いながら俺の背中を叩くと水の入った桶を豪快に頭にかけ、石造りの水貯めに顔を突っ込み顔を上げると頭をブルブルと言った感じで揺すって水を払う。

 

 「よしアンちゃん!一発やろうぜ!!!」


 聞く人が聞けば勘違いするだろう一言だろう。

 俺は鉄の剣を両手で握り、正眼に正す―――


 「おおお!!様になってんじゃねえかアンちゃん!!!」


 そう豪快に笑いながらドルゲも斧を構える。

 朝の模擬戦が始まった瞬間だった―――



 ◇◆◇◆◇◆◇


 

 バキンと大きな音が早朝の村に響き渡る。

 ドルゲの斧を防御し後退させられる。、俺とドルゲの距離は約5.6m程だ。 

 俺が一息つくと、俺たちの周りは村人達が囲んで観戦している事に気付いた。

 

 こういうのでテンションがつい上がってしまうのは人間のサガだろう

 ―――俺は全力で地を踏み抜いた。

 ドルゲも同様に高揚している様で斧を構えると天高く振り上げるとそのスキルを叫ぶ。


 「戦斧ィィィィイイイイ!!!!」

 

 ドルゲの斧を白い光が包む――――

 乾いた笑いが湧いてきた。俺はいまドルゲに向かって全速で距離を詰めている最中だ、勿論止まる事なんかできない。

 正気だろうか。手加減しているだろうが、こんな一撃を受けたら今晩は寝たきり確定だ。

 だが笑ってしまうのは気分が高揚しているからだろう。脳内麻薬がドバドバ支配していく感覚がする。

 迎え撃ってやろうと、考えた。

 その一撃を見切り、剣を突き付けてやろう。

 

 「烈衝ォオオオオオオオオオオオオ!!!」


 ドルゲがその斧を振り下ろす。

 ブォンとまるで巨大な岩でも飛ばしたかのような音がしたのを確認すると、俺は神の瞳を発動する。

 ほんの少しではあるが振り下ろすスピードが少し遅く見えた。

 ―――これならいける。

 向かってくる刃に向かって剣を垂直に構えて受け流しの体制を取る。

 

 ガリッと音がする。その音は刃が剣に触れた合図だ。 

 そのタイミングでスピードを徐々に殺しながら剣を斧に向かって並行になる様に逸らす。

 刀身がガリガリと音をたてる。

 あと少し――――そんな所でガキンと言う音と共に俺は吹き飛ばされる。


 砂煙が俺たちの間に吹き荒れる。

 その砂煙の晴れた先で立っていたのはドルゲだった。

 斧を肩に担ぎ直し、飛ばされた俺の手を掴んで引き上げる。

 

 「おい、流石にやり過ぎじゃないのか?」


 俺がドルゲに文句を言うといつも通りガハハと笑いながら返す。


 「アンちゃんもその気だったんだ、いいじゃねえか!!!」


 その言葉に否定は出来なかった。

  

 「完敗だ、ドルゲ。良い気付けになったよ。」

 「オウよ!!!」


 案の定観客に混ざっていたエンフィルを見付けた俺たちは顔を見合わせて笑った。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇



 藁のシートの場所まで戻ると案の定エンフィルからケガするなと注意を受けたがあまり気にしてはいない様だ

 エンフィルが村人やゾルゲの子分達を集めて今夜の周期について語る

 

 「周期は今夜来る。」


 村人は皆息を呑む。

 皆鎌や包丁を持っている辺り、この村への愛着を感じる。


 「昨日話した通り、私は敵の目の前に陣取り出現した敵を片っ端から殲滅する。」


 その言葉を聞いて村人たちはザワザワしいるが真剣な眼差しでエンフィルの言葉に耳を傾ける。


 「私も全ての敵を漏らさず狩れる訳じゃない、勿論狩り逃しは発生するだろう。狩り逃した魔物達は間違いなく真っ直ぐこの村に向かってくるが、心配するな。その狩り逃しは例外なくドルゲと琥珀達が倒してくれるだろう。」

 

 村人達は今俺達が居る場所に周期が終わるまで集まる予定だ。

 この藁のシートが敷かれている場所、ここが所謂本丸。此処への侵入は何としても防がなければならない。

 低レベルの魔物ならば農具や刃物を持った村人達が囲んで殴ればどうにかなるだろうが、5、10匹ともなれば話は別だ。下手をしたら大ケガや最悪死人が出る可能性だって出て来るだろう。


 「それでは皆、準備を始めてくれ。」


 エンフィルの号令で村の男達はを囲む柵を強化したり、刃物を棒先に縛り付け簡易的な武器を作っている。それを補佐するかのように女性たちは夜に備え男達の食事を作る為、せわしなく働いている。


 「ドルケ、琥珀。私たちも準備がある、付いてきてくれ。」


 エンフィルが俺達を呼ぶと、ドルケは子分達に村人を手伝う様にと命令する。子分達は元気よく駆けて行き、村人達に混ざっていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 ここはエンフィルの家だ。

 相変わらず本が積み上げられ、机の上には実験道具が散乱している。


 「二人とも、これを受け取れ。」

 

 エンフィルは机の上の2つの小包を俺達に押し付ける。俺とドルゲの分を分ける為か、俺には青がドルゲには赤の印が付けられていた。


 「これは…?」

 「この日の為に用意しておいた物だ。中にはポーションが入っている、ドルゲには体力の回復薬を増やしておいた。琥珀は魔力の回復薬だ。」

 

 袋の中を覗くと赤と青の薬が別々に紐で縛って分けられていた。

 数えると赤いポーションが10、青いポーションが20入っている。

 基準が分からないので、どれだけ持つか分からないが有り難い限りだ。


 「あまり効果の高い物ではないが今のお前達のレベルなら十分だろう。

  振り掛けても効果はあるが、出来る事なら飲め。其方の方が圧倒的に効力が高い。」

 「エンフィル、大丈夫だと思うが…お前の分は―――」

 

 言い終わる前にエンフィルが壁に指を差した。

 そこにはマントだろうかローブだろうか、緑と黒の異色で彩られた物と一緒に小さなポーチが吊るされている。

 明らかに小さいのであれも魔法の鞄の一種なのだろう。それに寄り添うように彼女の武器だろうか、物理攻撃も出来そうな杖が立て掛けられている。

 

 次にエンフィルがA4サイズ程の古紙を俺に手渡してくる。


 「これは…?」

 「鑑定紙だ。魔力を通すことで使用者のステータス情報を表示する。

  品質は最低ランクだが今のお前なら表示限界を超える事はないだろう。」

 

 なるほど、自分のステータスを見るなと言う理由はここで鑑定紙の存在を俺に教える為だったのか、鑑定スキルを持つ彼女が正規通りの手段を取ったのはきっとドルゲに俺のステータスを見せる為だろう。


 「魔力の通し方だが、別に難しく考える必要はない。ただの鑑定紙だ、手に持って少し力を入れる程度で十分機能する。」


 言われた通り紙を持って力を籠める。

 一瞬紙が光り、収まるとその紙面にはステータスが書かれていた。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


名前:目黒琥珀

レベル:5

種族:人

職業:―――

体力:620/620

魔力:177/177

力  D(177)

防御 D(150)

知力 D(127)

精神 D(221)

素早さ D(201)

器用さ B

運気 A


スキル

交神

水歩


アビリティ

柔術:Lv1

剣術:Lv2

グレイス


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 全体的なステータスの上昇に加え、剣術のレベルが1つ上がっている。成長促進アビリティの"グレイス"は中々に有能なのかもしれない。

 特殊アビリティが表示されていないのはエンフィルの配慮だろう。

 "交神"スキルがどう捉えられるか分からないが、最悪ドルゲに自分の事を話す事を視野に入れなければいけない。

 正直ドルケになら教えるのは構わない。きっと彼は俺の事をきちんと理解してくれるだろう。

 

 「オイオイオイ、何だこりゃあ?」

 「やはり上昇値が高いな。」


 各々感想を口にするがどれくらい凄いのか俺には良く分からない。

 先日見たエンフィルの知力値をレベルで割って計算してみる。ああ…そうか、このままの成長でも同じレベルに到達する頃には全てのステータスがエンフィルの知力値並に上がると言う事だろう。

 そう考えるとこれも一種の成長チートだ。


 「とんでもない潜在能力だが、高レベルになるにつれ上昇値が下降傾向になる者も少なからずいる。

 レベル上げも高レベルになるにつれ危険も増えるからな、慢心はするな?」

 「ああ、わかってるよ。」


 エンフィルのステータスを見た後だとその言葉の重みが確かにわかる。きっと彼女も一歩間違えば死んでいた様な修羅場を何度もくぐってきたのだろう。

 これから自分が同じ道を進む事を考えると少しだけ不安になる。


 「それにしてもよ、姐御。琥珀のレベルは一昨日まで"2"だったんだろう。

  それがいきなり"5"たぁ、ちと早すぎねえか?」 


 最もな疑問だ。少なくとも数度の模擬戦と兎狩りでは有り得ない数字なのだろう。


 「それは"グレイス"と言うアビリティのせいだろう。私の知識ではそれは成長促進のアビリティだ、まぁ…神代(かみしろ)時代に存在していた神話(アーティファクト)級のアビリティだから現在持っているのは琥珀一人だけだろうがな。」

 

 マジでか…。あの神様なんてものを俺にプレゼントしたのだろう。

 貰った時なんて少し成長が早くなる程度でしか思ってなかったが、とんでもないものを貰ってしまった。


 「成長促進に"交神"ねえ。

  成長が早くて強くなれる上に神官様にもなれそうだな!」


 ガハハと笑いながら済ましてしまえるのは、ドルゲだからだろう。

 そこからは嫉妬の念や怒りなどは一切感じない。

 ……話してしまおうか?

 むしろ話したいと言う感情すらある、彼なら悪い様には絶対ならない。

 

 「神官には慣れそうもない。この"交神"と言うスキルはとある一人の神とだけ話せるスキルだ。」

 「琥珀、話すのか…?」

 「ドルゲなら大丈夫だろう。」


 ドルゲは何を話しているのか分からないのか腕を組んで頭を捻っている。

 俺はドルゲに向き合うと俺が転生者である事と特殊アビリティについて説明をした。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「成程ねえ。」

 

 理解までに少し時間がかかったがドルゲは理解してくれた様だ。

 話す度にコロコロ変わる彼の表情は見ていて面白かった。俺の生前の話をするとボロボロ泣きながら背中を叩かれたり、神様の事を話すと豪快に笑い飛ばされた。


 「アンちゃんも面白ェ人生を辿ってきたんだなぁ。

  このドルゲ!! この場で見聞きした事は絶ッ対に外には話さねえ!!!」


 「だから安心しろよ」とドルゲは俺の背をドンドン叩く。

 俺は少しだけ嬉しかった。ここは暖かい。

 知っている人は誰も居ないこの世界に転生して、ドルゲやエンフィル、そしてこの村の人たちに出会えたのは正しく奇跡だ。

 

 「男同士で感傷に浸るのは良いが、私を忘れるな。」

 

 エンフィルは何事もハッキリ口にするタイプだ。近くに寄ってくると俺達の手を掴む。


 「あの姐御ともあろう方が身寂しいお年g―――。」


 ドコンと彼女の細い腕から有り得ない音が鳴る、全てを言い終わる前にエンフィルの拳がドルゲの腹部に刺った。

 「うぉぉ」と言いながら腹部を押さえて悶絶しているドルゲを見てこの人には絶対逆らうまいと心に決めた瞬間だった。


 エンフィルはドルゲが復帰するのを見計らってゴホンと1つ咳払いを置いた。


 「夜には周期が来る。琥珀にとっては転生直後だ、辛い夜となるだろう。

  だが安心しろ、お前にはもう仲間がいる。」


 そう言ってエンフィルは俺たちの手を握る。

 確かにそうだ、俺には仲間がいる。


 「絶対死ぬな、二人とも。」

 「それは俺のセリフだ。」

 「ガハハハハハ!!!」


 ―――そして日は落ちる。

 村の中心には火が灯り、俺達は武器を持って立ち上がった。


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