【特殊討伐依頼Ⅰ】
「おぉ…。」
「どうだい、大したモンだろう?」
防具の作成を頼んだのは二日前の事だが、ゴークさんが二晩でやってくれました。
「態々ギルドまで届けてくれるとは思わなかった、感謝するよ。」
「やーねぇ、私と琥珀ちゃんの仲じゃない!!本当は後で宿に届けようと思っていたのだけれど、今朝ちょっとした情報を手に入れて琥珀ちゃんが入用になるかもって思って急いで持って来たのよ。」
今日はシャーロットと狩りに出掛ける予定の日だ。
俺とアルセリエはシャーロットと合流する為、宿を早目に出ると冒険者ギルドに向かった。
すると、一足早く来ていた冒険者達はギルドの中に集められ毎朝行われている依頼の争奪戦は行われてはいなかった。
他の冒険者に何かあるのかと聞いた所、"魔物の巣"が見付かったと言っていた。
これからシエロの冒険者総出でその巣の駆除をしに行く所らしい。
こう言った魔物の巣は時折発見され、国とギルドからの依頼なので手の空いている冒険者はほぼ強制参加。
報酬は高いものの危険度が高く、普段少人数での戦いに慣れている冒険者達の中には大怪我をする者も居ると言う。
そんな中、ゴークさんは俺とアルセリエの為に魔物の巣が見つかったと言う噂を聞きつけて態々早朝の冒険者ギルドまで作りたての防具を届けてくれたのだ。
まぁ、ギルドの中へ俺の名前を叫んで入って来たゴークさんの姿を見た他の冒険者達の顔は引き攣っていたのだが。
「アルセリエ、大丈夫か?」
「はい、思ったより重くは無いので動きには問題は無いと思います。」
その答えにゴークさんは厳つい顔を笑顔で染める。
しかし、上手い造りになっている。細かく分解出来る造りで服を脱がなくても簡単に装着する事が出来る様に設計されている。
手甲もゴツゴツしさを感じさせず、指先まで不自由する事は無い。
「琥珀さーん、アルセリエちゃーん!!遅れて御免なさ―――あ、ゴークさんだぁ!!」
「あら、シャーロットちゃんじゃないの!」
俺達が防具の具合を試していると今度は少し遅れてシャーロットがギルドに顔を出す。
ゴークさんの姿を見たシャーロットは笑顔で挨拶を交わすとゴークさんとハイタッチを交わした。
「もしかして琥珀さんとアルセリエちゃんの付けてる防具ってゴークさんに作って貰ったの!?」
「ああ。」
「それじゃあ、私とお揃いだね! 私もこっちに来た時、ゴークさんに防具を作って貰ったんだ!!」
そう言って嬉しそうに真っ白に染められた手甲をチラリと俺達に見せた。
「あらいけない、店を空けたままだったわ!
私は帰るけれど、三人共頑張って来て頂戴ね!!」
「届けてくれて助かったよ、有難う。」
「いいのよ、私と琥珀ちゃんの仲じゃない!!」
ゴークさんは俺達にウインクをすると作業エプロンを靡かせてギルドから去って行く。
もう慣れた俺やアルセリエ、初めから何も思っていないだろうシャーロットを除いた他の冒険者達はゴークさんのウインクを受けて戦いを前にして致命傷をくらっていた。
「それにしても今日は騒がしいね、何かあったの琥珀さん?」
「魔物の巣が見付かったらしい、これから冒険者総出で駆除に向かう所だそうだ。」
俺がそう伝えると、シャーロットは『なら、丁度良かったね。』と答えた。
こう言う大所帯での戦いとなればシャーロットの歌姫としての能力は真価を発揮できる。
それこそ個々の力が強化される事により大怪我をする可能性もぐんと減るだろう。
「シャーロットさん、お待ちしていました!!」
何時の間にか集まり切った冒険者達の脇からミラが走って此方に向かって来る。
「おはようミラ。」
「おはよう御座います。」
「あ、おはよう御座います、琥珀さんアルセリエさん。」
「どうしたのミラ?」
肩で息をするミラが落ち着くまで待っていると、ミラはシャーロットの肩を強く握った。
「琥珀さんが今日シャーロットさんが来られると言っていたので、魔物の巣の駆除依頼を今日まで待っていたんです!!!」
「は、はい…。で、でも私の事を待たなくても別に倒せるんじゃ―――」
「この街の冒険者の数を万が一にも減らす訳にはいかないのです!!!」
鬼気迫るミラの顔にシャーロットは若干引き気味だ。
「シャーロットさんもいらっしゃったので、本日の特別依頼の説明を致します!!!」
ミラはシャーロットの肩から手を放すと、振り返ってギルドの中に響く声で依頼内容の説明を行う。
「つい先日、この街を正門から出て森の中から北東に1時間行った場所にゴブリンの集落が確認されました。
ゴブリン達の数は100前後。中には数体魔法を使う個体も確認され、統率が取れている事を見るに上位個体が存在している可能性があります。
集落はまだ大きい物とは言えませんが、ゴブリンは繁殖力の高い魔物で放置すればこの街だけでは手に負えない程の数に規模が膨れ上がるのは明白。
ですので、数が少ない今の内に叩くべくシエロ国王バレス並びにシエロ冒険者ギルドから冒険者の皆様に特別討伐依頼を依頼致します!!!!」
ミラが依頼内容を説明し終わると、周りから各々の武器を持ち上げて野太い歓声が上がる。
「有難う御座います!!
それではいつもの様に近接武器の方は前線に、その他の方々はシャーロットさんを中心に後方支援に回って下さい!!
準備が出来た方は正門に!!」
そこまで言うと冒険者達は各々出発の準備を始める。
ミラは一息つくと、俺達の下にやってきた。
「琥珀さんとアルセリエさんは初めてですから、二人で遊撃に回って下さい。それと出来るだけ皆さんと離れない様に…。」
「ああ、分かった。」
本当は俺を前線に、アルセリエを後方に下げるのがギルドの采配としては正解なのだろう。
だがミラはそうは言わなかった。それはきっと俺の傍に居たいと思うアルセリエを思い、それ以上に俺の実力を過大評価しているからだろう。
ミラはそれだけ言って俺達の前を去った。
「ただの狩りの予定が大きく狂ったな。」
「本当にねぇ。アルセリエちゃんも危なくなったら後ろに下がって来ていいからね?」
「私は琥珀様の従者ですから、琥珀様が下がらないのなら私も下がりません!」
アルセリエはいつも通りだ、その覚悟があるのなら大丈夫だろう。
俺は鞄の中を確認する。
最後にポーションを買ったのはアルセリエを手に入れた日の帰りに買った6日前。
最近は迷宮に潜ってばかりなので全く減ってはいないが、大掛かりな戦いと聞いては万が一もあるかもしれない。
アルセリエに持たせてある分も考えると買い足して用心しておくことに越した事はないだろう。
「アルセリエ、シャーロット、正門へ行くついでにポーションを買い足しておこう。」
「はい、琥珀様!」
「私も賛成!!」
俺達はゾロゾロとギルドを出て行く冒険者達に連なってギルドを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇
正門に集まった冒険者20数名、それがシエロを拠点に活動する冒険者の数だ。
他の街がどうだかは知らないがいざ集まってみれば壮観である。
ギルドから正門までの道に点在していた雑貨屋からポーションが売り切れ、噂を聞きつけた街の人々は討伐に向かう俺達冒険者を"頑張ってこい"と言って背中を押してくれるが何処かむず痒い。
アルセリエはさも当然の様に受け止めて何も動じず俺の隣を付いて来るし、シャーロットなんて元気に手を振り返している。
「そういや、琥珀は魔物の巣に行くのは初めてだったか。」
「あ、ああ。」
丁度隣に来て肩を抱いてきたのは騎士団との一件でやられていた冒険者だ。
「こう言うのは堂々としてりゃいいんだよ、変に気張ったら戦いに支障が出ちまう。
それこそ、俺を助けてくれた時みてぇに気丈でいたらいい。」
「そう言う物か…?」
「そう言うモンだ。俺達は冒険者、善く言われる時もありゃ悪く言われる事もあらぁな。
だから、善く言われた時くれぇ素直に受け取ったらいい。」
流石は年の功と言う奴か、受け止め方が俺とはまるで違う。
「幾分、楽になった。」
「そうかい。」
ニンマリ笑って答えた先輩冒険者と共に俺は集合場所である正門に差し掛かる。
その先には殆どの冒険者が既に揃っており、俺達が来るのを今か今かと待っていた。
「どうやら俺達が最後の様だな…。」
「その様だ。」
「急ぐぞ、シャーロット!」
未だに手を振っていたシャーロットに声を掛けて、俺達は冒険者達の下へ急ぐ。
「すまない、遅れたか。」
「遅ぇぞ、お前等! もう少しで出発する所だったぜ…。」
「何言ってんだ、さっきまで新人冒険者に俺がイロハを叩き込んでやるとか言ってた癖に。」
「あ、テメェ―――」
「琥珀の方がお前より強いんだから、お前が叩き込んで貰った方がいいんじゃねえのか?」
「オメェまで!!」
俺達が合流すると以前シャーロットと二人で狩りに行った時の三人組がコントを繰り広げていた。
「よし決めた。琥珀、お前とアルセリエちゃんは前線組に入れ!!
俺達先輩冒険者が守ってやるぜ!!」
大剣の冒険者がそう言うと、周りの冒険者達も武器を振り上げて力を誇示して見せる。
「そんな事言って、逆に助けられなきゃ良いけどな。」
「「アハハハハッ!!」」
弓の冒険者のヤジが飛び、周りが笑いに包まれた。
「よっしゃ、それじゃあ行くか!!!」
先程まで笑われていた大剣の冒険者は落ちた肩を持ち直し先頭に立って俺達他の冒険者を先導する。
「なぁ、シャーロット。何時もこうなのか?」
「うん、そうだよ! 前までは若い冒険者が女の私しか居なかったけど、琥珀さんとアルセリエちゃんが来たせいで更に面白騒がしくなったかも。」
俺が来る前からこうなのか。
まぁ楽しいのは愉快なのは事実だから悪い気は全くしないが、戦いを前にしてこれはどうだろうか。
「帰ったら酒盛りだぞ琥珀。」
「酒盛りが終わったらお気に入りの店に連れてってやるぞ琥珀。」
「それはダメです!!!!!」
周りの冒険者が俺を捕まえて戦いの後の酒盛りの話を振って来るが、更にその後の話はアルセリエの声によって遮られた。
アルセリエは顔を真っ赤にしながらも"ダメですダメです…"とうわ言の様に呟きながら俺と他の冒険者の間に立っている。
「ち、ちちち、違うんだぜ! 美味しい酒が飲める店があるんだ、アルセリエちゃんが考えてる店には絶対連れて行かねえから!! な、お前等!!」
「そ、そうだな!! そんな店はまだ琥珀には早いからな!!!」
「そうだそうだ!!!」
まるで娘に嫌われそうになるお父さんの様な反応に思わず吹き出しそうになった。
だが俺も男、折角の話が白紙に戻り少しだけ勿体ない気分になる。
「琥珀さーん、今の残念そうな顔は何ですかぁ?」
「ヒッ!?」
シャーロットが俺の側面に周り、肘を俺の肩に乗せると首を傾げて問いかける。
俺を見るその眼はまるで魔物を解体している時の様にハイライトが消えていた。
「あ、あはははは、そ、ソンナカオシテマセンヨー。」
「…。ならいいや!」
シャーロットは俺の肩から肘を降ろしていつもの笑顔を向けてくれる。
だが、俺はその眼を生涯忘れる事は無いだろう。
「馬鹿やってないで急ぐぞー!」
「はーい!!!」
先頭を歩いている人達からヤジが飛んで来ると、漸く俺達が遅れている事に気付く。
シャーロットは大きく返事をすると、アルセリエと一緒に前方に走って行った。
「「…女ってのは怖ぇな。」」
俺を良からぬ店に誘った二人はその声をハモらせて俺の両肩を抱く。
正直、その意見には激しく同意をせざる得ないだろう…。




