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目黒琥珀の異世界転生論  作者: ウェハース
第二章【極小国家・シエロ】
43/45

【特殊討伐依頼Ⅳ】



 「オラオラ、どうしたどうした!!!」


 大剣の冒険者は大剣を振り回し、この集落のボスを追い詰めていた。

 周囲は数名の冒険者が各々の武器を持って包囲し文字通り袋叩きな状況である事は確かだろう。

 

 集落のボスであるゴブリン。その体躯は本来のゴブリンより一回りも二回りも大きく180センチに届きそうな勢いであり、その手に握られるている獲物は刀身の中央に菱型の穴の開いた大剣。

 正面切っての打ち合いならば大剣の冒険者の更に上に行くだろうが、状況は芳しくない。

 大剣を振れば同じ大剣使いに阻まれ、退こうとすれば斧で背を斬られる。

 更に少しでも隙があれば剣が身を裂き、流れる血が身体の動きを鈍重にしていくだろう。


 「グギャァッァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 ゴブリンは怒り狂い、無我夢中になって大剣を振り回す。


 「くっそ、暴れ回りやがって!!!」

 

 現状正面切って打ち合えるのは同じ大剣を持つ彼だけだ。

 故に暴れ回られればそれを抑える事が出来るのも現状彼一人だった。

 

 「うぉぉぉぉぉおおおお!!! よし、やれテメェ等!!!」

 「よし、動きが止まったぞ!! 今だ、かかれぇぇ!!!!」 


 大剣の冒険者がゴブリンの大剣を同じ武器を以って止める。

 周りを囲んでいた冒険者達はこれを機にと各々の武器の切っ先をゴブリンの身体に突き立てた。


 「これでどうだ糞野郎!!!」

 「ググァ―――ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 「離れろテメェ等!!!」

 

 突如の咆哮。

 即座に大剣の冒険者が後退の命令をするが、無事に後退出来たのは半分にも満たなかった。

 後退出来なかった者達はその声の衝撃でその場に倒れ込んで気絶してしまっている。

 

 「バインドボイス…。まぁ、これだけの規模の巣の主だ、使えても可笑しくはねぇわな。」


 バインドボイス。それは今回の様な巣の主や一部の強力な魔物が使用する拘束咆哮。

 自身の咆哮に自身の怒りと魔力乗せて拡散させ周囲の生物の聴覚を通して対象を気絶させる技である。

 

 「タフな野郎め、やっぱりぶった切られねえと死なねえな。

  さて…どうしたもんか。」

 

 傷だらけの巣の主、半分以下に戦闘員の減った冒険者。

 何方も知能があるからこそ、次の一歩を踏み込めずにいた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 「琥珀様!」


 アルセリエが俺の背後に回っていたゴブリンの心臓を突き刺した。

 突き刺されたゴブリンは即座にダラリと倒れ、その動きを沈黙させる。

 

 「ありがとう、アルセリエ。」

 「琥珀様、やはりお身体が…。」

 「いや、まだまだ大丈夫だよ。死角からの攻撃に弱いのは今に始まった事じゃない。」


 大丈夫とは言ったものの、先程からアルセリエに守られてばかりなので俺が思っている以上に身体は疲れ切っているのかもしれない。


 俺達はあれから敵の魔法使い達を殲滅する為に一人敵中に飛び込んだ俺を助ける為に来た冒険者達と合流した。

 助けに来た冒険者達は俺の安否を確認すると即反転、この巣の主と戦っていると言う冒険者達の後顧の憂いを断つ為、残党の殲滅へと乗り出した。

 俺とアルセリエ、魔法使いの冒険者の2人もシャーロットを護衛しながら冒険者達と同じ様に歩を進め、一緒になってゴブリンを狩っているが既にゴブリン達の統制は総崩れ。

 向かった冒険者達で事足りる程その足は乱れ切っているのだ。

 

 「琥珀!一つ頼まれてくれねえか!!!」


 その時、俺達の前で戦っている冒険者から声がかかる。


 「この巣の主と戦ってる連中が劣勢だ!! 此処は俺達に任せてシャーロットちゃんを連れてアイツ等の所に言っちゃくれねえか!!」

 「分かった。」

 「頭さえ叩いちまえば終わる、勝負を決めて来てくれ!!!

  こっちはもうすぐ終わるからよ!!!」

 

 どうやらこの巣の主と戦っている冒険者達が劣勢らしい。

 先程の大きな咆哮で嫌な予感はしたが、悪い予感は当たってしまった様だ。

 俺は今も尚目の前で戦っている冒険者の言葉に2つ返事で承諾すると、アルセリエとシャーロットを連れて走り出した。


 「よし、琥珀達の為に道を作れ!!!」

 「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 戦っていた冒険者達は先程の咆哮に負けないくらいの雄叫びを上げてゴブリンの残党に襲い掛かると、その勢いに圧され最前線へと繋がる真っ直ぐな道が出来た。

 

 「ありがとう、おじ様!!!!」

 

 シャーロットのステータス上昇効果は此処までである。

 去り際にシャーロットが叫ぶと戦っている冒険者達は更に大きな雄叫びを上げ、依然と変わらない猛攻をゴブリン達へ仕掛けた。

 

 「アルセリエ、最前線の戦況を教えてくれ!」

 「はい! 周囲の敵はこの巣の主一体のみ、冒険者の方々は6名中3名が気絶状態になっています!!

  どうやら戦いの方は両者動かず硬直状態になっている模様です。」


 走りながらアルセリエは答える。

 それは好都合だ。残念ながら今の余力では討伐までは厳しいだろうからな。

 戦いを長引かせるのも良くないので、ここからはシャーロットの力に頼らせて頂こう。


 「シャーロット。」

 「何かな琥珀さん!!」

 「お前の切り札、変身に掛かる時間を教えてくれ。」


 戦い始めてからずっと声を発していたにも関わらず、何事も無かったかのようにシャーロットは答える。 

 

 「10秒…もあれば大丈夫だと思う。」

 「10秒か、それなら。」


 アルセリエは俺とシャーロットが何の事を話しているのか分からないのか、頭の上に疑問符を浮かべているが聞くより見た方が早いだろう。


 「合図して俺とアルセリエが飛び出したら変身を始めてくれ。

  そうしたら冒険者達と協力して敵の隙を作る。そこを一撃で決めてくれ。」

 「任せて!!!!」


 アルセリエも切札の正体が分からずともその言葉に頷いて同意する。

 シャーロットの力ならばこんな段階を踏まずとも倒せそうではあるが、念には念を入れておくべきだろう。

 確実に、一撃で、迅速に葬って貰う為にはな


 「それじゃあ行くぞ!!」

 「「はい!!!」」


 前方で冒険者達が戦っているのがしっかりと見える距離。

 一つの合図で俺とアルセリエはシャーロットを置き去りに飛び出した。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇



 「クッソ、勘の良い奴め!!!」


 シャーロットからの援護が止まった事を察知したこの集落の主はこの千載一遇の好機を逃す事は無かった。

 傷だらけの肉体を無視して大剣の冒険者に向かって駆け出すと自慢の大剣を振り被った。


 「そうはいかねえ!!!!」

 

 シャーロットがこのタイミングで援護を切ったとするのなら2パターン理由が考えられた。

 1つはシャーロット本人が死んでしまった、若しくは怪我を負って歌が中断させられた場合。

 大剣の冒険者は自慢の大剣を地面に突き立て、盾代わりに攻撃を防ぐと大剣から手を放してゴブリンを殴りつけた。

 

 「―――そして二つ目は、テメェをぶっ倒す時だ!!!」

 「グ、グァッ!!!」

 「お前等、シャーロットちゃん達が来る前にやっちまうぞ!!!」

 「「応!!!」」

 

 殴られて怯んだゴブリンの背後から残った冒険者二人が獲物を構えて迫る。

 

 「グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 「なっ!!!」

 「ぐぁっ!!!!」


 主は咆哮を上げると、怯んだ身体を無理矢理急停止させそのまま反転、背後に迫った冒険者達に向かって乱暴に大剣を薙ぎ払った。

 背後から迫っていた冒険者二人は各々の武器で防御は出来たものの、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

 「大丈夫かテメェ等!!」


 吹っ飛ばされた冒険者達は武器を杖代わりにフラフラと立ち上がる。

 防御したにも関わらずこのダメージ、直撃していたらどうなっていたか分からない。

 この巣の主は既に死に体。そうにも関わらず未だ衰える所か上がっているそのパワーと執念は敵ながら称賛すべきだろう。


 「グァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 「くっ!!!」


 主は正面に向き直ると間髪も入れず大剣を振り被り襲い掛かる。

 無我夢中で眼の前の敵を排除せんと、自慢の大剣を振り翳すのだ。

 

 「なんっ、つう力だよ!!!」

 「アアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」

 「オラァ!!!!!」


 大剣同士が激突し、両者の気迫は一歩も引かぬ激しい剣戟が繰り広げられる。

 それでも大剣使いの冒険者と死に体であるこの巣の主、その打ち合いは互角に見られたが徐々に徐々に冒険者の方が圧され始めて行く。

 現時点での互いの実力差で言ったらそれは僅差な物だろうが、その僅差こそが勝負を決める鍵だ。

 小さな力の差は時間が経つに連れ少しずつ劣る者を死に近付ける。

 

 互いに打ち合った数は十と少し。

 既に冒険者は防御に入り、攻めの手を出せずに居る反面この巣の主は一方的に大剣を振るいその眼には既に勝利の二文字が見えていた。

 

 「くっ…そ!!」


 苦し紛れに繰り出した切り上げは軽々と撃ち落され、大剣は冒険者の腕からポロリと離れてしまった。

 最後の藻掻きも目の前の敵は軽々と凌駕してみせたのだ。

 剣を打ち落とされ痺れた腕を掴んで膝をついた冒険者に敵は大剣を引き摺りながらゆっくりと近づいていく。

 冒険者の前まで歩を進めると、まるで相手を称賛するかの様に巣の主はゆっくりと大剣を振り被った。


 「クソ…ここまでかよ。」


 勢い良く振りぬかれた凶刃。

 大剣の冒険者は間に合わなかったと、助は来ないと完全に理解し眼を閉じた。

 

 「―――まだ諦めるのは早い。」


 聞き覚えのある声が大剣の冒険者の耳に響く。

 覚悟した凶刃は一向に俺を切り裂く事は無かった。

 眼を開けるとゴブリンが振るおうとした大剣はその穴に一振りの剣を撃ち込まれ一人の青年によって止められていた。


 "我は水玉の三珠を以て、暗雲を突き晴らす"


 「突き穿て―――」

 

 何事かと驚愕した主の背後から更に声が発せられる。

 首を曲げて急いで振り向いて見せるが、それでは"間に合わない"。

 

 「アクアランス。」


 その言葉と同時に一本の水の槍が敵の身体を貫いた。

 

 「グ、グボァ…アァァァァアアアアアアア!!!!」

 「シャーロットォ!!!!」

 

 男の口から勝利の女神の名が紡がれる。

 

 「これで、終わりだぁぁぁああああ!!!」


 一瞬にして武器と身体の自由を奪われた敵へ断罪が降る時が来た。

 桃色の衣装に身を包んだ少女が空を飛びその手に持った白銀の剣を振り翳す。


 「グァ―――」


 この巣の主は悲痛な咆哮を上げようとするが、その声が轟く事は無かった。

 シャーロットの剣は易々と主の身体を両断したのだ。

 振り下ろされた剣から放たれる攻撃は大剣の冒険者も初めて見る規模の攻撃だった。

 振り下ろされた剣でこの巣の主はあっさりと頭部から両断され絶命したが、普段の様に辺りごと吹き飛ばす事は無かった。

 魔力も威力も収束され、敵を倒すのみで留まっているのだ。

 弱い攻撃などとは決して思わない、推測するに莫大な力を極限まで圧縮し切れ味のみ振った研ぎ澄ました鋭い一撃なのだろう。


 「大丈夫、おじ様!!!」

 「あ、ああ…助かった。」

 

 シャーロットは心配そうな顔をしながら地上に降りて冒険者を気遣った。


 もう何十年もこの街で冒険者をして来たが、毎度この一撃を見る度に委縮してしまう。

 きっと俺が生涯を賭してもその領域に辿り着く事は無いだろうと言う、間違いの無い事実を突き付けられる。

 他の二人にしてもそうだ。

 一人は敵中に飛び込んで魔法使い共を殲滅出来る程の実力を持ち、その従者もこの歳で既に魔法を習得しその上忠心、勇敢と来た。

 この二人は新人でありながら既にこの街の他の冒険者達から一つ頭抜けているのだ。


 「最近の若い奴等は頼もしいねぇ…。」

 

 大剣使いの冒険者の頭の中には様々な考えが過るが、開口一番に出て来たのは感嘆の言葉だった。

   

 「琥珀様、彼方ももう終わった模様です!!!」  

 「…それは、良かったな。」

 「琥珀様!!」


 どうやら向こうの戦いも終わった様である。

 俺は戦いが終わったと聞いた瞬間身体中から力が抜けて思わず倒れ込んでしまう。

 自身が思っていた以上に戦いで消耗してしまっていた様だ。

 アルセリエが心配して寄って来るが手を軽く振って大丈夫だと伝えると、心底安心して胸を撫で下ろした。

 

 「琥珀様、シャーロット様の先程の攻撃はどう言ったモノなのでしょうか?」


 ああ、やっぱり気になるか。

 アルセリエはシャーロットの"歌姫"と言う部分しか知らない。

 三人で狩りに出た時も何方も使わず、ずっとナイフ一本でシャーロットは戦っていたので語る事も無かったのだろう。


 「アルセリエ、シャーロットの職業が歌姫である事は知っているな?」

 「はい、それはシャーロット様から直接伺っています。神様からの授け物だと言う事も…。」

 「実はそれは正解であって正解ではない。」

 「…?」

 

 アルセリエは俺が何を言いたいのか分からないのか疑問符を浮かべて首を傾げる。


 「シャーロットの職業は"歌姫"、そして"魔法少女"で構成された二面性の特殊職だ。」

 「まほーしょーじょですか?」

 「まぁ、俺が居た世界に存在していた創作物の1つだとでも思ってくれればいい。

  彼女の魔法少女の場合時間制限ありきではあるが、変身時絶大な戦闘能力を発揮する。

  "歌姫"がサポート、"魔法少女"が攻撃。そう考えれば相違ない。」


 そう言ってシャーロットの姿を指差すと、丁度時間切れなのか変身が解けながらゆっくりと地に落ちていく姿が見えた。


 「あ、本当です。莫大だった魔力がどんどん弱まっていくのを感じます。」

 「あの通り、制限時間に達するとまともに動けなくなるらしい。」

 

 完全に変身の解けたシャーロットは地面に座り込むと、俺の方を向いて両手を広げ始めた。

 どうやら運んでくれと言っている様だ。

 

 「全く世話が掛かるな…。俺もヘトヘトだと言うのに。」


 膝に手を付いて立ち上がるとゆっくりとシャーロットの下へ向かった。

 

 「あ、あれっ?」

 「琥珀様!?」

 「―――よっと。」


 一歩を踏み出すと景色が歪み、ふら付いて倒れそうになる。

 アルセリエが慌てて支えようと手を伸ばすが俺を受け止めるのは無謀だろう。

 ゆっくりと傾いていく景色を眺めながらそんな事を考えていると、俺の身体を支えたのは大剣の冒険者だった。


 「まだまだ手が掛かるな、若ぇの?」

 「…五月蠅い。」

 

 大剣の冒険者は上手く力が入らない俺の身体を引き上げて上空へ放る。

 冒険者の足元でワタワタしているアルセリエを傍目に俺は浮遊感を味わうと冒険者の肩の上に着地した。

 所謂肩車である。


 「お、おい。俺はそんな歳じゃ―――」

 「功労者はされるがままにされてろ。どうせ上手く動けやしねえんだろ?」


 俺は図星を突かれて黙る。

 正にその通りであるがこの歳になってまで肩車はこっ恥ずかしい。

 シャーロットの方を見ると彼女もバインドから起き上がった冒険者達に持ち上げられまるで運動会の騎馬でも組んだかの様に恥を晒していた。

 …と思ったが、シャーロットは案外満更でもない様だ。


 「魔石と素材の回収は大方済んだぜ!」

 「でかした!!」


 何と言う早業、冒険者歴うん十年は伊達ではないな。


 気付けば全ての冒険者が周りには集まっていた。

 見渡せば誰一人として汚れていない者はいない。

 傷ないし泥ないし、誰しもどこか勝利の勲章を残していた。

 

 戦いの後、死骸は集められ集落の中心で魔法にて処理された。

 普段とは違い流石にこの量になると森に何かしらの影響を残しかねないので残して置く訳には行かないらしい。

 処理が終わると俺とシャーロットは担ぎ上げられたまま帰路に着かされる。

 しかも他の冒険者達に囲まれ、多数の護衛付きである。


 それにしても…。仕方なかったとは言え、今回はとんでもなく目立ってしまった。

 今後の事に頭を悩ませていると何時の間にか隣の斧の冒険者の肩に担ぎ上げられていたアルセリエは俺の悩んだ顔を見て首を傾げるのみだ。


 「よっしゃあ、帰ったら祝勝会だオメェ等!!!!」

 「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」

 

 おっさん冒険者達の歓声を他所に今更後悔しても仕方が無いので、俺は思考を諦めゴブリンの巣を後にした。



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