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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第一章 【神域・リエン】
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【異世界を学ぶ】



 翌日…とはならない。

 俺はドルゲの前で周期とやらへの参戦を宣言するとエンフィルが模擬戦をすると言いだしたからだ。


 結果だけ言うのなら、エンフィルとの模擬戦は勿論悲しい位歯が立たなかった。

 エンフィルが動いたと思ったら視界から消え俺は地面に倒れる。…そのパターンが変わらず10回ほど倒された。

 神の瞳を行使しても見えたのはエンフィルの影程度だ、これでは練習にすらならない。

 レベル2とレベル61、とんでもなく手加減してくれているのだろうがそもそも姿すら掴めないので戦い所ではなかった。

 

「ひでぇや…。」


 エンフィルによってボコスカに伸される俺を見たドルゲが無意識に呟いた一言だ

 そのドルゲの一言がエンフィルに届いたのか、とりあえず特訓は明日の朝から魔物を狩ることに決まった。

 


◇◆◇◆◇◆◇



 その夜―――エンフィルの家にて


「琥珀、お前はこの村を出た後の事は決まっているか?」


 エンフィルは試験管を片手に作業をしながら背後で椅子に腰を掛け本を読んでいた俺に問う。

 少しだけ俺は考える仕草をするが、考えれば考えるほどその思考は漠然とする。


「決まってないな。だが、やりたいと思う事はある。」 

「ほぅ…。」

「生前ではエンフィルに話した通り、最期まで病に悩まされて来た。

 だから今度の人生では何者にも縛られない俺だけの自由な人生を送りたい。」

「自由…か。中々難しいな。」


 だろうな。

 この世界は剣と魔法の元の世界で言う"創作"…所謂"フィクション"と呼ばれる異世界だ。

 魔物と戦って感じたが、人の命も元の世界の何倍も軽いだろう。

 だがゲーム宜しく、命賭けではあるが魔物を倒せばレベルが上がり強くなれる。

 いつ何時死ぬか分からない世界だからこそ強くならなければならない、でなければ自由など程遠い。


「だからこそこうして備えているのさ。」


 エンフィルから借りている本を片手に持ち上げるとエンフィルは作業が終わったのか、俺に向かって振り返る。

 

「この世界の通貨の単位を答えよ。」

「"ステラ"。」


 即答する。この世界の通貨の単位は"ステラ"、円やドルではない。

 1ステラ辺りどれくらいの価値があるかは分からないが、金貨が一万ステラ、銀貨が千ステラだ。

 そこまでエンフィルに答えると少しだけ驚いた表情をする。


「やはり琥珀も本が読めるのか。」

「"も"って事は昼間に言っていた勇者召喚とやらでやってきた転生者も初めから読めたって事か。」

「運悪く呼び出された勇者殿は神様に慈悲を頂いたと、私の耳には伝わっている。

 お前のも、この世界へ送ったと言う名も無き神の加護の効果だろうな。」


 あの妙に馴れ馴れしかった神様がね…。

 確かに目の前に立った瞬間"神"であると俺に理解(わか)らせる位の力は感じた。

 だがそれと同時に幼い容姿に言動、行動。少なくとも俺の眼には格の高い神様には映らなかった。

 それでも全ての神様の加護にはそんな青タヌキの秘密道具の様な便利機能が付いているのだろうか…。

 神様の名前も含め、今となって聞いておけばよかった事が湧いてくる。

 これは早急にレベルを上げて交神を使える様にならねばならないな。


「通貨については概ね理解したと言う訳か…。

 だが、実物を見ねば実感が湧くまい。」


 そう言うと懐から何枚か硬貨を取り出して無造作に机の上に投げ出すと一枚一枚指さしてエンフィルから説明が入る。

 

「下から此方が"鉄貨"、単位で10ステラだ。一応下には1ステラ、"銭貨"が存在するがあまり使われてないな。」

「なるほど。」

「こっちが100ステラで銅貨と―――」

 

 此方の世界ではあまり細かい単位の金は流通していないと言う訳か。

 10単位の方が計算が楽であるのもある。現代の様に勉学が浸透しているとも思えないしな…。  


「此方が大金貨、十万ステラだな。」


 通常の金貨より一回り大きな金貨だ、装飾も金貨とは少しだけ違っている。

 机の上に残った硬貨は2枚。片方は銀貨よりも輝きが強く所々金で装飾された硬貨―――

 白金貨、単位は百万ステラだ。借りた本によればこの白金貨が一番の価値を持つと書いてある。

 つまり残った一枚。それはこの白金貨以上の価値があると言う事になる。


「此方はミスリル硬貨、単位は一千万ステラだ。

 普通の生活をしていれば使う事は無いだろうし、その本には書いていないだろうな。」


 一千万ステラ。一ステラがもし1円くらいの価値ならばこれが一枚で一千万円である。

 それをエンフィルが懐から適当に取り出して無造作に机に投げ出したのだ

 つまりは一千万円でもエンフィルにとってはその程度の価値しかないと言う事になる。

 

「流石高レベル…恐ろしいな。」


 エンフィルは俺の反応に頭の上に疑問符(クエッションマーク)を浮かべて首を傾けるだけだ


「っと、一通りお前に通貨を見せたが…。

 このまま冒険者にでもなって、レベルが上がって行けばいずれ見る事もあるだろう。

 そうでなくとも、魔物を倒して生計を立てるのなら冒険者にはなっておいた方が良い、区域への立ち入りやランクが上がれば色々融通が利くようになる。」


 これも本に書いてはあった。

 冒険者ギルド…つまりは現代で言う仲介会社の様な物か。

 それに冒険者として登録しているだけで依頼を受ける事が出来たり、魔物のドロップ品の買い取りなど…便利な事が多いらしい 


「魔物のドロップ品……魔石の事か?」

「いや…魔石の他に魔物の固有の素材部位、武器、防具などまでドロップ品で手に入る。

 まぁ、武器や防具の方は現実的な確率ではないから過度な期待はしないほうがいい。

 世の中にはその高価なドロップ品に生涯を費やす冒険者も居るのだが、あまり良い話は聞かない。」

「参考までに最高でどれくらいの価値があるんだ?」


 エンフィルは少しだけ考える仕草をすると答える。


「私の記憶ではとある武器一振りの為に大国(たいこく)が傾いたと言う話を聞いた事があるな」

「そう聞くと金銭の問題より身の危険すら感じるな…。」

「実際そう言う話はよく聞く。パーティで取り合いになって殺し合い、闇討ちくらいは普通にやるだろうな。」


 一生遊んで暮らせるくらいの金額だ、それくらいはあるのかもしれない。

 実際に現代でも金銭のトラブルと言うのはよく聞く話だ。

 世界が変わっても人の根本と言うのは基本的に変わらないらしい


「さて…明日はお前を鍛えねばならんしそろそろ眠るか。」


 エンフィルはんっー!っと言った感じに両腕を伸ばすと羽織っていた白衣を壁に掛ける。


「なら俺もそろそろお暇するよ。」

「待て、何処へ行く。」 

「何処って…ドルゲにでも寝床を貸してもらおうかと。」

 

 お前は何を言っているんだ?っと言いたげな眼で俺を見る。

 

「お前の寝床はここだ、別に出ていく必要はない。」

「まて、お前は昨日今日出会った何処の誰とも知らない男を自分の家に泊める気か。」

「別にお前なら構わん。」


 俺は頭を抱える。

 エンフィルの方に目線を向けると「どうした?」と言わんばかりの視線が突き刺さる。


「…分かった、世話になる。」


 俺は諦めた様にそう伝えると、部屋の隅…比較的に散らかっていない場所へ腰を下ろして壁に背を預ける様に眠ろうとする。


「何故そこで眠る。」


 またエンフィルから疑問符が飛んでくる。勘弁してくれ。

 ベットに腰掛けたエンフィルは俺に問う、何故そこで眠るかと。

 それは当たり前だ、此処を抜けば眠れる場所など消去法で今エンフィルが腰を掛けているベット以外存在しない。

 それはつまり俺が家主を差し置いてベットを使うと言う事だ、流石にそれは俺のプライドが許さない。

 断ろうとすると、俺の思考を超越した答えがエンフィルから返ってくる。


「ほら、寝るぞ。」 

「は…?」


 エンフィルは俺を誘う。

 自身は既に布団を被り、眠る準備が完了している所を見るに一緒に眠ろうと言っているのだ

 いや…流石に無理だ。ベットは確かに大きい、二人が眠る事は可能である。

 持たないのだ、主に理性が。…と言うか、間違いなく眠れない。

 

「―――――。」


 エンフィルが布団から腕だけ出して立て掛けてあった杖を掴み何かを口にする。

 その瞬間身体が見えない何かに拘束される。これは間違いなく魔法の(たぐい)だ。

 勿論ではあるが俺の力では拘束から逃れようとはしているもののビクともしない


「まてまてまてまてまて!!!!」

「私は眠い。」

 

 不機嫌そうに、端的に俺へ感情をぶつける。

 何かに圧される様に俺の身体はエンフィルの下へ引き寄せられた。

 エンフィルの指先が俺の額に触れた瞬間力が抜けて視界が歪む。


「ま、て―――エン―――フ、ィ――――。」


 言葉を言い切る前に俺は意識を失い、ベットへ倒れ込む。


「全く、手間を掛けさせるな。」


 朝起きた俺は全力で頭を下げたが、エンフィルはただ頭を傾げるだけだ。

 エンフィルと共に家を出た俺を村人達がからかって来るが、あまり耳には入ってこなかった。

 

  


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