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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
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【ランク考査Ⅰ】



 今日の朝は流石に慣れ始めたのか起床の気怠さはこの街に来た時に比べればかなり少なくなって来た。

 昨日は街中を回り食に舌鼓を打った後はアルセリエの提案で街の外で組手と魔法の練習を行い疲れが溜まっていると思っていたがそうでもない様だ。

 残念な事に未だに俺は魔法が使えない。

 アルセリエ曰く魔力流れも正常で詠唱も問題ないのであとは感覚を掴むだけと言っていたがアルセリエ本人が一発で魔法を成功させているので見解については正しいのだろう。

 当のアルセリエは既存の魔法の改造に勤しんでいる様で俺の隣で初級の基本魔法であるウォーターボールがグニャグニャと様々な形に変形させていた。

 俺の従者が明らかに天才肌すぎる件は主人として肩身の狭い限りだ。


 既に起きていたアルセリエと共に顔を洗って身嗜みを整えると朝食を済ませて宿を出て冒険者ギルドへ向かった。


 普段と同じ時間、目的地である冒険者ギルドに到着すると既に来ていたゴークさんより剣を受け取る。

 依頼の掲示板には相変わらず冒険者達が争奪戦を繰り広げているが俺とアルセリエはそれを横目にミラの居るカウンターに向かって行った。


 「おはよう御座います琥珀さん、アルセリエさん! お待ちしておりました!!」

 「おはようミラ。」

 「おはよう御座います!」

 

 カウンターに着いてミラと挨拶を交わす。


 「今日はランク考査の日ですね。ギルド長も他の新人さんも既に到着して準備に入っていますよ。」

 「新人…? 俺達以外にも居たのか。」


 俺の疑問は最もだと自身でも思う。

 何せシエロ冒険者ギルドは訪ねて来た新人を強制的に拘束しようとする程の人手不足だ、今日この日まで新顔の冒険者を見た事もないしこの街から新しい冒険者が来たと言う話も聞かない。

 一瞬昨日ゴークさんの店で会った赤髪の少女の事が浮かぶが、どうみても冒険者には見えなかったのですぐにその考えは霧散してしまう。


 「その件については僕から説明しようか。」


 考えを巡らせていると、聞いた事の無い声が掛かる。

 声の方を向くとそこに立っていたのはアルセリエより少し身長が高いくらいの少年?だった。


 「僕はシエロ冒険者ギルド長"アルフェ・キリウス"。安心して、小人族(リリィ)だから僕はこう見えて当の昔に成人を迎えている。」

 「…失礼しました。

  俺は目黒琥珀、此方は従者のアルセリエと申します。」


 まるで心を読まれた様に返されたので素直に謝罪を入れるが、"眼"を使うまでも無い。

 ―――この人は圧倒的に格上だ。

 着崩された緑のギルドの制服に腰に差した短めの剣から構成される姿から圧の様な物が放たれている様な気がする。

 死にかけだったエンシェントゴーレムより、先日戦ったルシエより明らかに纏う雰囲気が違う。

 その証拠に眼の前の男の身体に流れる魔力が見て取れるアルセリエは自身の手を強く握って微動だにしない。


 「へぇ…君達が。噂はミラ達に聞いたよ、何でも先の特殊依頼では大活躍だったらしいじゃないか。」

 

 俺が謝罪と一緒に自己紹介を返すと目を細めてまるで品定めでもしているかの様な視線を俺とアルセリエに向ける。

 嫌な汗が額を伝うのが分かる。まるで絶対的捕食者を前にした獲物の様な…とても良い気分とは言えない。


 アルセリエは俺の前に出て懐の短剣に手を掛け敵意を持ってキリウスの前に立つと、キリウスはしまったと言う表情をして頭を下げた。


 「すまない、流石に不躾だった。」

 

 その瞬間掛かっていた"圧"の様な物が消える。


 「何やってるんですか、ギル長。」

 「いやぁ、ごめんごめん。そんなに怒らないでよミラ、僕も反省しているんだ。

  ごめんよ二人共、思わず悪い癖が出てしまった。」

 「あ、いえ…。」


 完全に圧が消えて彼の表情が申し訳無さそうなものに変わると、アルセリエは大きく息を吐いてその場に座り込んだ。


 「有難うアリセリエ。」

 「良い従者を持っている。アルセリエくん、君もすまなかったね。」

 「い…いえっ。」


 アルセリエの手を取って立ち上がらせるとキリウスはアルセリエに向かいもう一度その頭を下げた。


 「それじゃあそろそろ試験会場に案内しようかな、他の新人の子達については道中で説明するよ。」

 

 そう言ってカウンターへの戸を開けると俺とアルセリエを誘導する。


 「他の冒険者達への対応は任せたよミラ。」

 「…ハァ。はい、分かりました。くれぐれも無茶はさせない様にお願いしますね。」

 「ハハハ、分かってるよ。それじゃあ僕に付いて来てくれるかな二人共。」

 

 ミラに一時の別れを告げ普段入る事はないだろうカウンターの向こう側へと歩を進める。

 道中には所狭しと棚が置かれて、きっとそこには冒険者や魔物の資料らしきものが整理されいるのだろう。

 とても普段三人で冒険者ギルドを回しているとは思えない程片付けられている所を見るに、このギルドを取り纏めているミラの手腕の高さに驚嘆する。

 

 「どうだい、うちのギルドの娘達も結構やるだろう?」

 「ええ…。」


 俺は素直に感想を返す。

 キリウスは自身の部下を褒められて嬉しいのか、上機嫌な自身を隠さない。

 

 「…だが、まあ。この国において近年の新人冒険者の排出数は世界でもダントツで低くなり、"勇者達の安息の地"と呼ばれていた時代は当に風化した。

  僕の知っている中で、この10年間はシエロ出身の新人冒険者を輩出したと言う記録はない。」


 背を向けて自分達の先頭を歩くキリウスの歩調は変えずに言葉を続けた。


 「―――だから今年はシエロにとって豊作中の大豊作だ。

  なんせ、君達を入れて計4人も新人冒険者を送り出せるのだから!!」


 歩きながら歓喜と期待に溢れた声色が彼から発せられ、喜びに振るえ自身の胸の前に拳を作っている。


 「君達の二人の功績はこのギルドに帰還してから大方調べさせて貰ったよ。」


 キリウスは大き目の扉の前に辿り着くとその手前で停止し大げさに開け放つと俺とアルセリエに向かい合った。


 「目黒琥珀、現レベルは18。出身は不明、使用武器は片手剣。

  ステータスは強いて言うのなら俊敏性に特化していながら、全体的に高水準な器用万能。

  得意魔法は闇魔法。その数値は87。…次点で雷魔法の70か。

  その数値だけでも驚異的であるが、不可解な事に光魔法の才能値が最高値の100を指し示しているがその理由は不明。

  先の特殊討伐依頼では単身でゴブリンの軍勢に飛び込み、4体の魔法使いタイプのゴブリンを屠る功績を叩きだした上で直接群の主の討伐にも大きく貢献。」


 「アルセリエ、現レベルは11。出身は不明。武器は短剣。

  今だ幼いせいでステータスには尖った物は見えないが、驚異的な魔法適正。

  五大属性は土を除けば全属性に適正有りな上、得意魔法の水に至っては92と言う高数値。

  盲目であるが、恐らく空間把握や魔力感知、及び放出、操作により異常な視野…冒険者稼業的に言えば索敵範囲を誇る。

  既に中級魔法であるアクアランスを扱い、主人共々先の特殊依頼では功績を残した。」

 

  彼は一息に言い切ると、困惑する俺達を差し置いて更に言葉を続けた。

  思わず固唾を飲んでしまいたくなる程に、この人の言葉は心臓に悪い。

  

  「―――と、此処までがギルドが把握している書類上の情報だ。」


  そこまで言うと、彼の口角は酷く上がった。

  確かにその情報に誤りは無いだろう。あくまで書類上において、冒険者として表に出ている情報としてはだが…。


  「君達がやってきた事を顧みても異常なレベルアップ、それに特殊討伐時でのレベルで単身敵中に飛び込んでキッチリ対象の首を獲って生還する不釣り合いな戦闘力。

   ここからは僕の勘だが、琥珀。君はステータス…いや、スキルの一部を隠蔽していると僕は踏んでいるよ。

   こんな言い方はあまりしたくないが"魔物憑き"の少女を選んだ君の"偶然"。

   そんな"必然"染みた行動、そして君の出身不明と言う情報から導き出した君の正体は―――」


  射貫くような目線で俺の眼を捉えるとその視線は外せなくなった。

  

  「…ああ、またやってしまったか。そう言えばシャーロットちゃんの時も同じ事をしてしまったな、これは反省しないとな。」

  

  キリウスはハッと我に返り、頭を抱えると自己嫌悪に陥ってしまう。


  (そこでシャーロットの名前が出て来る時点で俺の正体は完全に把握済み。悪い人じゃないだろうが先が思いやられるな…。)


  俺が溜息を一つ吐くと隣で構えていたアルセリエもその警戒を解く。


 「あはははっ!! ゴメン、話が逸れてしまったね。 君が何者であろうと関係ない、今此処に居る君が全てだ。…うん、それで行こう!」


  そう言うと、待たせている二人に申し訳ないと言ってその歩みを再開した。

  

 「そうだ、まだ他の二人の新人について説明していなかったね。」


 互いの紹介は顔合わせの時にするとして。とキリウスは言葉を切ると、簡潔に扉の奥で待つであろう二人について語った。

 

 「二人は僕が王都からの帰還の道中でスカウトした子達でね、一人は女性の魔法使い。もう一人は男性の戦士?だ。」

 「何故疑問なんだ…。」

 「うーん、彼の武器は鋼鉄の剣じゃなく巨大な木刀の大剣だからねえ。外見と出身も相まって職業は戦士で設定されているが言い切ってもいいものかどうか…。まぁ、直接会ってみれば分かると思うよ。見た目の衝撃は凄いけれど彼は誰よりも心優しい。」

 

 見た目の衝撃とか言う不穏なパワーワードがキリウスの口から飛び出しているが、…まぁ、心優しいのなら大丈夫だろう。

 俺は考える事を放棄するとこの短い間にギルドの奥、両開きの扉の前まで来ていた。


 「さて、着いたよ。」


 そう言って俺達の心の準備も何のその、キリウスはノータイムで扉を開け放つ。


 床は砂地が剥き出しになり、屋根は高い。四方の真っ白な壁の存在が此処を外ではなく屋内である事を認識させる。

 広さは全然問題ない。正に戦闘をする為だけに作られた様な部屋だ。

 

 「君が琥珀くんとアルセリエちゃんだね!」


 部屋の景観を観察していると、何者かの声で現実に戻される。


 「……。」


 唖然。そう、今の状況を表す言葉としてはこれ以上もない言葉だ。

 それはそうだろう、眼の前に立っているのは身の丈は確実に2mを越えているしガタイもヤバイ。

 背中には巨大な木刀を携え途轍もない屈託の無い満面の笑みを浮かべて丸太の様な腕から伸びる大きくそれでいて優しそうな手を此方に向けているのだから。

 他のリアクションがあるのだろうか。

 それでいてこの純粋無垢な子供の様にも思えるその口調。


 「驚かせてゴメンね。僕の名前はナチュル、こんな身体をしているから昔から怖がられてばっかりなんだ。」

 「あ、ああ…。」

  

 かろうじで返事を返すがその衝撃は未だ俺を苦しめる。

 頭がゴチャゴチャしているが、ただ一つ分かった事がある。

 

 (こいつ、絶対良い奴だ。)


 俺の服の裾を掴んでいたアルセリエと顔を見合わせると、同じ事を考えていたのか少しだけ困ったような表情をしていた。

 だが、このままと言う訳にはいくまい。日本人たる者、礼には礼で返さねば無作法と言う物。


 「此方こそ済まないな。俺は目黒琥珀、仲良くしてくれると嬉しい。」

 「私は琥珀様の従者、アルセリエと申します。」


 ナチュルから差し出されていた手を握り返し、アルセリエ共々自己紹介を交わす。

 

 「うん、うんっ!!」


 残った方の腕で握った手を包み込むと嬉しさ余ってか、ブンブンと上下にシェイクされた。


 「遅いわよ!!!」


 俺とナチュルが自己紹介が終わるタイミングを見計らってか彼の大きな身体の向こう側から聞き覚えのある声が室内に響き渡った。 

 

 名残惜しいがナチュルとの長い握手を終えて声の方へ向き直ると、腰に手を当てて此方を睨む先日ゴークさんの店で出会った赤髪の少女が立っていた。

 

 「待っていたわよ、目黒琥珀ッ!!

  良く聞きなさい、私の名はマリー・フォ・ミリエルデ!

  ミリエルデ侯爵家第二女にして、何れ火魔法を極める者!!!」


 ズビシッと効果音が出そうなくらい勢い良く俺を指差すと彼女は一息に捲し立てる。


 「そして…今日貴方を倒す者の名よ!! しかとその胸に刻み付けると良いわ!!!」



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