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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第一章 【神域・リエン】
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【侵攻前夜】



 【リエンの村】~60年周期前日~


 翌日―――俺は走っていた。ドルゲと共に森の中を走る。

 後方には白衣のエンフィルが退屈そうにその戦いぶりを見ている。

 俺は朝早くからエンフィルやドルゲと模擬戦をこなし、今はエンフィルの精霊スキルを活用しリエンの森内部にいるほぼ害のない低レベルの魔物を狩っている。

 基本的にはゴブリンの様な害のある魔物が迷い込む事はないが、気にすらされない小動物の魔物はほぼ害の無い為放置されるのが常である。

 そして村を囲む結界は神性とやらが高い為、好んで精霊たちが多く発生するらしく、それらをエンフィルが使い疑似的な索敵を展開し発見次第急行して殲滅と言う流れを敷いている。

 

 「キューゥウウウウウ!!!」

 

 またつまらぬものを―――1度やってみたかったのだ

 すれ違いざまに鉄の剣で兎を真っ二つにする。血が飛び散るがスグに煙になって消えて魔石を落とす。

 戦って初めてわかった、例え村人でも倒せる相手だったとしても戦うものじゃない。基本的には相手は逃げの姿勢だし、その足は速く身体の小ささも相まって見つけ難いし初心者向きではない。

 だがエンフィルと言う強力な助っ人がいる以上、そのデメリットは全てが無くなる。


 「琥珀、次は3時の方向だ。―――ウィンドブーツ。」

 

 エンフィルが兎の姿を見つけ出すとその方向を指示し強化魔法をかけ直してくれる。正におんぶにだっこだ。

 俺は地を蹴ると加速する、元々レベルに対してステータスは高い方だ。

 それでもエンフィルが凄いのだろう、強化魔法のおかげで低レベルも相まって俺は本来のスピードの約3倍程のスピードが出ている。

 

 ―――見付けた。

 身を低くし、鉄の剣を水平より少し下へ構えて距離を詰めて兎の胴体を切り取る。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ……。」

 「よし、休憩だ。」


 兎を倒した所で二人が追い付きエンフィルが休憩の号令をかける。

 ステータスを見たい衝動に駆られるが、エンフィルの提案によってそれは禁止されている。

 曰く、鍛える途中でレベルが上がれば慢心に繋がる。だから周期到来間近までステータス欄を開くのを禁止されたのだ…。

 逆に捉えれば成長と言うのはモチベーションに繋がる。そこがエンフィルの狙いなのだろう。


 「ガハハハハ!ほらアンちゃん昼飯だ。」


 そう言ってドルゲが俺とエンフィルの前に風呂敷を敷いてそこにおにぎりと干し肉を並べていく。

 ああ、美味い。少し塩辛い干し肉が良い感じにおにぎりに合う。

 

 「問題は琥珀のスタミナだな。」


 エンフィルは上品におにぎりを食べ終わると俺の欠点を指摘する。

 

 「エンフィルの姐御、そればっかりはどうしようもねえ。一日でどうにかなるモンじゃねえからな。」

 「ふむ、やはり配置は揺るぎないな。」


 そう切り出すと、エンフィルにより当日の配置についての説明が入る。

 

 「綻ぶ場所は毎周期固定だ。私が出現した魔物を正面に陣取り、片っ端から殲滅する。

  流石の私でも出て来た魔物は低レベルと言えど全ては相手できない。お前たちに頼むのは取り逃がした魔物の殲滅だ。きっと、魔物達は真っ直ぐ村を目指すだろうから村の入口に陣取れ。」

  

 高レベルであるエンフィルが大多数の魔物を相手をして、ドルゲとその部下を俺がサポートする形。

 それが一番理想だろう。歯痒いがどう足掻いても今の俺ではそれが限界だ。

 ドルゲもエンフィルも同じ考えだったのだろう。お互い目線で頷き返すと短い会議が終わり、昼食が再開された。



 ――――☆ 



 昼すぎからはまた模擬戦が始まった。


 中々時間が経っているが攻めきれない。

 相手はドルゲの子分の2人だ。多対一の練習をする為にエンフィル特製の木刀に得物を持ち替えて戦う。

 どうやらドルゲの子分は二人だけの様だ。


 「オラオラオラオラオラ!!」

 

 初めは「胸を借りるつもりでやらせていただきやす!」と言っていたが、言動は完全にチンピラのそれである。

 何とか木刀でその攻撃を捌いていていると背後から更に「オラァ!死ねや!!」と言う掛け声と共にもう一人の木刀が横薙ぎに振られる。

 エンフィルの前情報であるが二人のレベルは2、自分と同レベル帯である。 

 

 「―――っ!!」


 正面で応戦している剣を片手に持ち替えて上段の振り下ろしを受け止めると、横薙ぎに背後から振られた木刀を腰に差していた短い木刀を空いた手に取り受け止める。

 正直成功してテンションが上がった。こう言うのが慢心に繋がるのだろう。

 だがやはり、技術も力もない俺が片手持ちの剣で相手の剣を受け止めるのはかなりキツい。

 そのまま膠着状態が続いた。エンフィルには凌ぐだけで良いと言われているが、俺も男だ。勝ちたい。

 身を低くして後方に飛ぶと二人の力の入った一閃が頬を掠めそうになったがどうにか抜けられた。


 「オォオオオ!!琥珀の兄ィ!!今のはクソカッケエっすよ!!!」


 昨日騎士の話をしなかった方の子分が自分を称賛する。

 そうだろう、やった俺自身も少々舞い上がってしまった。

 だが、背後から掛け声が無ければ間違いなく敗北していたに違いない。

 両手に持たれた二本の木刀に力が入る。―――ここからは勝ちに行く。

 その雰囲気を察したのか正面の二人が笑いつつも構える。

 

 第一手。

 右手の小さな木刀を自分から見て右側の子分に投擲した、それと同時に地を蹴って急加速。

 勿論投げた木刀は迎撃され撃ち落された。撃ち落した本人の反応は一瞬遅れたが、もう一人が反応の遅れたもう一人をカバーする様に懐に入っていく俺を迎撃する。

 俺はもう最高速だ、自分でも急には止まれない。

 速度を維持したまま左から振り下ろされる木刀を左手に持った木刀で受け止め、なんとか受け流すとそのまま懐に入り投擲した子分の胸倉をつかんで背を使って投げる。

 現代で言う背負い投げである、受け止める為に多少ブレーキがかかったとはいえ相手を浮かせるための速度は乗っていた為何とか成功した。

 

 投げられた子分はもう一人の子分に激突し上手く受け身が取れなかったのか痛そうにしている。

 撃ち落された木刀を素早く回収すると二人に左右の木刀を突き付けた。


 「そこまでだな。」


 エンフィルからストップがかかる。

 それと同時にドルケからは称賛の証なのか「やるじゃねえか!!」と言いながら背中をバンバン叩かれる。

 スタミナの限界なのか背中を叩かれた瞬間そのまま大の字になって倒れ込む。


 「これを飲め琥珀。」


 エンフィルが渡して来たのは試験管に入った赤色の液体だ。栓を開けて一気に流し込む。

 ―――酷く苦い。生前、薬をよく飲んでいたので耐性があるのかあまり苦には感じないが、普通の人なら吐き出す可能性すらある苦さだ。

 だが薬の効力はその分高い様でさっきまでの疲れが幾分かマシになっていく。

 これは所謂"ポーション"だろう。赤色と言えば、体力の回復や攻撃力の増強。そんなイメージだ。だからこれは前者なのだろう。

 そう考えているとエルフィンから答えが返ってきた―――


 「今飲んだ物は体力回復のポーションだ、下級のものだがな。そして青色が魔力の回復薬。

  飲み込んでさえしまえば効力を発揮し、体内から消滅する。基本だから、覚えておけ。」

 「アンちゃんすげえな、嫌な顔1つせずに姐御のポーションを飲めるなんざ大したもんだ。」


 どうやらポーションはエンフィルのお手製らしい。

 "良薬は口に苦し"と言うし、効力の程は通常のポーションより高いのだろうか。

 ふとそんな事を考えているとエンフィルから質問が飛んでくる

 

 「琥珀、お前は先程二刀であったが、心得があるのか?」

 「ないよ。」


 元々は学校での授業の1つだ。

 丁度やっていた剣道の授業で大小一対の二刀と言うの興味本位で齧っただけだ、そして案の定ある程度練習はしたが投げ出している。

 アニメや漫画の様な動きは身体能力や経験が足りない為、イメージ通りには出来なかったからだ。

 そもそも人の動きじゃない事を前提として頭に入れている以上憧れの域を出なかった訳だが。 


 「ただ、子供の遊びの範疇で振り回していただけだ。」

 「なるほど。」

 

 授業の件をこの世界風に変換し説明した所で、納得された。

 きっと"偶然"で片づけたのだろう。

 そこまで考えると不意にドルゲが俺の腕を掴むと背に担ぐ。

 

 「よしアンちゃん、帰るぜ!!」


 ふと空を見ると夕日が沈もうとしていた。

 この対人訓練は思った以上に時間を使っていたらしい。

 スタミナはポーションのおかげで多少は回復したと言っても身体が動かない…。

 自分が思っていた以上に消耗していた様だ。これ以上の訓練はケガを増やすだけだと二人は判断したのだろう。

 

 ――――☆

 

 

 ドルゲに背負われて帰路に就くと待っていたのは村人達だった。

 帰る頃には日が暮れて、村の中央の街道には藁で出来たシートが敷き詰められ俺達を待っていた。


 「お帰りなさいませ、エンフィル殿。ドルゲ殿。」


 一人の初老の男が俺たちの前に出て来る。


 「村長、紹介する。彼が昨日話したゴブリンを討伐した"目黒琥珀"だ。」


 どうやらこの人は村長らしい、外見は何処か偉い文官の様な面影が残る人だった。

 エンフィルが俺の事を紹介するとドルゲが俺を背から降ろす。

 この人もきっと"同じ"なのだろう。

 俺は自己紹介と共に真っ直ぐと彼の眼を見て握手を求める。


 「目黒琥珀だ。まだ二人に比べたらレベルは低いが是非とも戦わせてほしい。」

 「おお、なんと。」


 皺の多い手が力強く俺の手を握る。確かに俺の想いは伝わった様だ。

 彼の俺を見る眼も老人には決して見えない凛とした眼に変わる。  


 「皆の者、宴の用意じゃ!!」

 「「「オオオォォォォォォ!!!!」」」


 人数は50人にも満たないが力強い掛け声が響く。

 俺達三人とドルゲの子分を含めた5人は中央に連れていかれ、豪勢な料理を振る舞われる。

 ああ―――ここは良い。とても暖かい場所だ。

 生前は病弱な為飲むことの無かったお酒もあまり美味しくは感じなかったが、雰囲気のせいかその味も悪くは感じなかった。




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